2012年12月24日月曜日

ハザマさん Christmas Eve

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼にクリスマスの思い出を話した。あのね、子供の頃本当にサンタが来たんだ。壁を摺り抜けて部屋に入って、枕元にプレゼントをね。そこまで話すと彼はぷいと視線を逸らした。「起きてたのか」

ハザマさんスピンオフ

#twnovel このまま時が止まってしまえばいいのに。あの頃、夢中で過ごした幾つもの季節の中で、彼女はよくそんな言葉を口にした。俺は彼女のささやかな願いを叶えた。…今でも疑問に思うときがある。彼女はなぜ、自分が認識できない事を願ったのだろうと。「ハザマさん、考え事?」「いや」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、明日の健康診断は気を付けろと言う。そんなこと今さら遅いよ。こういうのは日頃からの健康管理なんだから。そう答えると彼は言った。「採血担当の看護師、明日が初日の新人だそうだ」

物忘れ

#twnovel 酷い物忘れを訴える私に、医者は記憶の容量が満杯だからですと言った。古い方か新しい方、どちらかから自動的に記憶を消す処置を勧められる。大切な思い出は失いたくないので新しい方から消してもらうことにした。私は見知らぬ医者と向き合っていた。すみません、ここはどこですか。

寒いから

#twnovel 寒いから冬は嫌い。僕がそう言うたびに彼女は口を尖らす。この季節ならではのメリットも沢山あるでしょ。するりと腕を絡ませてきた柔らかい香りにふと思い出す。初めて腕を組んだのもこの季節だったっけ。柄にもなく火照ってきた顔を見られまいと、僕はマフラーの中に顔を埋めた。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、来年のカレンダーをくれた。あれ、経費削減がどうのとか言ってなかった? めくってみると途中までしかない。何これ? そう尋ねると彼は目を逸らした。「だから、無駄は省いている」

今年も

#twnovel 今年もあとひと月だね。僕が首をすくめたのは風のせいか、それとも彼女の言葉に対してなのか。道ゆく誰もが急いでいるように見えるのは多分思い込みなのだろう。舞い降りた一片の雪に空を見上げる。今年もあとひと月だね。オウム返しに答えた僕を覗き込んで、彼女はクスリと笑った。

伝統の火

#twnovel 何百年でも鮮度を保つ進化した冷凍食品は、高級料亭もこぞって採用した。「このままだと調理文化は絶滅だ。どうしてくれる!」リストラされた料理人が開発元に怒鳴り込んだ。「心得ております。我々とて伝統の火を消したくはない」彼らは料理人を縛り上げると冷凍庫に放り込んだ。

退重計

#twnovel 「退重計」に乗ると体重が減る事に気づいて以来、毎日乗っている。太ってた私が必死のダイエットで手に入れたスリムな身体。気の緩みのリバウンドが情けない。しかし、やがて体重は増え始めた。減らすのではなく昔の体重に戻る器械だと知ったのは、鏡の前で懐かしい姿と再会した時。

2012年11月24日土曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が赤信号を見落として車にはねられる未来を見てきたと言う。どうして注意してくれなかったの? 問い詰める僕に彼は言った。「ちゃんと言ったはずだ。道路向かいの美人のこともな」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が商店街の福引き券をくれた。引いてこいと言う。わざわざくれるってことは、当たるってことだよね? そう尋ねると彼はキッチンの流しを指して言った「あと2巻きでラップが切れる」

契約は

#twnovel 契約は絶対だよと悪魔は言った。僕は一生涯の幸福を手にし、魂を手放す。あまりにも累計的やしないかい? 訊ねた僕を彼は笑う。そっちだって。長い年月が過ぎ、悪魔が催促に訪れた。君との契約は不幸な出来事だったよ。僕の告白に彼は地団駄を踏む。契約は絶対だよと僕は付け足す。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、酒屋に行かないのかと聞いてきた。ああ、今日はボジョレーの解禁日だよね。でも今夜は肉じゃがを作るんだ。合うかなぁ。そう答えると彼は戸棚を指して言った。「みりんを切らしてる」

幸せ

#twnovel 子どもがお小遣いを貯金箱に貯めるように、僕らは小さな幸せをちまちま集めている。たまに底が破れて流れ出し、それを前にお互いを罵ったり泣き喚いたり。仲直りのココアを並んで飲み干す頃、片隅でちゃりんと音が鳴る。顔を見合わせ覗けば、底のほつれは元通りに。この繰り返し。

木枯らしを避けるように

#twnovel 木枯らしを避けるように路地裏に逃げ込むと、自分が来ることを待っていたかのようなタイミングで赤提灯が点った。戸惑いつつも暖簾をくぐると温かい灯りに包まれた店内で笑顔の女将が出迎えてくれて…。「っていう演出つきの自販機を考えたんだけど?」「余計むなしくなるだけだろ」

ハザマさんスピンオフ

#twnovel もしかしたら私は、不幸な星のもとに生まれたのかもしれません。思えば散々な人生を送ってきました。でもそれを誰かのせいにしようとは思いません。神様は乗り越えられる試練しか与えないと聞きます。私の人生もすべて、神の思し召しなのでしょう。「ハザマさん、仕事は?」「あ、」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、帰宅前に僕が家の鍵をどこかで無くしてしまうという。無くす時に教えてよ、家に入れなくなるじゃない。そう文句を言うと彼は言った。「大丈夫だ。出掛ける時に鍵をかけ忘れているから」

恋愛予防接種

#twnovel 「知ってるか? 受験生の間で『恋愛予防接種』というのが流行ってるらしい」「何だそれ」「この大事な時期を、色恋なんぞにうつつを抜かして棒に振らないようにって」「へぇ。じゃ俺も受けてみようかな」「体調が悪い時はやめとけよ。他の予防接種と同じで、逆に熱が上がるそうだ」

本日のコーヒー

#twnovel バイト先の喫茶店で客にクレームを付けられた。注文した「本日のコーヒー」の味が、昨日飲んだものとまるで違うというのだ。そう言われても、このメニューは文字通りの日替わり。そう説明すると、客は納得した様子でこう言った。「分かった。それなら「先日のコーヒー」をくれ」

2012年10月31日水曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼に、X'masの予定を訊かれた。あるわけないじゃんと答える僕に、彼はケーキ屋のチラシを差し出す。嫌だよ、男二人でX'masなんて。苦笑する僕に彼は言った。「バイトの募集だが」

セリフ

#twnovel 「肌寒くなってきたから」信号待ちの路上で、夫がふいに指を絡めてきた。ちょっと何よ、私は猫かカイロか。もうすぐ2人の記念日だっていうのに、なんてデリカシーのない言葉。文句の一つでもと顔を上げ、秋空にふと思い出す。初めて手を繋いだときも彼、同じセリフ言ってたっけ。

ハアマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が電話をくれた。珍しいね、電話なんて。「風邪を移されたら敵わんからな」ちょっと待ってよ。僕、風邪なんてひいてないんだけど。そう答えるとしばしの沈黙の後、彼は言った。「かけ直す」

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 「出会いは時の悪戯」という彼女の言葉を、俺は沈黙で受け入れていた。ほんの一夏の恋。「この夏がいつまでも続くといいのにね」儚げに俯く姿が切なくて、俺は彼女の願いを叶えた。時の悪戯など有り得ないことは俺がよく知っている。それなのに…。「ハザマさん、考え事?」「いや」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕の親友が近いうちに結婚式を挙げると教えてくれた。おめでたい話だね。でも正直ご祝儀が厳しいなぁ。礼服も買わなきゃだし。そう話すと彼は言った。「心配するな。呼ばれないから」

2012年10月21日日曜日

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 思い出って残酷よね。あんなに楽しかった貴方との日々が、別れた途端に忌まわしい出来事に変わるなんて。彼女はきっと、この先の人生も未来に向かい進んでいくのだろう。過去に目を向けることも、ましてや遡ることすらせず。…彼女は強い人だ。「ハザマさん、考え事?」「いや」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼に、僕が来年の正月に年賀状を何枚貰うのか聞いてみた。予め貰う枚数が分かっていれば、無駄に買いすぎることもないものね。溜め息をついてから手帳を捲る手を止め、彼は言った。「喪中だ」

夢日記

#twnovel 夢日記をつけると気が触れるって、聞いたことある?いつか彼女が切り出した他愛のない話。睡眠って忘却と記憶とを整理する時間なのよね。日記につけちゃうと、忘れるはずだった過去も抱え込んでしまうの。だから…そんなキミの全てを忘れないために、僕は今日も夢物語を綴っている。

酒の神

 #twnovel #twnvday 一度だけ、酒の神に会ったことがある。路地裏のスナックのトイレで。サラリーマン風の彼は、薄汚れた壁にもたれ腰を抜かしていた。「俺は酒の神だ。だからお前は俺を介抱する義務がある」俺は静かにドアを閉めた。酒の神はトイレにいる。俺は無神論者になった。


毎月14日はツイノベの日! 今回のお題は「酒」です。下戸の方と、心が未成年の方と、既に飲み過ぎている方は「水」です。人の心をほぐし、あるいは神さえも宥めるお酒。あなたが振舞う酒はどんな物語に酔わせてくれますか? 【毎月14日はツイノベの日! お題「酒」「水」 #twnvday 】

扉の向こう

#twnovel 扉を開けるとそこに君がいた、なんて幻覚を見る程僕はまだ参っていないつもりだった。扉の向こうにいなかったら落胆するとぼやく僕に、「向こうにいないのは既に隣にいるからよ」と笑う。ふと試しに振り返ってみる。もぬけの殻のような部屋の中の、小さなポートレートと目が合った。

外出虫

#twnovel 帰宅すると、妻が「外出虫」を見せてくれた。昼間の奥様通販番組で買ったのだという。世話嫌いの彼女がペットなんて珍しいと思い、飼育ケースを覗いてみたが姿が見えない。「外出しがちな虫なのよ。だから世話が楽なの」なるほどね。「ところであなた、今日は随分帰りが早いのね」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕の人生で一番輝く日を教えてやるという。 怖い気もするけど、その日が来たら教えてよ。今日がその日だって。そう頼むと彼は頷いた。「初めて会ったのはお前が幼稚園児の頃だったな」

#twnovel 喧嘩したこともない仲睦まじい2人なんて嘘だったんだ。君と対立するたびに僕は時を止め、巻き戻してやり直した。全ては君の笑顔が見たかったから。今まで黙っててごめん。そう詫びると彼女は満面の笑みを僕に向けた。「ありがとう。何回もやり直して、やっとその言葉が聞けた」

2012年9月30日日曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、仕事のミスで落ち込む僕の前に現れた。自分も昔、新聞配達のバイトで取り返しのつかない失敗をよくやったと言う。どんな事?そう尋ねると彼は言った。「明日の新聞を配ってしまってな」

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 「まるで別れる事が前提みたいね」過ぎゆく季節を惜しむかのように思い出作りに奔走した彼女との関係は、ほんのひと夏の恋に終わった。寂しげに微笑む彼女の髪を優しく抱きしめる。大丈夫、例え別れたとしても、この夏に戻ればいつでも会えるから。「ハザマさん、考え事?」「いや」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今日は早く帰宅しろという。傘持って来てないけどまさかゲリラ豪雨が来る?それとも列車事故でダイヤが乱れるとか?色々考えていると、彼は僕のズボンの尻を指して言った。「破れてる」

栄華館

#twnovel 「栄華館」では、人類が歩んだ様々な証が咲き誇っていた。ある者はそれらに羨望の眼差しを向け、またある者は涙ぐんだ。一部の映像に激高した者が係員に連れ去られた後、鑑賞を終えた人々は溜め息と共に帰路に着く。地下深くに作られたシェルター内の、光すら届かぬ冷たい居住区に。

別れの訳

#twnovel 君のせいじゃない。時のせいじゃない。誤解じゃない。嫌いなんかじゃない。言いようのない別れの訳を僕らはずっと探し続けてきた。「思い出にしてもいいですか?」愛しかった唇が哀しみの形に歪む。僕はそれに気付かない振りをした。君は瞳を反らす。僕はもう戻れないと知る。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、慣れない料理に苦戦する僕を物珍しげに見ている。あのね、 節約のために自炊する事にしたんだ。ところで何の用?そう尋ねると彼は言った。「ああ。食中毒起こすからそれを知らせにな」

