2011年11月12日土曜日

野良

#twnovel コタツでミカンを食べていると、猫が入ってきた。友人は庭に面した大きな窓に手を掛ける。「逃がすの?」「野良なんだ。たぶん次は向かいの家に行くと思う」窓が開き、コタツはのっそりと部屋を出て行った。取り残された私たちは、猫で暖を取りながら二つめのミカンに手を伸ばす。

レール

#twnvel 枕木の音に揺られ、のどかな景色を眺める彼女に話しかける。「レールって、どうして2本あるか知ってる?」「1本じゃ不安定だから?」「違う違う。2本で支えれば、かかる負荷は半分になる。僕らもきっとそうなれるよ」「永遠に付かず離れずお友達でいましょうって意味?」

2011年11月9日水曜日

脱・街宣

#twnovel 熾烈なる選挙運動が火花を散らすなか、一切の街宣活動を行わない候補者が現れた。「勤務中の皆様のお仕事、あるいは夜間勤務の方々の安眠やお子様のお昼寝を妨害する選挙運動は、公害以外の何物でもありません」彼は無関心層の圧倒的な支持を受け当選。なんとも皮肉な事である。

あまいね

#twnovel 「遠恋中の彼女に、誕生日に何が欲しい?って訊かれたから、君が傍にいてほしいって答えたんだ」「あまいね~。それで?」「誕生日当日に彼女が俺の部屋にやって来て、蕎麦を煮てくれた」「壮大なギャグだな」「せめて茹でてほしかった。甘露煮だったよ」「あまいね~」

質屋

#twnovel 失恋のショックから立ち直れない僕は、張り裂けそうな感情を質に入れた。思い出を何もかも流してしまいたい。帰り際、すっかり心が軽くなった僕の背中を店の主が呼び止めた。「流さないでおくから、そのうち取りにおいで。何年か寝かせておくと程よい甘みが出てくるんだ」

覚えてる

#twnovel 何を思い出そうとしていたのか思い出せない。助けを求めに電話を取る。あれ、どうして電話を持っているんだ? 握りしめた自分の手を眺めてみても何も浮かばない。忘れても思い出そうとすることが脳の活性化に繋がるのですと昔テレビで見た。そんなどうでもいいことだけは覚えてる。

ヤブ夫くん

#twnovel ヤブ夫くんは常に大量の蚊に刺されている。その理由を訊いてみた。「生まれ変わりって信じてるか? あれって人間に生まれ変われるとは限らないんだぜ。前世での行いで順位が決まり、下位に沈むと下部に降格なんだ。俺は今入れ替え戦の最中なんだよ」応援を頼まれたが丁重に断った。

2011年11月1日火曜日

言わなくても

#twnovel 「言わなくても分かる」と「言っても無駄」は真逆のようでとても近い。言って何になるっていうんだ? 言ってもらわないと分からないじゃないの。分からないの? 分かるけど、でも言って欲しいよ。やっぱやめた。何、無駄だと思ってる? 違うよ、言うだけ野暮だと思ったんだ。

電池切れ

#twnovel 父が電池切れを起こした。新しい電池に取り替えると、彼は甲高い声で「初期値に戻しますか?」と喋った。「いいえ」と答えると「どの時点から再稼働しますか?」と聞いてきた。気を利かせたつもりで「一番輝いていた頃」と答えると動き出した。今の父は小学校入学以降の記憶がない。