2011年6月28日火曜日

パンダを飼いたい

#twnovel 娘にパンダを飼いたいとせがまれ困っていると、妻が助け船を出した。「普通の熊に色を塗ればいいのよ。子供だしどうせ分からないわ」なるほど。屋台で売ってたカラーひよこの要領だ。「ですから刑事さん、塗料缶を盗んだのは娘を思ってのことなのです。え、熊はどうする気だって?」

君がいなくなってから

#twnovel 君がいなくなってから1ヶ月が経った。あの晩、僕はヤケ酒をあおった。3日間は悲しみに打ちひしがれた。1週間は何もやる気が起きなかった。1ヶ月、ようやく君を思い出にすることができそうだ。君と初めて会った店で、僕は出逢ってしまったんだ。君とよく似た可愛い…子猫に。

靴下

#twnovel 「靴下に穴が空いちゃったんだけど、結構便利だぜ」「どうして?」「だって、爪を切るたびにいちいち脱がなくて済むし」「脱げよ」

スイカ

#twnovel 親父がスイカになった。「いい大人がタライで水浴びをするわけにはいかんが、スイカなら自然だろう」という言い分だ。そんな親父を羨ましく思いつつ僕は学校へ行く。帰宅するとタライに親父の姿がない。台所で母がスイカに包丁を入れていた。「刑事さん、これが父の失踪の真実です」

悲観

#twnovel 足元で小さくなってゆく地上を見下ろしながら僕は嘆いた。まだまだ人生でやりたいことが沢山あったのだ。こんなに早く死んでしまうなんて。「そう悲観することもないですよ」案内役の天使が囁く。「申請すれば、未使用分の寿命は還付されます。適用は来世になりますが」

2011年6月25日土曜日

平行世界では

#twnovel 「よう、俺」平行世界から別の自分が現れた。やけに身なりが良い。「事業が順調でね」こっちは失業中だというのに。「妻のお陰だよ」振られた元カノの名前が出てきて驚いた。「計画通り受け取った保険金を元に事業をはじめたわけだから……あれ、こっちじゃまだ生きてんの?彼女」

夢じゃなかった

#twnovel 目覚めると、憧れの彼女が隣で寝息を立てていた。良かった!昨夜のことは夢じゃなかったんだ。幸福感が僕を包む。このままずっと寝顔を見ていたい。窓からの爽やかな風に撫でられ、彼女が目を覚ました。喜びを噛みしめて頬が緩んだ僕を見て肩を落とす。「夢だったら良かったのに…」

述語

#twnovel 話が長すぎて何を言いたいのか分からない。先に述語を言ってくれ。「仕方ないわね。それで3日目の昼には冷やし中華が出たんですって。信じられる? てっきり抜糸までは流動食だとばかり…」待って、話が飛んだぞ。今度は何の話?「え、入院している友達の術後の話だけど」

2011年6月23日木曜日

季節外れの

#twnovel この時期に花を咲かせている季節外れの桜があるという。春に花見をし損ねていた私は、興味本位でその公園を訪ねてみた。「おや? 確かに桜の花のようですが、この木は桜ではありませんよね?」管理人は頷いた。「ええ。ボケの木です。かなり樹齢がいってます」

夏のせい

#twnovel そうだ、我慢なんてせずにすべてこの夏の暑さのせいにしてしまおう。仕事でミスをして同僚に八つ当たりしたのも夏のせい、ムシャクシャして塞ぎ込んだり暴飲暴食してしまったのも夏のせい。僕は何も悪くない。「私と出会ってしまったのも夏のせい?」ん? それは夏のおかげ。

妻との間で(3)

#twnovel 妻との間で意見の衝突が起こり、干渉材を入れることにした。口出しせずにいられない。「貴方がイカ嫌いってことは知ってるけど、このヤリイカは美味しいわよ。食べてみたら?」小皿に載った白い物体を恐る恐る口に運ぶ。「…うん」回転寿司で仲直りなんて、庶民的な夫婦だよ僕らは。

妻との間で(2)

#twnovel 妻との間で意見の衝突が起こり、鑑賞材を入れることにした。これからはお互い相手を眺めるだけだ。気楽にはなったが、何か物足りない。「だけど嫌な思いもしなくて済むじゃない?」その微笑みは恋人同士だった頃と変わらない。ただ、僕が彼女の柔らかい肌に触れることはもうない。

妻との間で(1)

#twnovel 妻との間で意見の衝突が起こり、感傷材を入れることにした。「ごめん。君がこんなに心を痛めていたなんて知らなかった」「私も。貴方が背負った重荷に気付いてあげられなかった」僕たちは互いに慰め合った。お互いを見つめ感傷に浸る毎日。衝突は起こらないが何の進展もない。