運動会

#twnovel 運動会は激怒した。必ず、かの迷惑千万なBGMを除かねばならぬと決意した。運動会には音楽がわからぬ。運動会はただの学校行事である。けれども騒音に対しては人一倍に敏感であった。「と言うわけで先生、近所迷惑な運動会は中止にすべきです」「出たくないなら雨乞いでもしとけ」

2012年9月9日日曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、遅い夏休みを取って旅行をして来たという。「お土産だ。京都と言えば今も昔もこれだろう」ありがとう。でもハマザさん、この八ツ橋、賞味期限を50年過ぎてる…。

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 許されぬ恋と知りながら、彼女の存在は日増しに大きくなっていった。だから「私がおばあさんになっても会える?」なんて言葉すら真に受けた。なのに、実際に老後の彼女に会いに行ったら「なんで貴方は昔のままなのよ!」…女心とやらは分からない。「ハザマさん、考え事?」「いや」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼がケーキ片手に現れた。誕生日でもないし、どういうこと?「見舞いに決まってるだろ。大丈夫か?」首を傾げる僕と手帳を見比べてから彼は言った。「明日出直す」…待って、超怖いんだけど。

2012年8月31日金曜日

もう一度海を

#twnovel もう一度海を見たいと言うから、夜の海岸線をドライブした。「暗くて何も見えないじゃない」溜め息交じりの文句はいつしか寝息に変わっている。潮騒の音色を子守歌代わりに見る夢の中では、この浜はきっと昔のまま。闇の中では表情は読めない。見られないから泣ける。今だけは。

分からないよね

#twnovel 小さな駅舎を出ると頼れるのは数えるほどの街灯だけ。つい先日まではまだ明るかった時間帯なのに、気づかぬ間に季節は進んでいる。「夜道を歩く心細さ、男の子には分からないよね」そう言う彼女の手に思い切って触れてみる。夜道でよかった。この気持ち、女の子には分からないよね。

押し売り

#twnovel 夏が居座っている。「帰らねえって言ってる訳じゃないんだ」差し出されたのは「連続真夏日10日間+1日」の回数券。ふいにベルが鳴る。助けを求めに表に出るとそこには恐縮顔の秋の姿。「商売の邪魔すんなよ」振り向いた夏が秋を追い出し、私は目眩を覚えた。これはたぶん熱中症。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕の古びた礼服を新調しろと言う。近々身内に不幸があるらしい。誰なんだろう? 不安になって家族や親戚の顔を思い浮かべていると彼は言った。「あ、主役は着なくていいのか」

目覚めると

#twnovel 目覚めると水の中にいた。「身体を交換しようって言ったよね」水槽の外で俺が笑う。そう言えば酔って金魚に愚痴をこぼした気がする。「電車って物に乗って、広く世界を知りたいんだ」そう言って彼は家を出た。「でも帰ってきたんだよね?」「うん。満員電車より水槽の方が広いって」

2012年8月25日土曜日

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 思い返せば、付き合っている間はずっと彼女に振り回されっぱなしだった。落ち込む姿を慰めては「今じゃなくて昨日言ってよ」、「時の彼方からでも飛んで来てよ」なんてことも言われたっけ。それを真に受けて相手をした俺も、今思うと若かったな。「ハザマさん、考え事?」「いや」

夏の終わりに

#twnovel この夏、何度この店の暖簾をくぐっただろうか。「もう終わりなのね」「…そうだな」いつかこの日が来るのは分かっていたのに、再会に浮かれ頭から追いやっていた。でもけじめは必要。自然消滅じゃ後味が悪いから。二人一緒に店を出る。…「冷やし中華終わりました」の貼り紙を見て。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、就活中の僕のもとに採用通知が届くと教えてくれた。浮かれる僕を見て彼は言った。「そんなに喜んでもらえると教えた甲斐があったというものだ。来年どこに受かるかも教えてやろうか?」

再生紙

#twnovel 再生紙を使ったペーパーアイテムが人気だと聞かされて驚いた。エコだの言ったところで所詮ポーズであって、彼の職場である結婚式場は見栄と体裁が幅を利かせる場のはずだ。世の中も変わったなと感心していると彼は笑った。「洒落のつもりらしい。再婚同士のカップルがよく選ぶんだ」

自由研究

#twnovel 夏休みも終わりに近いというのに、小学生の息子は自由研究に取り組む様子もない。妻に話を聞くと、毎日友達の家を遊び回っているという。気になって問いただすと、息子はけろっとした顔で言った。「クラスのみんなの自由研究の進み具合を毎日調べているんだ。それが僕の自由研究」

24時間テレビ

#twnovel 家電量販店で「24時間テレビ」を見掛け、気になって店員に訊いてみた。「このテレビは組み立て式で、完成までにおよそ24時間かかります」「電源を入れると、24時間だけ番組を視聴することができます」声を潜めてさらに続けた。「愛は地球を救えませんが、仕様です」

#twnovel とある探検家が山奥で朽ち果てたテントを発見した。苔むしたトランクの中から一冊の日記を探し出す。「○月×日、ついにきのこの山を発見した。信じられない、これは現実なのか」日記を閉じた彼はおもむろに防毒マスクを着用し、満面の笑みを浮かべた。「よし。たけのこの里も近いぞ」

おにぎり星人

#twnovel おにぎり星人襲来。彼らはおにぎりに擬態し店頭の商品に紛れ込ませ、自らを捕食させることで相手の身体を乗っ取ってしまう恐ろしい生き物だ。ただし、地球のコンビニおにぎりのパッケージの進化にイマイチ追いつけていないため、包装が開けにくくあまり手に取られることはない。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、暇を持て余している僕を見て流しそうめんをやろうと言い出した。やめてよ、二人で流しそうめんなんてつまらないよ。そう言うと彼は頷いた。「じゃあ、ラーメンにするか?」

2012年8月13日月曜日

シーソー

#twnovel 僕らはシーソーの両端で愛を育んできた。一方が近づけばバランスが狂い、もう一方に大きく傾ぐ。呼吸を合わせお互い歩み寄る。刹那の抱擁と引き替えに得たのは不安定な二人の未来。「遠くから見つめていれば幸せだったのにね」そう笑う君の目尻に皺が見えた。大丈夫、今も幸せだよ。

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 突然の別れを告げられた後も、雑踏の中で度々君の姿を見掛けた。思わず伸ばす手はいつも、立体映像のように君の体をすり抜けていく。「これからは別々の世界で生きましょう」いかにも有言実行型の彼女らしい。彼女は今、どの次元にいるのだろうか。「ハザマさん、考え事?」「いや」

巻き戻して

#twnovel この店を出たらしばらく彼女と会えなくなる、そう思うと胸が熱くなる。神様、時間を巻き戻して!「その願い、叶えた」ふと我に返ると、彼女は今飲み終えたばかりのコーヒーをカップに吐き出し始めた。呆気にとられる僕の前で、今度はスプーンを口に運び、そこからシャーベットを…。

冷やし中華星人

#twnovel 冷やし中華星人襲来。彼等は自らを他の生物に捕食させ、体内から弱らせる恐ろしい生物だ。誤って彼等を口にした人間は下痢や吐き気などを催す。だが見分けるのは容易だ。冷やし中華は元来冷たいものだが、恒温動物である冷やし中華星人は生ぬるい。「先生、それたぶん痛んでます」

心頭滅却すれば

#twnovel 「心頭滅却すれば、って話」「今どき精神論? 熱中症ヤバいって」「でも人類はそろそろ肉体を捨て去るべきだよ」「今みたいに?」ひとしきり笑い、友人のアバターと別れた。12時の時報に腹が鳴る。唸りを上げるPCの電源を落とし、冷蔵庫を開けた。肉体はお昼を必要としている。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、家でゴロゴロせずに出掛けろと言う。嫌だよ、暑いし。エアコンが利いた部屋で過ごすのが一番。そう答えると彼は言った。「あれが壊れることを先に教えた方がいいのか?」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今日は土用の丑の日だから「う」のつく物を食べろと言う。知ってるよ、でもうなぎ食べるお金なんてないんだ。寂しくカップラーメンにお湯を注ぐ僕に彼は言った。「うどんもあっただろ」

2012年8月2日木曜日

みちのく怪談コンテスト2010傑作選

今夏刊行される「みちのく怪談コンテスト2010傑作選」(荒蝦夷刊)に、拙作が収録されることになりました。
2010年に開催されたコンテストの応募作の中から、遠野物語にちなんで119編が収録されるとのこと。

荒蝦夷さんは仙台にある出版社です。本書は昨年春に刊行される予定でしたが、東日本大震災の影響により遅れていました。
本日、ゲラを送り返したところです。発売日は未定ですがとにかく楽しみです。

ちなみに昨年度開催された「みちのく怪談コンテスト2011傑作選」も刊行されるようです。興味のある方、ぜひご一緒に。

http://homepage2.nifty.com/araemishi/

2012年7月26日木曜日

柔らかな

#twnovel お化け屋敷は正直苦手だけど、ぴったりとしがみついてくる彼女の柔らかな肌に舞い上がり、臆病な自分を押し殺して歩を進める。外に出ると、当の彼女がかき氷を両手に僕を出迎えた。「ごめんね、怖くて先に出ちゃって。これお詫び」え、だって…。まだ温もりの残る腕に鳥肌が立った。

任期満了

#twnovel 幽霊の任期は毎年夏に満了するため、人へのアピール合戦はこの時期熱を帯びる。継続の条件は人の心に刻まれていること。誰からも忘れ去られた時、僕はいなくなる。成仏などなく、ただ無に還るのみ。だからごめんなさい、あなたに恨みがある訳じゃないんです。彼女はどこにいますか?


7月26日は幽霊の日だそうです。

純白

#twnovel 彼女は意にそぐわない意見は受け入れない。「心の中で否定するたびにね、世界が少しずつ白く変わるの。「純白」の白にね」そう彼女は微笑む。僕は何も言い返せない。機嫌を損ねたら排除されてしまうから。「漂白」され夏の空に消えそうな彼女を、僕はそれでも必死に繫ぎ止めている。

ナツヤスミソウ

#twnovel みんなで大切に育ててきた「ナツヤスミソウ」が大輪の花を咲かせると、校長先生は今年の夏休みを宣言した。子供達は歓声を上げ、重い荷物を両手に抱え笑顔で家路に就く。夏休みの花は1ヵ月以上咲き続け、やがて全ての花びらが枯れ落ちたとき、校長先生は夏休みの終わりを宣言する。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、次に掛かってくる電話には決して出るなと言う。詐欺?イタズラ?それとも僕、何かまずい事しちゃってた?気になって尋ねると彼は首を横に振った。「受話器の裏に蜂が止まっている」

枯渇

#twnovel 「暑い」という言葉がまもなく枯渇することが判明しました。とニュースが告げた。皆がこの夏に使い過ぎたのが原因という。もっと慎重に発するべきだったと言語学者はうな垂れ、感情を口に出せなくなる心理状態についてカウンセラーが懸念する。窓の外では蝉が鳴いている。今日もあつ

2012年7月16日月曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、土用の丑の日には鰻を食べろと言う。お金なんてないと訴える僕に、彼はエプロンと包丁を差し出した。自分で捕って食えって?そんな無茶な。「自炊して今から貯金しろと言ってるんだ」

おむかえ

#twnovel 「パパおそいね」「おむかえこないのかな?」保育園児達がおままごとをしている。父親の帰りが遅いのは、自分達のように保護者のお迎えを待っているからだと思っているようだ。純真な彼らが演じる日常が微笑ましい。「おじいちゃんは?」「おふとんでねてる」「おむかえこないねー」

あさがお

#twnovel あさがおの種を蒔いた。芽が出てつるが伸び蕾が膨らんだ翌朝、そこに尻尾が垂れ下がっていた。朝が尾は昼に胴体が現れ、満月の晩にするりと頭が抜け出た。「にゃあ」一声だけ残し、そいつは隣家の屋根に飛び移ってどこかへ行ってしまった。観察帳を前に、いま僕は途方に暮れている。

#twnovel 「ですから生ではお出し出来ないんです」建物から出てきた男が携帯電話片手に汗を拭った。「法律で定められておりまして…。表面を軽く炙る?そんな無茶な」こんな山奥に焼肉屋なんてあったっけ?ふと建物に目を向けてみる。「7月に入ったから?ずっと前からです!」火葬場だった。

交差点

#twnovel 交差点で君と手を繋ぐ。雑踏の中ではぐれてしまわないように。行き交う人々は僕の生涯でこれっきりのすれ違いでしかなく、手を離すとそれっきりで終わってしまうような気がして。信号はいつか赤に変わることを今の僕らは知っている。けれど、渡り終えた手の温もりは間違いじゃない。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今から駅で人身事故が起き、丸一日運休になると教えてくれた。じゃあ出掛けるのやめる。バイト休む口実になるし。そう言うと彼は首を振った。「お前が出掛けなければ事故は起きないぞ」

2012年6月26日火曜日

同窓会を前に

#twnovel 同窓会を前に、微かな青春の記憶を修復屋に持ち込んだ。断片をクリーニングし、欠落箇所を一般的な記憶で曖昧に埋めるのだという。化石の修復じゃあるまいし、そんな出来合いの記憶なんて御免だ。憤慨する私を店員が諭す。「だから笑い合えるんです。記憶なんてそんなものですよ」

物忘れ防止

#twnovel 「博士、物忘れ防止の薬を発明したそうですね。効き目は確かなんでしょうか?」記者の問いかけに博士は曖昧に頷いた。「ああ。ただ副作用があってな。いや、効能と言うべきか」咳払いをして博士は続けた。「服用するとそれ以降、何も記憶できなくなる。だから、忘れることもない」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が珍しく旅行雑誌を眺めている。ああ、ピサの斜塔ね。一度登ってみたいよね、倒壊する前にさ。冗談でそう呟くと、彼は真剣な表情で首を振った。「馬鹿者。倒壊する前に降りるんだ、いいな」

ラッキーな

#twnovel 実にラッキーな夢を見た。夢の中の僕は中小企業の係長で、嫌な上司と生意気な部下との板挟みの中で夜遅くまでサービス残業をこなすんだ。気がつくと夜が明けてきてさ、延々とその繰り返し。「その夢のどこがラッキーなんだよ」「家に帰らなくて済むんだ」「…奥さんと何があった?」

欠けたもの

#twnovel 自らに欠けたものに惹かれ合い、僕らは結ばれた。補い合って視野が開かれ、死角は消失する。君の見た世界が僕に伝わり、僕の世界は君のもとへ。こんなに隅々まで見渡せるのに、君の姿を見ることは叶わない。2人は表裏一体。背中越しのぬくもりを信じて、今日も僕らは愛を交わす。

2012年6月16日土曜日

河童

#twnvday 河童を見掛けたと噂の現場を訪れた。野次馬でごった返しているかと思いきや、町外れの小さな沼は閑散としている。「今さら河童で町興しなんざ、誰も気に留めんよ」散歩中の老人が教えてくれた。手袋を嵌めた手で僕は帽子を目深に被り直す。…せっかく仲間に会えると思ったのにな。


毎月14日はツイノベの日! 今回のお題は1912年に柳田國男さんの『遠野物語』が発刊されたことにちなんで「妖(あやかし)」です。物語られることで息づく幾千幾万の妖。140字 の時の川で、何と出逢うでしょうか?【毎月14日はツイノベの日! お題「妖(あやかし)」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が運動不足の僕にスポーツジムのチラシを差し出した。無理無理、そもそも通うお金ないもん。そう言うと彼は頷いた。「そこまで距離にして20km、徒歩で往復するだけでいい運動になるぞ」

指先

#twnovel 手探りで君を探してる。指先を伸ばせば触れられるのか、それとも全く届かないのかも分からない。かすかな温もりは君がかつてそこにいた証。ワンクールで都合よく大団円を迎えることのない不器用な戯れは、お互いを探しながらずっと続く。いつか暗闇を照らす光が差し込むその時まで。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼の勧めで受けた入社試験は、面接までこぎ着けたものの落とされた。落ちるなら最初から勧めないで。落胆する僕を彼は不思議そうな顔で見た。「俺が勧めた社員食堂のカレー、旨かっただろ?」

2012年6月8日金曜日

先代

#twnovel 同僚に連れられて入った定食屋。脱サラして創業した先代の頃には潰れかけたこともあったが、二代目が継いでからは順調だという。メニューに「復刻版冷やし中華」なるものがあった。先代が初めて出した冷やし中華を忠実に再現した、とある。「やめとけ、味も忠実に再現されてるから」

2012年6月5日火曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼がタイミング悪く現れた。今カップラーメンにお湯を入れたんだ。伸びると嫌だから20分後に来てよ、急いで食べるから。そう言うと彼は足元の画鋲を指した。「20分後はまだ床掃除中だぞ」

不老不死の薬

#twnovel 「博士!我々が開発したのは不老不死の薬です。なぜ不老長寿の薬として売り出されたのですか?」憤慨する助手を博士が宥める。「確かに不死の薬だ。臨床試験の結果も申し分ない」「だったらなぜ?」「だからだよ。被験者が誰1人死んどらん以上、不死なのか長寿なのか判別がつかん」

2012年5月31日木曜日

レンタル倉庫

#twnovel 抱えきれなくなった想い出をレンタル倉庫にぶち込んだ。整理することなく積み重ねられたそれらは、毎月末の口座引き落としの際に一瞬だけ僕の心を掠め、また暗がりに舞い戻る。失ったものと手に入れたものの違いすら明確に出来ないまま、僕は倉庫の中でいたずらに時を重ねている。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、深夜に酒を持って現れた。黙っていたけど実は明日、彼女に告白するんだ。前祝い?それとも景気づけ? 伺う僕を彼の手が制す。「彼女だけが女じゃない」明日来て、…やっぱり来ないで。

2012年5月29日火曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、現在片思い中の彼女を思い切って映画に誘えと言う。それってつまり脈アリってこと? 興奮して聞くと彼は首を横に振った。「あれは酷い駄作だが、失恋後に観るといい作品に思えるぞ」

昨日

#twnovel 昨日をください。そう言って出てきたのは「希望」だった。聞き間違いを正そうとする私を止め、店員が微笑む。「昨日には何があったのですか?」希望です。そう答えると彼女は私が返した希望を再び差し出した。「それなら合っていますよね」外は雨。明日の予報は晴れと彼女は告げた。

2012年5月23日水曜日

ラブレターの日

#twnovel 時が止まった世界で君を探す。思い出の公園、一緒に通った図書館、お気に入りのこの店のカウンターにも姿はない。「預かり物だよ」マスターが差し出す色褪せた一通の手紙。封を切るとあの頃の君が現れた。5月23日、今日はラブレターの日。時の彼方の君を想い、僕はペンを取る。

2012年5月21日月曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼と一緒に金環日食を観察した。ねぇ知ってる?今回と同じ規模で次に見られるのは300年後なんだって。一生に一度の天体ショーだね。そう言うと彼は頷いた。「ああ、何度見てもいいものだ」

リソース

#twnovel 重要性の低い能力値を減らし仕事用途に割り振る。体内のリソース見直しを図り、私は昇進した。しかし…愛妻弁当を口にする度申し訳なく思う。味覚や美的感覚を削除した為に味が分からないのだ。せめてもの償いに朝のゴミ出しを買って出る。最近生ゴミが減った気がするが何故だろう。

2012年5月15日火曜日

#twnovel 降りしきる雨が僕の心を代弁していた。「本日はお2人らしい日和となりました」司会者が向く高砂席には学生時代の友人と、その彼女。「雨の放課後、傘を無くし困っていた新婦に声を掛けた新郎。相合い傘が結んだ縁とは…」照れ笑いで見つめ合う2人。彼女の傘は今も僕の手元にある。

恋石

空から恋石が落ちてきた。 #twnvday テレビがそう伝えるや否や電話が鳴った。「そっちの方に落ちたって。今から行くから」腐れ縁の女友達からだ。恋石を投げて命中した相手と結ばれる、だっけ? そんな噂話信じるなよ。笑って切ろうとする間際、耳元で声がした。「じゃ、避けないでね」




毎月14日はツイノベの日! 今回のお題はに宇宙ステーションSkylabが打ち上げられたことにちなんで「空」です。何もかもを呑み込み、時とともに移り変わる空。140字の絵筆で、あなたはどんな物語を空に浮かべますか?【毎月14日はツイノベの日! お題「空」 #twnvday 】

気まぐれサブ企画【空から恋石が落ちて来た。 #twnvday 】タグ含めて冒頭書き出し縛り。リプ不要。「恋石」は自由に設定してください。あなたはサブ企画に参加してもいいし参加しなくてもいい。気軽に楽しんでいきましょー♪【毎月14日はツイノベの日! お題「空」 #twnvday 】

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今日は傘を持って家を出ろという。ありがとう、でも今日は荷物が多いんだ。雨が降ったらビニール傘でも買うよ。そう答えると彼は言った。「財布を忘れて出るから、傘は買えないぞ」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、栄養面で偏りがちな僕の食生活が近々劇的に改善されると教えてくれた。料理上手な彼女が出来るの?身を乗り出す僕に彼は言った。「病院食は味気ないが我慢しろ。日頃の不摂生のツケだ」

時のかけら

#twnovel 長年連れ添った妻と死別した夜、死神が私に告げた。「時のかけらが貯まっているので、貴方はもう数十年寿命を延ばせますよ」人生の節々で生じたロスタイムのことだという。妻のいない余生に意味はない。断ると奴は言った。「大抵の男性は辞退しますね。女性は喜んで受け取りますが」

2012年5月7日月曜日

眠毛

#twnovel どうも眠くて堪らない。「それは『眠毛』のせいです」医師は言った。「剃ってサッパリすると眠気も消えますよ」なるほど、しかしまた生えてきたら同じ事じゃないか?それならいっそ永久脱毛したい。渋る医師を説き伏せ処置を受けた。それでこのザマだ。「聞いたぜ。不眠症だって?」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。子供の頃、解らなかった宿題は寝ている間に彼が済ませてくれていた。そんな彼が、当時の僕を見に行こうと言う。嫌だよ、今さら恥ずかしいし。彼は首を横に振った。「今なら簡単に解けるだろ、宿題」

向き

#twnovel 「覚えてますか」風に乗った言葉は、けれど道路向かいにさえ届きやしない。どれだけ思いを込めても、ましてやあの頃になんてとても。巡る季節に身を委ねる怠惰な日常が醸しだす刹那の幻。時は巡らないし戻らないし止まらない。ただ、流れる向きは皆同じ。だから明日も生きていける。

古書店

#twnovel 馴染みの古書店主は、いつも私にぴったりの書物を選んでくれた。恋人に振られたら読む本、就職したら読む本、人生に疲れたら読む本…。彼は今、人生の最後に読む本を私に差し出した。突然の事に二の句が継げない私を諭すように一言。「死んでから読む本はお盆の頃の入荷だよ」

2012年4月28日土曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕がGW中に旅先で怪我すると教えてくれた。大丈夫、去年のGWで事故っちゃったから今年は大人しくしてるつもり。そう答えると彼は慌てて手帳を捲った。「済まん、来る時を間違えた」

未来から来た

#twnovel その女性は未来から来たと言い、将来僕と結ばれる運命なのだと主張した。どうしても信じられずにいる僕に、彼女が1枚の写真を渋々取り出す。そこには僕と彼女、そして彼女によく似た幼い子供の姿が。まさか僕達の…?彼女は頭を振った。「あなたと離婚後に知り合う男性との子よ」