彼女の欠片

#twnovel 彼女の欠片を拾った。全て揃えると憧れの彼女が手に入る。僕は学業そっちのけで毎日探し続けた。就職もせず、同窓会の通知に返事もせず何年も彼女の欠片だけを追い求めた。そしてついにすべてが揃う日が訪れた。「発掘の成果に水を差すようで悪いんだが、あの恐竜はオスだってさ」

氷の家

#twnovel 氷で家を新築した。空気の流れを工夫することで、エアコンはおろか冷蔵庫すら不要になる画期的な構造が自慢だ。これからの季節にうってつけのエコ住宅、私はこの家で夏を快適に過ごしている。ある日、涼みに来ていた友人が言った。「冬、どうすんの?」

冷やし

#twnovel 「ねぇ大将、最近は冷やしラーメンに冷やし茶漬け、冷やしカツ丼なんてのまであるらしいね。だけど、そこをいくと俺なんかは冷やしの先駆者だぜ。職場じゃ上司にずっと冷や飯を食わされてるからね…って大将、チャーシューがやけに多くない?」「食ってください、サービスです」

#twnovel 一時は溢れんばかりの水をたたえていた泉も、連日の猛暑のためか底が見えてきた。水不足を懸念した人々が社に集まり祈祷する姿を、神は呆れながら見下ろした。「底が見えているのは悲しみの泉じゃ。困ることなどあるか。まぁ、ちと急過ぎたかの」下界に爽やかな風が吹いた。

UFO

#twnovel 突如出現したUFOは世界各地の上空を飛び回り、やがてとある都市に着陸した。各国の要人が直ちにその都市に駆け付ける。全世界が固唾を呑んで見守る中、現れた宇宙人は無数のフラッシュに包まれながら静かに口を開いた。「すみません。田舎に泊まろうという番組なんですが…」

無くなっている物は

#twnovel 実況見分が終わると、刑事さんは私の顔をまじまじと見た。「小銭の入った財布の他に、無くなっている物はないのですね?」汚い部屋を見渡して私は頷く。よりによってこんな貧乏学者崩れの部屋に泥棒に入るとは。「酷いな。博士の地位と実績、人生丸ごと盗まれたときた」何だって?

CG

#twnovel 妹がCGになった。「理想のプロポーションを実現出来るから」と笑って。続いて父が「満員電車に乗らずに一瞬で職場に行けるから」と、母が「家族の食事を作らずに済むから」という理由でCG化した。一人残された僕は今日も部屋に籠もり、ディスプレイ越しに家族の世話をしている。

青春の味

#twnovel 焼きそばUFOは青春の味と言うが、青春はUFOの味とは比べものにならない。それを知ったのは中年を迎えてからのことで、遅れてきた青春を初めて口にしたときだった。「奥さんの手料理がカップ麺より不味いからって文句言うなよ。お前が結婚できた事自体が奇跡なんだからな」

暑さで…

#twnovel 暑さで隣の奥さんが溶け出した。あ、と思う間もなく、私も足元から溶け出した。テレビではアナウンサーがカメラの前で既に液体化している。職場の夫の顔がふと浮かんだ。流行に疎い彼のことだから、この暑さでも溶けていないかもしれない。帰ったら教えてあげなくちゃ。

リセット

#twnovel 疲れ切った人生をリセットしてみた。最高の可能性を秘めていた頃に戻れるという。秀才で通用した小学生の頃だろうか、それとも部活に打ち込んだ中学生の頃だろうか。いくら待っても何も変わらない。装置の液晶表示は今日の日付で停止していた。泣き笑いの情けない顔が鏡に映った。

進化の頂点

#twnovel 「地球上に発生した生物の進化の頂点に、我々人類は存在するわけだ。この地位を揺るがす存在を認めるわけにはいかない。例えば宇宙人などはね。適当なものに置き換えて、なかったことにしたいのさ」「代わりに置いた空き缶がその気になっている国があるけどな」

雑踏の中で

#twnovel 駅前の雑踏の中で見覚えのある姿を見掛けた。急いで駆け寄ったがその背中は既にない。振り返り、先程まで自分がいた場所を確認する。ぼんやりとこちらを見ている自分がいた。その視線が驚いたように僕を捉える。僕は雑踏の中に逃げ込んだ。

八百屋のおじさん

#twnovel 手酷い失恋をした私の元に八百屋のおじさんが来た。悲恋の情を譲ってくれと言う。意味の分からないまま頷く。心なしか気持ちが晴れた。だけど私の感情はどこへ行ったの?「下手な役者が欲しがるんだよ」おじさんは副業で感情売りをしているそうだ。謝礼として大根を受け取った。

夢の中で

#twnovel 夢の中で私は、子供の頃住んでいた家にいた。自屋に足を踏み入れる。ここは私の潜在意識の中だと直感した。学習机の上には1冊のノート。潜在意識で私は何を綴っているのだろうか。興味を抑えきれずに開いてみると…「あんみつ」と書かれていた。「それって善哉意識ってオチ?」

2011年6月19日日曜日

資格

#twnovel 気まぐれで冷やし中華を作ったが、とにかく不味い。諦めて外に食べに出ようとすると、背後から冷やし中華に呼び止められた。「ふざけんな。誰が作ってくれと頼んだ?」悪かった。俺に料理をする資格なんてなかったな。それ以来、俺は料理をしていないんだ、大将。「へい、お待ち」

ニシムラさん

#twnovel ニシムラさんは、ひたすら西を目指して旅をしている。「西には何があるんですか?あなたの故郷?」彼は寂しそうに微笑んだ。「私の故郷はずっと東にあります。もう帰ることは出来ないかもしれない」西に何があるかは分からない。そう言って彼は旅立っていった。振り返りもせずに。

止まない雨は

#twnovel 止まない雨はない。などと一体誰が言い出したのか。雨なんていつかは止むに決まってる。気まぐれな気象と目の前に立ちはだかる現実とは関係がないのに。今日も僕は辛い現実と向かい合う。雨に紛れて泣けば気付かれずに済む。止まない雨はない。…思い出した。君が好きだった言葉だ。

2011年6月15日水曜日

3.11 心に残る140字の物語



本日6/15日に学習研究社から発売された「3.11 心に残る140字の物語」に、拙作が収録されています。

この本は、作家の内藤みかさんが3.11の震災後、Twitter上に寄せられた心温まる小さな物語を個人的に集めはじめたことをきっかけに生まれました。

厳選された100編の小さな物語が、5つの章に分けて収録されています。
仙台で被災した自分にとって、このような企画に参加できたことを嬉しく思います。
印税は全額チャリティーです。
書店にお立ち寄りの際にでもご覧いただければ幸いです。

自殺?

#twnovel 目覚めると部屋の中で私が死んでいた。私が殺したのだろうか?これも自殺と呼べるのか?自殺が罪ならば、私はどれほどの報いを受けるのか。二人殺したら死刑等というガイドラインが存在するのだろうか。そのうち出勤時間が過ぎてしまった。すみません。自殺したので今日は休みます。

前借り

#twnovel 「係長、新婚旅行休暇を取りたいって、君はいつ結婚したんだね?」「いえ部長、予定すらありません。申請したのは新婚旅行休暇の前借りです」「悪いが、私が認めるわけにはいかんな」「何故です?」「前借りしていた部長職の期限が切れるからな。明日からは君の下で働く平社員だ」

あれから

#twnvday あれからというもの、僕は必死に君の姿を探し続けた。駅前の雑踏、お気に入りのカフェ、海岸沿いの公園、そして最後の思い出になった映画館でそれを知った。一緒に観ようと約束していた新作映画。チケットを二枚購入して僕は席に着く。まだしばらくは、このままでいさせて欲しい。


 【毎月14日はツイノベの日! #twnvday お題「あれから」】

夏を前に

#twnovel 夏を前に、政府は気象用語の適用温度を見直すことを閣議決定した。夏日がこれまでの最高気温25度以上から30度以上へ、真夏日が同じく30度以上から35度以上へそれぞれ引き上げられる。これにより、猛暑と予測される今年の夏における夏日と真夏日は大幅に減少する見込み。

あの頃は

#twnovel 誰しもが人生の中で、あの頃は良かったと思い振り返ることがあるだろう。それでは動物もそんな感情をもつのだろうか?自ら開発した万能翻訳機を我が家の犬に向けてみた。「この器にたくさんの餌が盛られていた頃が懐かしい…」なんと人聞きの悪い!夕食まで少し待ちなさい。

忘れ物

#twnovel 忘れ物が多い部下の扱いに困っている。家に持ち帰った資料など満足に戻したことがない。「ペットのウサギが食べてしまって…」そんな幼稚な言い訳が通用するとでも思っているのか。俺は毒性のある農薬を染みこませた資料を彼に手渡した。その夜、彼は救急車で病院に運ばれた。