写真

#twnovel 広報誌の編集という仕事柄、他人の写真に触れる機会が多い。証明写真からスナップまで、送られてくる物は様々だ。集合写真の場合、本人識別のため裏面に指示を入れてもらうようにしている。「右から2番目が私です」河原で撮られた1枚のスナップ。どう見ても1人しか写っていない。

上半身

#twnovel 「足元に上半身だけの幽霊が出るんです」霊媒師はおもむろに頷いた。「ここは昔病院で、この床はフロアの高さでした。そのつもりで彷徨っているのでしょう」「それなら階下の天井に下半身が出現するはずです。なのにそんな話は聞かない」「そりゃそうだ。幽霊に足がありますか?」

未来を

#twnovel 未来を変えることはできないけど、過去を変えることならできるのよ。悲しみに暮れた君の声が春の風に乗る。共に歩めない未来は不変で、美しい思い出は憎しみにすら変わる。2人の未来を断ち切った君を変える術を僕は持たない。思い出と憎しみの分岐点で、僕は未来に別れを告げる。

昨日の

#twnovel 帰宅すると昨日の俺が待っていた。そういや昨日、明日へ出掛けた俺はどうやって昨日に戻ったんだっけ?「一晩泊めてくれないか?」目の前の俺は言った。なるほど。俺は家を出て彼女の元へ向かう。「ごめん、去年のあなたが来てるの」待てよ、俺たち今年に入ってからの付き合いだろ。

2012年4月23日月曜日

失踪

#twnovel 時々駆られる失踪したい衝動を、疾走に変換することで抑えてきた。だが限界だ。変換ミスを防ぐため、失踪はやめて家出しようと決めた。そんな折、呑気な友人達が酒や食べ物を持参して訪れた。花見の予定が急な雨に祟られたらしい。気がつくと僕は、それなら家でしようと言っていた。

2012年4月18日水曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が来年引っ越しをすると教えてくれた。現在の1Kから3LDKだという。宝くじが当たるの?もしや結婚とか?はしゃぐ僕を見て彼は溜め息をついた。「実家の間取りを忘れたのか?」

夢栞

#twnovel 目の前に並んだご馳走を食べようとして目が覚めたってことはない?僕もそんな夢を見た事があってね、そこでこの「夢栞」さ。こいつを使えばいつでも夢の続きを見られる。そう、凄い発明なんだよ。ただ問題があってね。ご馳走の話なんだけど、翌日続きを見たらすっかり痛んでいて…。

新入生の皆さん

#twnovel 「新入生の皆さんに、一言申し上げたいと思います」「校長先生、140字以内でお願いします」「何っ?」「あ、この会話も含めてですのでよろしく」「そんなこと聞いとらんぞ。あー、えー、新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんはこれか」「ありがとうございました」

念じる3

#twnovel 「利用者が念じる『杜氏』に連れていってくれるのじゃ」タイムマシンを改良した博士はそう言ってマシンを作動させた。それ以来僕は博士と共に全国の酒蔵を呑み歩いている。「どうだ、便利なモノじゃろう」赤ら顔の博士が千鳥足で座席に乗り込む。もはやこれはタイムマシンではない。

念じる2

#twnovel 「利用者が念じる『冬至』に連れていってくれるのじゃ」タイムマシンを改良した博士はそう言って未来へ跳んだ。それ以来彼は毎年12月22日頃に僕を呼び出す。「それでさっきの話の続きじゃがの」そんな事言われても僕にとっては数ヶ月前の話だ。彼との話はいつも噛み合わない。

念じる1

#twnovel 「利用者が念じる『当時』に連れていってくれるのじゃ」タイムマシンを試作した博士はそう言って過去へ跳んだ。彼は時間旅行理論を着想した『当時』にタイムスリップし、当時と現在の間を延々とループしていると、僕は後に置き手紙で知る。未完成の理論が完成することは永遠にない。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が大切な面接に大遅刻すると教えてくれた。ありがとうハザマさん、絶対寝坊しないよ!ありったけの目覚まし時計をセットしていると彼は言った。「面接、明日じゃなくて今日だぞ」

日記

#twnovel これは日記よ、小説じゃない。僕が書く私小説を読んだ彼女からの痛烈な批評。作品は僕らの過去から現在を、感情のすれ違いも余すことなく綴っている。反論するのは野暮だ。これを日記と呼ぶならそれでも構わない。君が僕の前から居なくなったとしても、僕は2人の物語を紡ぎ続ける。

#twnovel 寂れた路地裏で、商品欄が?表示の自販機を見掛けた。買ってみると「安堵缶」という温かいスープが出た。2本目の「不快缶」は腐敗臭がした。当たりと出たのでもう1本。ラベルには「絶望缶」。途端、猛烈な腹痛に襲われた。やっぱり腐ってやがったか。周囲にトイレは見あたらない。

呼び出し

#twnovel 急な呼び出しの理由は長年の経験で聞かずとも分かる。遅れて店に着いた僕に向けて彼女の口から延々と聞かされる事になる愚痴の内容も。「今度こそ間違いないと思ってたの、なのにボタンを掛け違えたみたいに…」そろそろ気付いて欲しいんだけどな。掛け違えた先にあるボタンの事も。

この店が好き

#twnovel 馴染みの店に牛丼が登場。向かいの某チェーン店より若干高いが、それでも他のメニューの半額程度。ねぇ大将、ここの客はこの店が好きなんだよ。値段で勝負しても大手には敵わないよ?愚痴る傍らで牛丼の注文が入った。次の瞬間、調理担当の奥さんが財布を手に勝手口から出て行った。

2012年4月4日水曜日

ここに

#twnovel 僕はここにいます。君がどこにいるか知らないけど。ネットを介した繋がりは近いようで遠くて、ほんの数m先で生活を営む隣人よりも遠い。隣人の定義をどこに置くかで世界はドラスティックに変わる。僕はここにいる、君はもういない。明日は見えない、昨日の温もりは残っている。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今夜の外出は取りやめろと言う。嫌だよ、楽しみにしていた合コンなのに。え、羨ましいの?からかうと彼は溜め息をついた。「朝までヤケ酒の相手をする羽目になる俺のことも考えろ」

カトリーヌさん

#twnovel 留学生のカトリーヌさんは蚊も殺せぬ優しい心の持ち主だ。そんな彼女が日本に来てショックを受けたのが蚊取り線香だという。あれは大量殺戮兵器だと彼女は涙を流した。彼女はその後、交際中の香取君と破局してしまうのだが、原因が香取君の教員免許取得と関係があるのかは不明だ。

その店

#twnovel その店で、自分に必要な物を見つけるのは容易い事ではない。見慣れない案内板を頼りに無数とも言える商品を掻き分けて目的の場所まで辿り着かねばならず、訊ねようにも店員は無愛想だ。これではまるで…「ホームセンターじゃなくてアウェイセンターってオチはナシね」「えっと…」

迂闊部

#twnovel 心躍る新生活は早々に躓いた。うっかり履修届を出し忘れ、希望するサークルは募集を締め切っていた。そこへ見知らぬ先輩が声を掛けてきた。「良かったら『迂闊部』に入らないか?」誘われるがままに入部したが、程なく部が活動届けを出し忘れていたことが発覚し、迂闊部は消滅した。

遡行ヒーター

#twnovel 「遡行ヒーターを買ったんだ」「今さらヒーターなんか買うなよ」「それがこの機械、過去に遡って暖めてくれるんだ。凍える夜の記憶も暖かく変わる」「凄いな。凍死者宛てに送ってやれば命が助かるんじゃないのか?」「いや。警察の検証では熱で腐乱した凍死体が発見されたそうだ」

#twnovel 待ちわびた春がやって来た。矢も盾もたまらずに取り出し、幸せな気持ちに浸る僕の腕を傍らの彼女が突く。「ハンコ」我に返ると、対面のおじさんが微笑みを浮かべていた。「おめでとうございます」ありきたりな言葉に見送られ街へ駆け出た僕らは、手を取り合って2人の春を謳歌する。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼の素性を僕は何も知らない。ダメモトで誕生日を聞くとすんなり教えてくれた。え、今日なの? お誕生日おめでとう!祝福すると彼は急にそっぽを向いて俯いた。「エイプリ…いや何でもない」

エイプリル・フール

#twnovel 今日は1日嘘をつく。2人で決めた他愛のないゲーム。ライブのチケット取れなかったんだ。「行きたくなかったし」僕のこと好き?「大嫌い」うん、僕もだよ。それじぁね。彼女の顔がみるみるうちに涙で歪む。ちょっと待って、嘘だってば。慌てる僕の前で悪戯な笑顔が咲く。「嘘泣き」

懐かしい道

#twnovel 学生の頃通った懐かしい道を2人で歩く。美味しい珈琲をいれる店、友達がバイトしていた古着屋に桜並木。少しだけ変わった景色に各々の記憶の断片をパッチワークのように貼りつける作業。交わることのなかった思い出を手繰り寄せ、見つめ合った2人はあの頃繋げなかった手を繋ぐ。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、1人暮らしのこの部屋を掃除しろと言う。ひょっとして近々彼女が出来て、家に呼ぶとかそんな展開? ニヤつく僕を彼は不思議そうな顔で見た。「母親が来るのがそんなに嬉しいか?」

思い出写真館

#twnovel 過ぎ去った人生の一場面を写真にしてくれる「思い出写真館」。父の顔を知らずに育った私は、両親と一緒の場面を注文した。まだ見ぬ父との対面に緊張しながら写真を受け取る。そこにはベビーベッドに寝かされた私と若かりし頃の母、そしてその肩に手を置く近所のおじさんの姿…。

逆立ち食いそば屋

#twnovel 天井付近に設置されたフックに足を掛け、逆さまに食べる「逆立ち食いそば屋」。物珍しさとバカバカしさが受け、逆立ち食いそば女子なるものまで現れた。しかし評論家の一人が「あれは逆立ちと言うより宙吊りではないか?」と疑問を呈した件を境にブームは終息し、店主は首を吊った。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、新しい自転車を買えと言う。そうだね、新鮮な気分で春を迎えたいよね。早速カタログを眺めながらウキウキしている僕に彼は言った。「今、乗っているのは近々盗まれるから」

出会った日のこと

#twnovel 出会った日のことを貴方は覚えていない。喧嘩をするたびに出る彼女の常套句。そう言う君だって別れた日のことを覚えちゃいない。錯綜する時間軸の中で伸ばした手が繋がって、僕らは今ここにいる。刹那のすれ違いが永遠に続けばいいと願いながら、今日も2人で泣いて笑って喧嘩する。

#twnovel 自分探しの旅に出掛けた兄が半年ぶりに帰ってきた。見つかったかと訊ねると、隣町の交番に届けられていたという。よかったねと声を掛け肩を叩く。心なしかひとまわり小さくなったような気がした。もしかして痩せた? 兄は笑った。「謝礼に1割払った。いいダイエットになったよ」

カウンセラー

#twnovel 世話人として有名な町内会長がカウンセラーに転身した。評判は相変わらず良い。やがて入居するマンションの前に頻繁にバキュームカーが駐まるようになった。「揉め事は水に流せば済むけど、人の気持ちは汲み取らなきゃね」そう彼は笑ったが、気持ちの行き先は教えてくれなかった。

命名権

#twnovel 歳入安定を目的として、国はあらゆる命名権を売り出した。その一つが干支である。条件は今までと読みが変わらないこと。1社が名乗りを上げ、翌年から十二支は「子・丑・寅・Wooo・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」となった。Hitachi Inspire the Next

2012年3月24日土曜日

お墓みたい

#twnovel 「お墓みたいだったわね」帰りに妻が口を開いた。検討中の物件はコンクリート打ち放しのデザイナーズ住宅で、確かに石棺を連想できる。でもそんな縁起でもない言い方ないだろ、君も気に入ったと思ったのに。口を尖らす僕を見て妻が笑う。「いいじゃない。お墓だって一緒に入るのよ」

あの頃の僕達は

#twnovel あの頃の僕達は、毎夜の長電話を「愛してる」で締めるのが常だった。そんな思い出に相応しい状況ではないけれど、それでも離婚調停中の妻との長電話はあの頃の思いを呼び戻した。受話器を置くのが少し怖い。最後の言葉に逡巡していると、耳元で懐かしい声が囁いた。「愛してた」

博士の発明

#twnovel 博士の研究所には様々な発明品が並んでいる。身につけるだけでお金持ちになれる腕時計、着るだけでお金持ちになれる服、被るだけでお金持ちになれる帽子等々、凄い物ばかりだ。これらを発明した博士はさぞお金持ちなんでしょうね? 博士は頭を掻いた。「ああ。売れたらな」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、近々僕に接近してくる女性の存在を教えてくれた。毎朝バス停で顔を見るあの子だという。ハザマさん、的確なアドバイスを!「いいか、まず右アッパーが飛んでくる。避けたら逃げろ」

別れを決めた夜

#twnovel 別れを決めた夜、僕達は2人の思い出を10巻に分割した。お互い1巻ずつ選び、残りは処分する。出会った頃の彼女を忘れられない僕は第1巻を選び、僕を嫌いで居続けたい彼女は最終巻を手に取った。残りを二人で水に流す。そうして僕らは手を離し、泣きながら新たな思い出を繋ぐ。

不眠症

#twnovel 「先生。私、不眠症でしょうか?1年以上寝てないんです」「大丈夫ですよ。不眠症で死んだ人はいません。脳は無意識に休息をとっているのです」「でも本当です。全然眠れないんです」患者の夫が申し訳なさそうに口を挟んだ。「こんな寝言が毎晩続くんです。おかげで私が不眠に…」

シェフ

#twnovel 廃業したシェフの転職先は葬儀社だった。「これからもご贔屓にとは言いにくいですね」親の代からの付き合いである彼は苦笑した。数年後、父が亡くなった。葬儀社の担当はもちろん彼。思い出話に花が咲く打ち合わせの最中に彼は言った。「お父様、焼き具合はミディアムでしたよね?」

冷やし中華

#twnovel 「冷やし中華はじめました」の幟に惹かれて暖簾をくぐる。メニューを開くと、目当ての冷やし中華の隣に小さく「冷やし中華2011」が並んでいた。数量限定でしかも安い。何か理由でもあるのだろうか? 注文を取りに来た店員が耳打ちしてくれた。「それ、去年の在庫品なんですよ」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、この春僕に出会いがあると教えてくれた。相手はどんな人だろう?楽しみだな。浮かれた僕を見て、彼は溜め息をついた。「人の話は最後まで聞け。出会いじゃなくて、出会い頭の事故だ」

忘れない

#twnovel 全ての事象には始まりがあり、いつか終わりが訪れる。蜜月の頃に君の口から出たそんな言葉に、僕はどう応えるべきか戸惑った。「この世に永遠なんてないの」やがて僕らはその言葉を身をもって知ることになった。永遠なんてもう信じちゃいないけど、その言葉だけは永遠に忘れない。

2012年3月16日金曜日

シンネンさん

#twnovel 開けたものは閉めなければならない。そんな几帳面なシンネンさんがはじめた新たな日本の風習。年末、1年間お世話になった人へ送る「閉めましてありがとう」葉書。閉めた後、改めてあけましておめでとうと言うのは確かに理にかなっているのだが、一向に周りの理解は得られない。

木星と金星が最も接近した夜

#twnovel 木星と金星が最も接近した夜、帰り際の彼女を呼び止めた。義理チョコの義理返し。それでも僕にとっては最大級の接近だ。「次に接近するのは来年の5月なんだって」予め用意していた話題は弾むことなく夕闇に吸い込まれる。ありがとう、じゃあね。愛しい背中を僕はそっと見送った。

前転寿司

#twnovel 「前転寿司」と書かれた暖簾をくぐると、カウンターの前では文字通り寿司が前転していた。一体それに何の意味があるのか? おまかせで注文すると、若い職人が握った寿司が前転しきれずに俺の前で横倒しになった。文句を言うと彼は笑顔で答えた。「ああ、それは横転寿司ですね」

詩人

#twnovel その詩人はまるで息を吐くように詩を紡いだ。詩は彼そのもので、止まるのは彼の命が尽きたときだと誰もが思っていた。彼はその才能を妬む者の手によって命を落とす。嘆き悲しむ人々はやがて拙い詩を紡ぎ出した。今は小さく幼いそれは、いつしか麗しい調べを纏い町に春を呼び寄せる。

特典

#twnovel 新しく買ったデジカメには特典として女性アイドルの画像がメモリに保存されていた。「あの女、誰?」芸能人に疎い彼女は案の定噛みついてきた。妬かれるのも悪くないね。「まぁいいわ、どうせあなたがあんなに上手く撮れるわけないもの」しまった、君を撮らせてよとは切り出せない。

ひょうがき

#twnovel 昔、地球に「ひょうがき」があった、と小さな未来の科学者が熱弁を振るっている。とても寒かっただろうねぇと相づちを打ちながら縁側に目を向けた。寒さに対応して進化する過程で小型化し、豹が期の後にはきっと猫が期が来て、そしてその生き残りが、今あそこで丸くなってるわけね。

人気者

#twnovel 急に人気者になったような気がした。周囲に人だかりが出来、皆が自分を褒め称えてちやほやしてくれる。でもそれはきっと錯覚で、ひとときのさざ波が通り過ぎると僕は元の孤独な男に逆戻り。最近色気づいてきた妹が僕を呼んだ。「お兄ちゃん、私のサクラ餅、食べなかった?」

過去に届ける

#twnovel 想いを過去に届けるサービスは生活に安らぎをもたらした。分岐したパラレルワールドが生成されるので現在の生活は何も変わらない。あれほど胸を焦がしていた想いは無限に生成された世界のほんの一粒でしかなくて、でもそんな想い達で出来た砂浜を踏みしめ、人々は未来へ歩み出す。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼から聞いた話。ここ最近時空間のあちこちで一方通行や規制が敷かれ、行き来が難しくなっているそうだ。もしや大きな災害の前触れ?不安になって尋ねると彼は言った。「いや、年度末だから」

3.11

#twnovel ドーム内に満天の星空が瞬いた。「普段は街の灯りで見えにくいのですが、本来はこのように見えます」心地よいシートにもたれ学芸員の解説を聞きながら、私はそこに街中の灯りが消えたあの日の夜空を重ね合わせていた。視界の隅を横切る流れ星に、心の中で小さな祈りを捧げながら。

2012年3月9日金曜日

サクの日

#twnovel 「3月9日はサクの日だから刺身でも買うか、って話したら女房が怒ってね」そう言っておじさんは項垂れた。「失業中なんだから家計を考えろって。それで女房をサクっと」刺しちゃったの?彼は力なく続けた。「…した物で機嫌をとりたいんだけど、スナック菓子しか思い浮かばなくて」

トガシ君

#twnovel 転校生のトガシ君の話し方は少し変わっている。「ありがとう」は「ありがしう」と言うし、好きな食べ物を聞くと「しうふしシマシ」なんて答える。そんな彼との会話にも慣れてきた頃、「しおくに引っ越します」と彼は僕達の前から姿を消した。翌日、今度はナガタ君が転校してきた。

画期的なカメラ

#twnovel プロ顔負けの完璧な構図の写真が撮れる画期的なカメラが登場しました。早速開発者にお話を伺いましょう。「原理は単純です。笑顔検知と同様、完璧な要素が揃った時点で自動的にシャッターが切れる仕組みです」問題は、プロでもないとその要素を揃えられない点だとのことです。

理解できない

#twnovel 君のことが理解できない。僕の目に映る世界と君の目に映る世界が異なる以上、理解し合えたつもりでいてもいつかきっと綻びが生じる。そしていつしか無視できないほどに広がっていくんだ。彼女は不思議そうに口を尖らせた。「だからその綻びを結ぶんでしょ」赤い糸で、と付け加えて。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が新入社員歓迎パーティーで当たったと教えてくれた。毎年豪華な景品がズラリと並ぶ恒例行事、何が当たったんだろう?彼は溜め息をついた。「気を付けろ。牡蠣とふぐのコンボだ」

遅れてない

#twnovel デートに大遅刻して平謝りの僕に対し、彼女は怒るそぶりも見せない。「遅れてないよ、ほら」腕時計の針は待ち合わせ時間ちょうどを指していた。「でも遅れてるって言うなら、この時計壊れちゃったのかな?」冷や汗を拭いながら、僕は口を滑らす。「誕生日、もうすぐだったよね?」

元気ですか

#twnovel 「元気ですか?」知らないアドレスから届いた、たった一言のメール。どうせ間違いだろうけど、春の陽気にまかせイタズラ心で返信してみる。「元気です」澄んだ青空を見上げてふと思う。向こうの空も同じ色をしているのかな、と。「よかった。私もです」懐かしい風が吹いた気がした。

2012年3月6日火曜日

解体新書

#twnovel あの杉田玄白の「解体新書」を在庫していると噂の古書店へ行ってみた。主人が店の奥から出してきたのは紛れもなく解体新書。一体幾ら出せば買えるのだろうか。こちらの心の中を見透かしたかのように、主人は棚を指さした。「解体新書は買い取り専門です。売りたい新書はあちらです」

前世

#twnovel 「前世が卑弥呼だなんて馬鹿なことがあるかい。正直に言うよ、あたしの前世はハンバーグだよ」ハンバーグってことはないでしょう。せめて豚とか牛だったのでは?すると占い師は寂しそうに顔を伏せた。「合挽だったからねぇ。それ以前は分からない…」僕は彼女を信用することにした。

嘘八百

#twnovel 「生涯に800回嘘をついた時点で人は死ぬ。それが『嘘八百』という言葉だと、子供の頃母親に教えられたよ」「とんだ嘘八百だな。でもそれで立派に育ててもらったのなら感謝しないとな」「ああ。800回嘘をついても死なないことは早い段階で実証できたから、あとは楽なもんだよ」

牡蠣の種

#twnovel 妻が「牡蠣の種」なるものを買ってきた。パロディ商品なのだろうが、見た目は有名な某商品にそっくりだ。食べてみると確かに牡蠣の味がする。しかし美味いかと聞かれると微妙だ。と言うか不味い。パッケージを眺めていた妻が言った。「これ、当たりつきなんですって」

2012年3月3日土曜日

崩れた雪だるま

#twnovel 買い物帰り、崩れた雪だるまと目が合った。「なんか可哀想ね」「でも、いつか失われるものだからこそ美しいんじゃないかな」瞳が僕を射すくめる。「崩れても気持ちは変わらない?」しまった、やぶ蛇だ。頷くと彼女は買い物袋を開けた。「よかった。あなたのお弁当、片寄ってるの」

#twnovel 昔は写真を撮られると魂が抜けるなんて言われたそうだけど、だとすると魂は写真に移ることにならないか?日本では古来より万物に魂が宿っていると信じられてきたのだから、どんな魂も写真に移る道理だ。「あいつ何してるの?」「焼き肉の写真を見ながら白飯を食うトレーニングだと」

時計の針

#twnovel 壁に掛けられた時計の針が逆に回っていた。「あれ、どういうこと?」部室を見渡すと一人の先輩が手を挙げた。「今日から我が部は時間を逆転させる。いつまでかって?それは我々が幸せだった頃までだ」別の先輩が助け船を出してくれた。「こいつ、単位が足りなくて卒業できないんだ」

子豚

#twnovel 藁の家、木の家、煉瓦の家のアイディアを兄達に使われてしまい、困った4番目の子豚は森の奥にお菓子の家を作りました。甘いものに興味がない狼はやってきませんでしたが、代わりにお腹を空かせた幼い兄妹が訪れました。不憫に思った子豚は彼らにこう言いました。「僕の顔をお食べ」

新人君

#twnovel できる、できないの話じゃないんだ。やったか、やらなかったかだよ。君も社会人なんだからそのくらいの自覚を持ちたまえ。分かったな。え、どっちなんだ一体?「えらい剣幕だな部長。口だけ一丁前の新人君に嫌気がさしたか?」「いや、その新人君が得意先の令嬢に手を出したって話」