#twnovel この世界には古来から白黒2本の巨大な柱が天に向かってそびえ立っていた。「白い方の柱が世界を支えていると言い伝えられているんだ」父親は幼い息子にそう説明した。「疲れたら黒い方が代わってあげるの?」息子が彼を見上げる。「いや、蹴落として自分の世界にするのさ」

2011年6月11日土曜日

自信

#twnovel 「君は娘との結婚を長いこと迷っていたそうだな」娘の父親は苦々しく青年を睨んだ。「ええ。定職に就いたこともない自分が家庭を築いていける自信がなかったんです」「そう言う割には、結婚前から子供を作るなど手が早いようだが」「ええ、そっちの方は自信がありますから」

2011年6月9日木曜日

恋のお守り

#twnovel 意中の相手を振り向かせる!「恋のお守り」が空前の大ヒット。開発者にインタビューしてみました。「以前開発していた別の製品がありまして。売れ残って大量に返品されたそれをお守りの袋に詰めてみただけなんですよ」「それはどんな製品なのでしょうか?」「勘違い誘発装置です」

2011年6月8日水曜日

日本印度化協会

#twnovel 差し出された名刺には「日本印度化協会」とあった。「失礼ですが…」男の視線が1Kの部屋に向く。「お昼はカレーですか?」ちょうど今、レトルトを器に盛ったところだ。「それなら結構です。ご協力感謝します」男が去ってから改めて食卓につく。何だよアイツ…あ、これハヤシだ。

後悔の念

#twnovel 老いさらばえた両手を見つめ、私は後悔の念にかられた。思えば無駄ばかりの人生だった。今度生まれ変わったら、短くとも太く生きよう。今世で叶えられなかった夢をこの手で掴むのだ。そして私は生まれ変わった。短く太い指をもって。…ピアニストになる夢は掴めそうにない。

2011年6月7日火曜日

冷やし中華風

#twnovel 「冷やし中華風、始めました」という看板に引き寄せられて店に入った。冷やし中華風ひとつと注文すると、いかつい店主にジロリと睨まれた。「冷やし中華風の、何にします?」メニューに目を向けるとそこにはイカ、豚、海鮮の文字が。「ウチはお好み焼き屋なんでね」え…。

熱いラーメン

#twnovel 「ねぇ大将」熱いラーメンを一気に啜って、男は額の汗を拭った。キッチリ締めたネクタイ、上着が暑苦しい。「ブームに流され、過ぎたら忘れる。俺は日本人のそんなところが嫌いなんだ。どうせ夏が過ぎたら誰もクールビズなんて言わなくなるよ。間違いない」そんなこと言われても。

応援

#twnovel 応援すると必ず負けるのでスポーツ観戦の類は控えていたのだが、困ったことに息子が野球部のレギュラーに選ばれた。私は試合のたびに相手チームを応援し、甲子園優勝を反対側のスタンドから見届けた。息子がプロに進んだ今も、全チームのユニフォームを取り揃えて応援を続けている。

世界の果てまで

#twnovel 世界の果てまで行って来たと告げると、友人は目を丸くした。「どんな風景だった?」「普通だよ。道があって船着き場があって」「船着き場なんてあるのか」「ああ、こちらの世界からは果てだけど、あちらの世界からは割と近場らしい。六文銭しか使えないみたいで乗れなかったけど」

2011年6月6日月曜日

黄昏どき

#twnovel その町の時間は黄昏どきに止められた。どこからか聞こえて来る豆腐屋のラッパ、銭湯の煙、家路に急ぐ子供達、全てが夕日に赤く染まっている。いつまでもこの幸せに浸り続けたい。人々の願いは聞き入られた。時を止めたこの町に夜は訪れない。そして、明日の朝日も昇らない。永遠に。

つけない麺

#twnovel 馴染みの店でつけ麺を頼んだが、麺しか出てこない。「大将、つゆがないんだけど?」「あ、それ『つけない麺』です。特別メニューですよ」そのまま食べてみたがちっとも美味くない。「つゆ欲しいんだけど?」したり顔で大将が言った。「ツケ払ってからにしてもらえます?つけ麺は」

カンブリア紀

#twnovel 時空間入替装置によって出現したカンブリア紀の生物たちを前に、博士は言った。「彼らは現在の生物の祖先だ。一匹でも殺したら、延長線上にある現在にどんな影響が現れるか…楽しみじゃないか?」博士は水槽に手を突っ込み、ナメクジの様な生物を握りつぶした。博士の姿が消えた。