化石から

#twnovel 前文明の食文化における解析は困難を極めた。発掘されたカレーライスの化石を精査すると、確認されている亜種以上の差異が認められた。ライスにかけられない状態でのみ発見されるそれは「シチュー」と命名された。なお「ハヤシライス」は早い段階で別種であることが確認されている。

2012年2月29日水曜日

回路

#twnovel 北風が吹き抜けた。「そう言えばさ」唐突に思い出す。「夢を見たんだ。冷たくて引き裂かれそうで、激痛が走って目覚めたらベッドに手を打ちつけてた。これって脳の回路がおかしくなったせいなんだって」ふいに彼女が僕の腕を抱き寄せた。「あなたは、私のカイロです」うん。大丈夫。

時間軸に

#twnovel 「お昼はうどんね」今日の妻の言動は昨日と全く同じだ。うるう年で時間軸に綻びが生じたのか?「新しいバッグ、買ってもいい?」昨日と同じ問いかけに僕も合わせる。「いいよ。明日な」妻の顔から笑みが消えた。「あなた、昨日の明日は今日よ」うどんは単に家計の節約だったらしい。

紡ぐ

#twnovel 交わした愛と交わせなかった愛の数だけ物語を紡いでいる。そう話すと君は首を傾げた。全て過去形なのね。私との物語は別れてからじゃないと紡げない?僕は首を振る。たった今交わした言葉さえ刹那の後に過去に変わる。交わした愛か、交わせなかった愛か、それは紡いでから解るもの。

2012年2月28日火曜日

骨董店にて

#twnovel 頑固親父の骨董店には美しいランプが鎮座している。「こいつにはとびきり上等な女の精が宿っている」奥さんが淹れたお茶を飲みつつ、これだけは譲れないと話すのが彼の口癖だった。彼の死後、店は取り壊された。あの優しそうな奥さんは忽然と姿を消し、ランプの行方も知れない。

2月30日

#twnovel 友人宅に飾られた2月のカレンダーは30日まであった。あれ、うるう年は29日までじゃ? 「よく見ろ。14日が抜けてるだろ。30日はその代わりだ」モテない男の自衛策に俺はすっかり感心した。「同じ理由で3月は32日まである」返す当てがないのにそこまでやらなくても…。

鈍感

#twnovel 渡されたハンカチを畳んでいるところに友人がやって来た。「どうした?」「さっき隣のクラスの女がぶつかってきてお茶がこぼれた。あいつ絶対わざとだぜ」「鈍感な奴だな」「どうせ俺は反射神経が鈍いよ」俺を見て友人が溜め息をつく。「馬鹿。故意に理由はあるが恋に理由はないぞ」

穴があったら入りたい

#twnovel 「穴があったら入りたい」との言葉をヒントに、時の州知事が「入りたくなったら逃げ込む穴」を考案した。家族で入りたいとの需要から穴は大型化し、ハウスメーカーを立ち上げて一大産業となった。「これが、カリフォルニア州アナハイムの名前の由来です」「みんな、信じないように」

2012年2月26日日曜日

#twnovel 「うちのじいさんが町の最高齢登山家ってことで表彰を受けたんだけどさ、山登りを終えたばかりであいにく膝の調子が悪くてね。授賞式に出席できなかったんだ」「それは残念だったな。でも嬉しかったろうね」「ああ、『膝が笑ってる』って言ってたくらいだからね」「…それ違う」

元を辿れば

#twnovel 何億年も枝分かれした生命の営みの末端に我々は生きている。だから、元を辿ればあのハリウッドスターだって、原始生命体の頃は共に天敵から逃げた群れの仲間だったかもしれない。「あの頃は世話になりましたって言わなきゃな」「話が通じるわけないだろ!」「あ、英語じゃないとな」

隣人

#twnovel 長いこと隣人の姿を見ていない。物音一つしないし、ゴミを出している様子もない。気になって電気メーターもチェックしてみたが、どうやら止められているようだ。事件かもしれない。でも誰も真面目に取り合ってくれない。「ていうか、お前んちの隣、ずっと空室だぜ」

しんちゅう

#twnovel 「心中お察しします」とそいつは言った。あのな、そう軽々しく言わないでくれる?あんたに俺の何が分かるんだ?格好が派手だから誤解されやすいが、こう見えて俺の心は弱いのよ。鋼のように硬くはないんだ。まくし立てると、そいつは済まなそうに言い直した。「真鍮お察しします」

猫の日

#twnovel 「2月22日は猫の日。うちの店も何かやりたいよね」「名前に猫がつく人は無料とか」「猫ひろしと江戸家猫八くらいだろ、そんなの」「じゃ、名前のどこかに『ね』と『こ』がついたら無料。これならいるでしょ」「店長、どうです?」「お前ら、うちが葬儀屋だってこと忘れてるだろ」

春が来たら

#twnovel 毎日寒いねとぼやきながら席に着くと、春が来たら旅行に行こうよと彼女が雑誌を開いた。光る海に青い空、南国リゾートが眩しい。僕は少しだけ意地悪を言う。「もし来なかったら?」彼女はすました顔でページをめくった。チャペルの写真で手を止めて一言。「一生後悔させてあげる」

もう一人の

#twnovel 疲れた体を引きずって帰宅すると、暗闇の中にもう一人の自分が現れた。「今まで黙っていたが俺が本家だ。今後も俺として活動するのなら使用料を払え。さもなくば俺と入れ替えだ」俺は迷うことなく入れ替えを選ぶ。伸ばした手が硬いものに弾かれ、鏡の向こうで俺が溜め息をついた。

#twnovel 水産コーナーに激安の蟹があったので店員を呼んだ。「実はこれ、蟹風味なんですよ」風味?本物じゃないのか?「正真正銘本物の蟹です。ただ、蟹らしい味がしないのであえて味を付けています」迷っていると彼は付け加えた。「今日はタラバ蟹風味です」バスロマンじゃあるまいし。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が最近妙に上機嫌だ。何かいいことがあるのかな? 訳を聞いてみた。「いいことを教えてやろう。今年の杉花粉の飛散量は例年を下回るぞ」ハザマさん、それこないだニュースでやってたよ…。

年度末

#twnovel 夜更けにふと目を覚ますと、視界いっぱいに多次元の層が積み重なっていた。その間を小さな作業員達が行き来している。「工事中につき、ご迷惑をおかけします」年度末はどこも忙しいんだな、ご苦労さん。傍らで寝息を立てる妻子が同じ次元にいることを確認して、僕は再び目を閉じた。

2012年2月20日月曜日

相手の気持ち

#twnovel 相手の気持ちを考えて、と言われたので、今まさに口に運ぼうとしている刺身の気持ちを考えてみた。痛かったろうなぁ、もっと生きたかったろうなぁ。捕まらなければ今頃大海原を自由に…「それはマグロの気持ちでしょ」妻が口を挟んだ。「刺身の気持ちは違います」…ち、違うんだ?

あたたかいもの

#twnovel 改札を抜け地上に出た途端、2人の間を冷たい風が吹き抜けた。「あたたかいものが欲しいね」辺りを見渡したけど、入れそうな店はない。ふいに絡めた腕が引き寄せられた。視線の先には一軒のカフェ。歩を向ける僕を彼女の腕がもう一度引き寄せる。「違う、これで充分って意味」

お面

#twnovel 屋台で買ったお面を上手く被れないでいると店の親父に笑われた。「兄ちゃん、まず普段被っている仮面を脱がなきゃな」それを脱いだら?僕は僕じゃなくなるの?待ってよ!「じれったい奴だ」親父の手が僕の顔をはぎ取る。新しいお面から足元を見ると、「優柔不断」が転がっていた。

2012年2月19日日曜日

タイ焼き星人3

#twnovel 人類は種の存続を賭けて応戦し、タイ焼き星人による危機は去った。しかしまだ残党が潜んでいるかもしれない。タイ焼きは厳しく規制され、所持するだけで処罰の対象とされた。「型を所持することは合法だが、そこに生地を流したら違法なんだと」「世知辛い世の中になったもんだね」

タイ焼き星人2

#twnovel 飛来したタイ焼き星人に扇動され、日本中のタイ焼きが決起した。今こそ自由を勝ち取ろう、今日がタイ焼きのインデペンデンス・デイ。政府は対応に追われ、屋台や小売店などに混乱が見られた。「タイ焼きが可哀想だから、代わりに肉まん食べない?」「豚は可哀想じゃないんだ?」

タイ焼き星人1

#twnovel 我々タイ焼き星人は地球の代表政府に対し、正式な協定締結を前提とした交渉の場と、一部の島国で日々殺戮を受けている同胞達の即時解放を要求する。「ねぇ、タイ焼きとタイ焼き星人の違いって何?」「水に入れると沈むのがタイ焼きで、つい泳ぎだしちゃうのがタイ焼き星人」

相対性理論により

#twnovel 相対性理論により新幹線の中は外の世界より僅かに時の流れが遅く、遠距離の僕達は1万年後にはお互いの時間に明かなズレが生じてしまう。君にだけ先に歳をとらせたくない。だから僕が逢いに行くだけじゃなくて、君にも来て欲しい。「って言ったら殴られた」「早く結婚してやれよ」

卒業する前に

#twnovel 卒業する前に思い切って告白しようと決意したのに、卒業したら会えなくなるから寂しいね、と先手を打たれてしまった。これはどういう意味なのか? 思いあぐねて友人に相談した。「馬鹿なことで悩むな。学食のお姉さん、ああ見えて既婚者だぜ」

重なり合う

#twnovel 出発の日から1年が経ちました。専門家の見立てでは、1年後に桃太郎が鬼ヶ島から戻る確率は50%。したがって、現状では生きている状態と死んでいる状態が1:1で重なりあっていると解釈しなければならないのです。おじいさんとおばあさんは次に備え、今日も桃を割り続けます。

見知らぬ女性が

#twnovel ある夏の日、見知らぬ女性が訪ねてきた。戸惑う僕の前で頬を赤らめる彼女。僕は半年前にバレンタインチョコの落とし物を交番に届けていたことを思い出した。婚約者へのチョコだったそうだ。「私達は結婚しますが、あなたのことが1割好きです」僕は大変申し訳ない気持ちになった。

夢で喧嘩

#twnovel デート中に彼女と大喧嘩する夢を見た。夢の中で僕は有名店の限定カレーを頬張り、彼女の白い服にシミを付けてしまった。いつも通りの笑顔で現れた彼女に夢の内容を話すと、彼女もデートの夢を見たという。喧嘩は? 彼女は頷いた。「カレーが売り切れてたから、他のにしたのよ」

2012年2月14日火曜日

セラエノの小さな物語2 ~大人になるまで死ねなかった子供たちの童話~



昨年に引き続き、セラエノの小さな物語第2弾が公開されました。前回参加の5名に加え、今回はプロ小説家、漫画家も参加して読み応えのあるアンソロジーに仕上がっています。
無料です。ぜひご覧下さい。

参加者のひとりである齊藤想さんによる紹介文はこちらです。併せてどうぞ。

ハザマさん

#twnvday ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が書類不備で受験出来なくなる未来を見てきたと言う。どうして助けてくれなかったんだよと文句を言うと彼は言った。「親御さんに無駄な負担を掛けるな。心配ない。本命は受かるから」


毎月14日はツイノベの日! 今回のお題は「本命」です。伝えきれない気持ちでも、ちょこっとだけ140字の型にはめて。タグをつけたらラッピング。あなたにとっての"the favorite"な物語をお聞かせください。【毎月14日はツイノベの日! お題「本命」 #twnvday 】

感情

#twnovel 全ての生物が豊かな感情を有することが確認された。彼らとの意思疎通が進むにつれ、一部の風物詩が消滅の危機に追い込まれた。土用の丑の日は鰻の大虐殺であるとされ、そこへ目をつけた菓子メーカーは鰻状のチョコを開発した。しかし、カカオからの抗議によって発売は見送られた。