プロポーズ

#twnovel 写真好きのN君は口下手な男だ。そんな彼のことを思い、彼女へのプロポーズの言葉を考えてあげたのだが、あえなく玉砕したという。「『おばあちゃんになった君の笑顔を撮りたい』ってちゃんと言ったのか?」「いや、うまく言葉がでなくて。『君の遺影を撮りたい』って言ったんだ…」

#twnovel 「バカ言うなよ、卵が先に決まってんだろ」「いや、鳥じゃないとおかしいって」「何、卵が先かニワトリが先かで揉めてんの?」「うん、客にスクランブルエッグを先に出すか、照り焼きチキンを先に出すかで意見が折り合わなくて」「いっそ親子丼にしてしまえ」

2011年6月4日土曜日

葬儀から帰宅すると

#twnovel 友人の葬儀から帰宅すると、当の友人がゲームをしていた。「お帰り。今日はありがとな」何してんだよ?「居場所ねぇんだよ。49日まで泊めてくれ」奴がいると冷房が要らないのは嬉しい誤算だった。夏休みに入り、友人は成仏した。浮いた冷房代は墓前に供えるスイカ代に消えた。

冷やし中華

#twnovel 「私を食べて」道すがら、冷やし中華に声を掛けられた。「暑いでしょ?こんな日は私を食べて元気を出して」麺の上に盛られたキュウリ、ハム、錦糸卵、それにトマトの色合いに目を奪われ、僕はむしゃぶりついた。「日替わりランチの展示品を食って腹壊したって?バカじゃねーの?」

夢の中

#twnovel 夢の中で出会った女性と恋に落ちた。現実の夫婦関係にトラブルを抱えていた僕は、夢と分かるや否や積極的に愛を育んだ。夢の中で結婚し、新たな家庭を持ったが、しばらくするとこちらでも夫婦関係がギクシャクしてきた。今でも毎晩彼女の夢を見る。寝ても覚めても逃げ場がない。

メルマガ

#twnovel 内気な彼は担任の先生の勧めでメルマガを発行し、クラスの皆に自分の意見を伝えていた。それは卒業後も続いた。就職した、結婚した、子供が生まれたと綴られた。仲の良かった友達の近況は聞かないのに、彼の日々は毎日送られてくる。20年前のあの日、間違いなく埋めたはずなのに。

2011年6月3日金曜日

まずは…

#twnovel 霧の中を歩いていた。どこまで進んでも景色は開けない。ああ、これは夢だと気がついた。その証拠に、頬をつねっても痛くない。それどころかプラスチックのような感触がある。「先生、心の病ってやつでしょうか?」「そうですね。まずはバケツを被って寝る習慣を改めてみましょうか」

いつもの猫

#twnovel バス通りを奥に入ると、いつもの猫と目が合った。「兄ちゃん、今日もラーメンかい?毎日よく飽きねぇな」偉そうな奴だ。オマエにラーメンの味など分かるものか。「て言うか兄ちゃん、お目当ては店の娘だろ?」咥えていたネズミを俺の前に落とす。「まぁ頑張んなよ」いらんわい。

神様登場

#twnovel 「じゃん、神様登場」で、何?「少しは驚け。望みを叶えてやるから言え」んじゃ、掃除でもしてくれ。あと買い物も頼むわ。財布とエコバッグはそこにあるから。「…他に望みはないのか?」特にないけどさぁ~。そうだ、「若者の神様離れ」ってオチだけはやめろよ。恥ずかしいから。

ホシさん

#twnovel ホシさんは広いお屋敷に一人で住んでいる。「宇宙船を作ったんだ。今夜飛び立つつもりだよ。君も元気でな」数日後、彼は庭先で倒れているのを宅配業者に発見された。自身が作り上げた宇宙船に収められ、ホシさんは荼毘に付された。これで良かったんだ。そう思うと涙がこぼれた。

2011年6月2日木曜日

秘密

#twnovel 僕は良心の呵責に苛まれていた。「今まで黙っててごめん。実は結婚前から、何度かコピーロボットに僕の代わりをやらせてた」妻が目を丸くした。「え、あなたも!?」今度は僕が驚く番だった。傍らで小さな寝息を立てている娘の鼻をそっと押してみる。みるみるうちに人形に戻った。

串揚げ

#twnovel 「ねぇ大将。今日の串揚げ、いつもより小さくない? ケチってんじゃないの?」主人はサーバーを操作しつつ、にこやかに切り返した。「そんな事しませんよ。ただね、衣の厚みを変えてみたんですよ。衣替えってやつでね。…お待ち!」照れ隠しなのか、威勢良く僕の前にビールを置く。