ライフワーク

#twnvday 「ライフワークなんて言葉があるけれど、趣味にせよ仕事にせよ、一つのことを何十年も続けるというのは傍で思うより難しいことなんだ。もっとも、夢中になっている当の本人は少しも苦にしていないわけだが」「分かっていますよ。何年あなたを見てると思ってるんですか」


毎月14日はツイノベの日! 今回のお題は「本命」です。伝えきれない気持ちでも、ちょこっとだけ140字の型にはめて。タグをつけたらラッピング。あなたにとっての"the favorite"な物語をお聞かせください。【毎月14日はツイノベの日! お題「本命」 #twnvday 】

いい思い出

#twnvday 「バレンタインデーっていい思い出ないんだよなぁ。俺、今まで一度も本命チョコをもらったことないんだ」「そうか。俺は今まで一度も義理チョコをもらったことないぜ」「凄いな。モテまくりじゃん」「間違えた。一度も義理チョコ『すら』もらったことない、だった」「…生きようぜ」


毎月14日はツイノベの日! 今回のお題は「本命」です。伝えきれない気持ちでも、ちょこっとだけ140字の型にはめて。タグをつけたらラッピング。あなたにとっての"the favorite"な物語をお聞かせください。【毎月14日はツイノベの日! お題「本命」 #twnvday 】

2012年2月9日木曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、人生の節目に現れアドバイスをくれる。そんな彼が、1年前の僕を見てきたと言う。「ついのべ書いてたよ。雪が降ったとか言って」そうか、書き始めてから今日で1年。これが500作目だ。来年まで何作書けるかな?「教えたらやる気出すかい?」

2012年2月8日水曜日

マカリトオル君

#twnovel マカリトオル君はいつも強気な人だ。生まれてこのかた、自分の道は全て自分で切り開いてきた。彼の辞書に不可能の文字はない。探求心旺盛な彼はやがて哲学に、そして宗教に真っ向から取り組みだした。生涯をかけて彼は人の営みの全てを理解した。けれど真実にはたどり着けない。

#twnovel 街中で君の姿を見掛けた気がした。そんなはずはないと心の中で否定しつつも、込み上げる感情が踊り出す。たぶん白昼夢。これで車に轢かれでもしたら洒落にならないけど、でもそしたら本当に君に会えるかもね。「バカ」君の声が聞こえた気がした。夢かも知れないけど。

2012年2月7日火曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼に、僕はチョコを幾つ貰えるのか聞いてみた。「肉親からのは勘定に入れるのか?」やめてよ、唯一貰ったのが母親からなんて。彼は少し黙った後、続けた。「分かった。特別に俺からもやる」

好み

#twnovel 放課後、隣のクラスの女子数人に呼び出された。顔と名前すら一致しない彼女達から好みなどを聞かれて戸惑いまくりの俺。「バカだなお前。それバレンタインの下準備だぞ」友人の言葉で合点がいった。「で、何が好きって答えた?」「…普通にチャーハンとか」「…困ってるぜ、きっと」

2012年2月6日月曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼に、僕は将来幸せな人生を送れるのだろうかと聞いてみた。彼は、僕の息子の言葉で察してくれと前置きしてから言った。「ありがとう。いいお葬式でした」…先、行きすぎだよハザマさん。

打開策

#twnovel いつもと違う道を帰ってみる。最近開店した総菜屋に寄り、書店で新刊を買う。ふとした折に覚える新鮮な感覚も、次の瞬間には色褪せている。退屈で死にたくなる。「ここが火星だと思ってみたらどう?」女友達がからかう。よせやい、火星は新婚旅行先にとってあるんだ。急かすなよ。

やる気

#twnovel 「やる気出します」の幟を立てた店に入ってみた。「こちらです」店員がカウンターに小瓶を置く。これを飲めばやる気が出るのだろうか。試しに買ってみることにした。「こちらに署名をお願いします」『私はやる気を出します』の誓約書を持たされ、僕は店を出た。何か騙された気分だ。

主任、

#twnovel 自分が死ぬときの気持ちを想像したことありますか?きっと怖いでしょうね。でも、同時に今まで背負ってきた人としてのあらゆる責任から解放されることを思うと、死ぬのも悪くないかなって思うんです。「だから主任、死ぬ気で仕事を取って来いとは、僕にとってそういう意味ですから」

2012年2月3日金曜日

マメマキ

#twnovel かつて世界中で悪事の限りを尽くしてきた「鬼」ですが、近世、人間によるパンツ目的の乱獲の末に絶滅してしまいました。現在、東洋の一部の国に残っている「マメマキ」の儀式は、身勝手な人間によって絶滅に追い込まれたそんな鬼達に対する懺悔の意味が込められていると言います。

恵方巻札

#twnovel お昼のニュースです。恵方巻と同じ福が得られる「恵方巻札」が物議を醸しています。これは一口サイズの細巻きとセットになったもので、これまで量が多すぎると敬遠してきた女性達の間で評判となっています。一方で、通常の恵方巻と同価格であることに対し疑問の声も挙がっており…

決め手

#twnovel 町内でも有名な仲良し老夫婦に夫婦円満の秘訣を聞いた。ご結婚に至った決め手は何ですか? ご主人が笑って答えてくれた。「確かこの時期だったかのう。節分でもしようか?とワシが豆を持って行ったら婆さんの奴、それを接吻と聞き違えてなぁ」お茶を運んできた奥様が頬を赤らめた。

召し上がる方

#twnovel レトルト食品のパッケージを眺めていたら「召し上がる方」と書かれていた。てっきり「召し上がり方」だと思っていたが違ったようだ。読み進めていくと「召し上がらない方」の項目を見つけた。「召し上がらない理由を理論武装の上、下記の住所までお越しください」何だか怖くなった。

2012年2月2日木曜日

三文の徳

#twnovel 「早起きは三文の徳と言いますが、現在の貨幣価値に換算すると幾らになるのでしょうか?」「およそ100円程度です」「それでは、早起きによるデメリットはありますか?」「野生の熊の冬期間の習性からお察しください」「分かりました。明日からの行動指針の参考にさせて頂きます」

#twnovel 連日降り続いていた雪は、居酒屋を出る頃にようやくやんだ。明日も待ち受ける雪かきを思うと嫌になる。酔いに任せ、俺は夜空に叫んだ。「降らせてる奴いい加減にしろよ。恨みでもあるのか〜」お前バカじゃねーのと笑いかけた同僚の表情が固まる。見上げた月に雪が積もっていた。

2012年2月1日水曜日

失踪

#twnovel 彼の失踪は大きく報じられました。年老いた母親や支援者達は懸命に探しましたが足取りがつかめません。金銭トラブルや拉致の可能性も取り沙汰されましたが、捜索は行き詰まってしまいました。カメの甲羅に乗って海へ潜っていったという子供達の証言は、初期の段階で無視されました。

鬼退治

#twnovel 「俺、鬼退治に行きたいんだけど」それを聞いたおじいさんは首を振りました。「桃太郎や、鬼ヶ島の入園料がいくらすると思っているんだ。馬鹿なことを言うな」おばあさんが提案しました。「ちょうど鬼ヶ島でキャストの募集をしているよ。そろそろお前も働いて私達を楽にさせとくれ」

ゼッコウアメ

#twnovel 親友にゼッコウアメを渡された。「お前とは絶交だ。口も利きたくない」ほろ苦さが口の中に広がっていく。どうしようもない後悔の念が沸き上がってくるが、アメを舐めているので口が利けない。こぼれ落ちた涙を見た親友が目を背けた。「分かったよ、じゃあまたな」甘い後味が残った。

2012年1月31日火曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてアドバイスをくれる。そんな彼に、将来出世できるのか聞いてみた。この癖毛を直すのに朝が忙しいのだ。重役出勤とやらをしてみたい。彼は僕の手元を指して言った。「出世はできないが大丈夫だ。そのブラシは必要なくなる」

ユックリさん

#twnovel ユックリさんは何をするにもスローなおじさんだ。食事に何時間もかけるし、1週間寝たあとは2週間は起き続けている。子供達は彼を怠け者と嘲笑った。やがて子供達は大人になり、年老いて死んでいった。ユックリさんは相変わらずおじさんのまま。その姿を子供達が囃し立てる。

日替わり

#twnovel 彼女を日替わりランチの人気店に誘った。「ごめんね、今日はパスタの気分なの」それなら僕も、と言うと睨まれた。「あなたはパスタの気分じゃないんでしょ。無理に合わせないで」無理してないよ。僕はずっと君の気分だから。そう答えると彼女は俯いて「…日替わりは許さないからね」

2012年1月30日月曜日

電話代

#twnovel 「近頃電話代が高くてねぇ」苦笑する祖母が口にした額はかなりのものだった。遠くに友人がいる訳でもない祖母が一体どこに掛けているのか気になった。「やぁねぇ。お祖父さんに決まってるでしょ」そう言えば、祖父の突然の死を隠そうと、出張に出掛けたと嘘をついたのは私だ。

#twnovel 想いは川のように枝分かれしながら流れていく。細い支流は途中で枯れ、地表に染み込んで消えてしまうこともあるけれど、それでも下へ下へと。もとより、低地の僕の想いは高地には届かない。だから僕は流れ着いた想いを受け止め続けた。いつか大きな湖を君に見つけてもらえるように。

写真写り

#twnovel 私、写真写り悪いんだよねーと言う友達に返事を言いあぐねていると、後ろから伸びた手がひょいとカメラを掴んだ。「贅沢抜かすな。俺なんて写りゃしねぇんだから」パシャ。彼は自分撮りしたカメラを私に返した。確かに背景しか写っていない。「今の誰?」振り向いても誰もいない。

クレーム

#twnovel 今年の冬は寒すぎると、サポートセンターにクレームを入れた。担当者によると、春の供給が不足しており、過去の暖冬で過剰在庫になっている冬で穴埋めしているせいだという。不足の理由を問いただすと、担当者は続けた。震災、EUの経済危機、タイの洪水、そして若者の春離れ…。

2012年1月28日土曜日

時計屋さん

#twnovel 村で唯一の時計屋さんは今日もせっせと時を刻む。彼が亡くなった日、村の時間は停止した。村人は誰もそのことに気付かない。数十年、あるいは数百年が経った。新しい時計屋さんが店に住み着き、時を刻みだした。村人達はある変化に気がつく。あれ、いつの間に時計屋さん代わったの?

リンゴ

#twnovel 待ち合わせの場所に着くと、彼女がリンゴを手にしていた。聞けば近くの青空市で調子の良いおばさんから買わされたのだという。毒々しいほどに真っ赤なその姿。毒リンゴだったりして?と僕がからかうと、彼女はするりと腕を絡ませてきた。「そしたら、キスしてくれる?」

新年会

#twnovel 「新年会の幹事、任されたんだって?」「おう、題して『新春!年忘れ新年会』だ。楽しみにしててくれ」「忘れるの早すぎだろ!」「嫌な上司やバカな役員達を弄り倒せるチャンスだぞ」「忘れてくれりゃいいんだけどな…」「…そうだな」

子供エレベーター

#twnovel 子供エレベーターに乗った。7歳で降り、出会った少年との他愛のない遊びの中であの頃の気持ちがよみがえる。出来るならずっとここにいたい。思わず漏らすと彼は目を輝かせた。「じゃ、交代な」彼はエレベーターに乗って大人になり、僕は永遠の7歳を務める。次に誰かに代わるまで。

気持ちの整理

#twnovel 「気持ちの整理がつかないんです」そう訴える私に医者は専門家を紹介してくれた。やってきた業者は実にテキパキと片付けていく。たちまち私の心はガランとなった。「私って片付けられない女だったんだね」俯く私の肩を彼が優しく抱き寄せる。「大丈夫」心の隅に一輪の花が置かれた。

手ぶれ補正

#twnovel 「手ぶれ補正機能ってあるだろ?あれと同じ原理だよ」地震の揺れを大幅に軽減する発明をした技術者の友人は言った。大地震が発生しても犠牲者が出なかったらお手柄だな。そう話すと彼は声を潜めた。「念のため、自分のバックアップはとっておいてくれ。責任は負いかねる」

2012年1月27日金曜日

物忘れ

#twnovel 最近物忘れが激しくてねと妻に話すと、私は忘れ物が多くて困るのよと言われた。それならお互い補完しよう。君の忘れ物に僕が気付き、僕の物忘れを君が指摘する。そういうことで話はまとまったのに、妻は一緒に行くはずの旅行に僕を忘れて出発し、僕は旅の予定そのものを忘れている。

ニーズ

#twnovel 新人営業マンの僕はいつも女性上司に叱られる。「あんたがやってるのは冬にクーラーを売るようなものよ。顧客のニーズを掴まないと」そう言って彼女は買ってきたアイスクリームの箱を開けた。「ま、これでも食べて元気出そう」…この季節にアイスが売れる理由が僕には分からない。

紙芝居

#twnovel 世界がオーバーフローを起こし、対応策として身の回りが紙芝居になった。1枚目で目覚め、2枚目には学校にいる。3枚目が給食で4枚目が塾。大好きなあの子の顔は5枚目でしか見れないけど、ずっと笑顔のままだから嬉しい。おしまいの文字が夕日に浮かび、僕は再び目を覚ます。

2012年1月26日木曜日

犯人

#twnovel 日本各地に雪を降らせていた犯人が逮捕されたとニュースが報じると、昼寝をしていた父が顔を出してきた。「犯人は女だろ?」え、どうして分かったんだよ?驚く俺に父は当たり前のように答えた。「雪を降らせるのは雪女に決まってるだろ。雪男にそんな芸当ができるか」

お誘い

#twnovel お昼一緒に食べない?なんて言われたものだから、午前中は仕事そっちのけでランチスポットを探しまくってた。人気店は行列ができて昼休みには厳しいし、かと言っていきなりホテルのランチも引かれそう…。12時になり、彼女が僕の席に来た。「何してんの?社食行こ」…ですよねぇ。

省エネ冷蔵庫

#twnovel 貧乏な僕は、中身が空になったのを感知して自動的に電源を切る冷蔵庫を考案した。まさに省エネじゃないか。早速製品化したがサッパリ売れない。相変わらずの貧乏生活を続ける僕のもとを訪ねてきた友人が言った。「あのな。冷蔵庫が空になることって、普通の家庭ではまずないぞ」

2012年1月25日水曜日

思い出せない

#twnovel 同窓会の立食パーティーで同じテーブルについた奴と話が弾んだ。だけど名前が思い出せない。こんなに親しく話しておいて名前を聞いちゃ失礼だよな。思案していると奴が言った。「それじゃ俺、田中に挨拶してくるから。齋藤も後で来いよ」…田中って誰だよ。それに俺齋藤じゃねぇし。

生まれ変わって

#twnovel 彼女と喧嘩。悪いのは僕だけど、生まれ変わってもまた逢おうね、なんて直前に交わした甘い言葉が馬鹿らしく思えて今さら謝れない。翌朝、初めて会った教会前のバス停に彼女がいた。僕の前に立ち、「汝は生まれ変わることを誓いますか?」朝日を浴びた仰々しい姿に、つい「Yes」。

カモシダさん

#twnovel カモシダさんは常に後悔の念に苛まれている。「あの時ああすればよかったのかも」「あれで人生の歯車が狂ったのかも」後悔の海に溺れた彼はそれでも必死にもがき続けているのだが、実行が伴わないので誰にも気付かれない。人畜無害な上、考えようによってはとてもエコな人だ。

2012年1月24日火曜日

幸せ

#twnovel 訪問販売のセールスが来た。幸せを買ってくれという。まったくくだらない。そんな金があったら家族や自分のために使う。例えば私がここで君に100万円払ったとして、誰一人幸せになんてなれるものか。販売員は言った。「そんなことはありません。少なくとも私は幸せになれます」

いいえ

#twnovel 私の質問には全て、いいえ。で答えて下さい。なお、この事情聴取はあくまでも任意ですので、あなたにはいつでも拒否する権利があります。それでは今から嘘発見器を使った事情聴取を行います。よろしいですね。「いいえ」

サイコロ昼食決定システム

#twnovel サイコロ昼食決定システム。3つのサイコロの目にそれぞれ主食と副食と汁物を割り当てる。出た目で昼食の組み合わせが決まる仕組みだ。まずは麺類で試してみよう。出た目は絶対。それがルールだ。「どうしてお前、パスタに天ぷら載せてとんこつスープかけてんの?」

矛盾

#twnovel 「今を悔いなく過ごせ」「目先のことばかり考えず将来を見据えろ」大人の言うことは矛盾だらけで、だから僕らはやりきれない日々を過ごしている。「あの頃は良かった」それが肯定の言葉ではないことはおぼろげに理解できるけれど、君とこのまま一緒にいていいのかは分からない。

2012年1月23日月曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が食中毒で病院に運ばれた未来を見てきたと言う。いつ?何を食べたのと聞いても教えてくれない。やがて彼はポツリと言った。「我慢しな。最初はひどいけど結婚したら料理上手になるから」

ネックレス

#twnovel 彼女の部屋で仲良く写真鑑賞。2人で行った旅行先などに加え、時折僕の知らない彼女の日常風景が顔を出す。見覚えのない場所に立つ彼女の胸元には、せがまれて先日プレゼントしたばかりのネックレス。ここどこだったかなと視線を落とすと、右下の日付は僕らが付き合う遙か前…。

一緒

#twnovel 「ブランド物を新作が出る度に欲しがる女とは付き合いたくないよな。だってどれもこれも元々は動物の皮と石油だろ?何だって一緒だよ」「それを言うならお前も俺も、あのイケメンやエリート達と同じ元素で出来てるんだぜ。一緒だよな」「あー、一緒になりてぇな」「そうだな…」

冷やし中華始めました

#twnovel 「冷やし中華始めました」いくら何でも早すぎるだろうと思いつつ、気になって暖簾をくぐる。注文を取りに来た店員に興味本位で聞いてみた。「冷やし中華ありますか?」「ございますよ。温かいのと冷たいの、どちらになさいますか?」

2012年1月19日木曜日

ハサミ

#twnovel 妻が調理用ハサミをいくつも買ってきた。「これが肉用でこっちが魚用、これはね…」説明しながら嬉々として食材を切断していく。「怖いこわい。俺も肉バサミで切られないように気をつけなきゃな」妻はキョトンとした顔を俺に向けた。「何言ってるの。脂身用はこれ、間違えないでね」

話の種

#twnovel 僕らは話の種を蒔いて物語を紡ぐ。種がどこから来たのかなんて知らない。どうやって作られるのかさえも。それでも僕らは物語を紡ぐ。種の作り方は知らなくても、育てて実を成らすことならできる。その実がどこに行くのかは知らないけれど。

2012年1月18日水曜日

想い

#twnovel 言葉はいつだって不確かで、どんなに慎重に選んでも想いは伝わりきらない。ノイズをまとい、幾多のやりとりの間で不確かに増長していく。その結果、誤解を生み、諍いが生じ、諦めが漂い、周囲に拡散し、気持ちが揺らぎ、そして今君が隣にいる。「だから愛してるよ」「聞こえません」

チキン

#twnovel チキンが大好きなトサカ君の誕生会には、山盛りのチキンが並べられました。それを見た彼は感極まり、「俺、生まれ変わったらチキンになりたい!」ひとしきりの笑いの後、先生がこう諭しました。「チキンはね、生まれ変わってなれるものじゃないの。死んだ後になれるのよ」

タブレット版魔法のランプ

#twnovel タブレット版魔法のランプ。スクリーンを擦るとランプの精が現れ、画面下のソフトウェアキーボードで願いを入力する。3つの願いのうち入力ミスで既に2つ無駄にしてしまった。「くそ、もっとマシなキーボード出せ!」「承知しました」翌日、Amazonからキーボードが届いた。

さよなら

#twnovel 星へ還るその夜、僕は地球でできた唯一の友人を飲みに誘った。正体を隠してきたことを侘び、今までの感謝の意を伝える。「君の脳から僕に関する記憶を消去する。そういう規則なんだ」差し出した薬を彼は拒んだ。「それには及ばないさ。お前のことなんて3日も経てば忘れるから」

無神経

#twnovel 「彼女に無神経な人って言われちゃったよ。なんか凹むなぁ」「気にするな。雑草という名の草がないように、無神経と言う名の神経も存在しない」「貶してるのか慰めてるのかどっちだお前?」

2012年1月15日日曜日

S-Fマガジン リーダーズ・ストーリィ用原稿とセラエノ第二弾進行中

昨日投稿しました。半年ぶりです。
因みに前回の投稿作は2011年12月号で選評止まりでした。

これからは、来月Pubooにて公開予定の「セラエノの小さな物語〜大人になるまで死ねなかった子供たちの童話〜」用原稿の仕上げに集中します。
今回は複数のプロ作家も参加し、全作書き下ろしのアンソロジー集です。気合いが入ります。

13日の金曜日

#twnovel 「13日の金曜日にジェイソンのマスクを被って彼女の家に行ったことがあってね」「どんな反応だった?」「それが玄関先で黙り込んじゃってさ。それで仕方なく、トリックオアトリートって言ってみたんだ」「アホだな。それで?」「彼女に豆をまかれた」「ちぐはぐすぎだろお前ら」

ソックリさん

#twnovel 子供の頃に流行った遊び。1人を囲み「ソックリさん、ソックリさん、おいでください」と呼びかけるとその人のソックリさんが現れ一緒に遊んでくれる。ただ、「お帰りください」と頼んでも帰らず、本人の給食を食べてしまうケースが相次いだため、学校でのソックリさんは禁止された。

2012年1月10日火曜日

成人式

#twnovel 成人式に一緒に行かないか?と友人からの電話。なに寝惚けてんだよ成人式は昨日だろ、しかも俺らとっくに二十歳過ぎてるしと言いかけて、そいつが成人式の朝に事故で亡くなっていたことを思い出した。車で迎えに来てくれと言い残して電話は切れた。ちょっと待て。それじゃ俺も…。

不良品

#twnovel 30年後の姿が姿が映し出される鏡を買った。30年後に存在しないものは映らない。恐る恐るその前に立つ。くたびれた中年の僕がそこに映った。「その鏡、俺にも使わせてくれよ」「不良品だからって、お袋が返品しちゃったんだ」「不良品?」「寝たきりの爺ちゃんの姿が映るって」

2012年1月7日土曜日

やり繰り

#twnovel コタツがないので脚立で暖をとる。車は買えないから初詣でだるまを買う。全くくだらないことだけど、こんな行為で生活をやり繰りしている。就職先は決まらないが、売り払った臓器の移植先なら決まっている。染みわたる酒だけは本物だ。幸せは来ないけどしわ寄せは確実に来ている。

夢の終わりに

#twnovel 夢の終わりにエンドロールが流れるようになった。これは人生の暗示なのだ。夢の中で僕はそう確信した。人間は一人では生きていけない。自分のあずかり知らぬところで誰かが関わっているのだ。やがて、我が人生のヒロインである愛する彼女の名前が出てきた。え、「友情出演」って…。

見たくないもの

#twnovel 「見たくないものは見ない」そう決めてからどれだけの月日が流れただろう。僕の瞳に映る物は日々減り続け、視界は閉じられていく。でもね、聞くほど悪い話じゃないんだよ。これはこれで快適に暮らせているよ。だから大丈夫、そう伝えたい君の姿は僕の瞳に映らない。

仕事始めは気が重い

#twnovel 仕事始めは気が重い、なんてこぼすと先輩にどやされる。「お前、この仕事向いてないんだよ」確かにそうかもしれない。特にこの時期、客と対面した際の気まずさったらない。「おじいちゃん。餅は小さく切ってよく噛んでって言われてたでしょう?」出迎えた僕が言っても遅いんだよね。

遅れて

#twnovel 「子供の頃、プレゼントがない年があってね。サンタさんが遅れて来るかもって、ツリーを片付ける親を泣きながら止めたんだ」「純真だね。それでサンタは来たのかい?」「正月明けにようやくね」「君の親が何て言い訳したのか気になるんだけど」「今回は船便だったんだろって」