2011年10月25日火曜日

愚痴

#twnovel 愚痴を聞いてくれてありがとう。長電話に付き合ってくれてごめんね。メールに写真を添付してくれて本当に嬉しい。なのにどうして会いに来てくれないの?コンビニでプリントしてきたばかりのあなたの笑顔にまた愚痴る。ぎごちないセルフポートレートに口元が緩むのを堪えながら。

ここだけの話

#twnovel 「ここだけの話なんですがね」僕を呼び止めた男は言った。「拘束されたのは替え玉で、大佐は実は逃げ延びたのです」驚く僕の顔を見て彼は頷く。「店の主人が証言しています」店の主人?男は1枚の写真を差し出した。「それが、拘束された替え玉が入っていた丼です」…誰か助けて。

話題

#twnovel 話題はいつもここ数日の出来事からはじまって、やがて互いの住む街の天気に移っていく。ふと黙り込んだ小さな息づかいの向こうに流れる聴き慣れない地名を地図に想い描きながら、私はこの沈黙を打ち破る。「寒くなると人恋しくなるね」君が、とは言わない。言わなくても伝わってる。

転倒虫

#twnovel よちよちよ歩いてすぐ転ぶ、この生き物から目が離せない。「転倒虫って言うんです。ほら、すぐに転んじゃう。かわいい奴ですよ」人生転びっぱなしの俺と一緒、道理で親近感が湧くわけだ。店員は嬉しそうに続けた。「こいつは諦めずに何度でも起き上がるんです」なんだ、気のせいか。

2011年10月19日水曜日

招待状

#twnovel 妻から披露宴の招待状が届いた。相手は俺の知らない男だ。「出席してくれるよね?だって夫婦なんだから」祝福ムードが俺の戸惑いを加速させる。大勢の人々に祝福され、式は執り行われた。翌朝、妻は何事もなかったかのように帰宅した。盛大な浮気だったと気付いたのはその時だ。

リンネさん

#twnovel リンネさんは輪廻転生を繰り返しているという。いつの世も、前世の記憶を皆に話して聞かせることが彼の役目。しかしそれも面倒になったらしい。彼は今、Tシャツ屋を営んでいる。自分の前世を転写して販売しているのだ。ためしにカエル柄のを1着買ってみた。何を語るのか楽しみだ。

2011年10月18日火曜日

目玉特典

#twnovel このラーメン激戦区で生き残るために当店は低価格路線をとった。ラーメン1杯180円は誰の目にも魅力的に違いない。しかし、更なる目玉特典の利用客がゼロというのは何故なんだ?年に1度、誰もが半額になるというのに。「店長、誕生日にウチに来たがる客なんていません」

週刊あなたの人生の物語

#twnovel 週刊あなたの人生の物語。毎号付いてくるパーツを組み立てていくと幸せな人生が築ける。創刊号は婚約指輪が付いて780円。喜んで飛びついたが、いつしか飽きてしまった。手元には渡す相手のいない婚約指輪と、第2号付録の孫の弁当箱、第3号付録の配偶者の頭部だけが残っている。

あなたの人生を変えた人

#twnovel あなたの人生を変えた人物は誰かって?そりゃ前の職場の上司だよ。向こうからしたら俺。え、お互い尊敬し合っていたのかって?違うよ。そりゃもう犬猿の仲でね、顔を思い浮かべるだけで殺してやりたくなったもんだ。ま、実際に殺しちゃったから、俺の人生が変わった訳だけどな。

トランポリン

#twnovel 雲はトランポリンのようにふわふわしていると子供の頃は思ってた。実は今でもそうだったらいいなと思うんだ。馬鹿みたいだろ ?うん、でもそこがいいの。真顔で言われ照れ隠しに彼女の頬を指先で突く。トランポリンのような肌が小さくふくれた。「せめてマシュマロって言ってよね」

溜め息

#twnovel 他人の溜め息を集めはじめた。溜め息をつくと幸せが逃げるのなら、溜め息イコール幸せのはずで、たくさん集めれば幸せになれる道理だ。しかし、いくら集めてもちっとも幸せになれない。必死になってかき集めているうちに、あることに気がついた。皆、僕の顔をみた途端溜め息をつく。

熊が出るから

#twnovel 山菜採りに出掛ける私を妻が笑顔で呼び止めた。「熊が出るから、これ持って行ってね」つくづく気の利く女だと思う。案の定、巨大な熊と遭遇した。妻がくれた包みを開くと現れたのは鋭利な果物ナイフ。熊と対峙するにはあまりにも心細い。だが、私の喉を切り裂くには充分のようだ。

2011年10月9日日曜日

優柔不断

#twnovel 優柔不断の僕は、いくつもの店が並ぶフードコートが苦手だ。彼女は既にラーメンを運んできた。「伸びる前に決めてよね」こんなだからいつまでもプロポーズできないんだ。僕は決心する。「式場を見に行こう」彼女が固まった。あれ、決めるってメニュー?デートの行き先じゃなくて?

再会

#twnovel 学生時代の恋人と街で偶然再会した。一瞬、驚きの表情を浮かべる彼女。きっと僕も同じ顔をしたに違いない。「ママー」幼い声が彼女を呼んだ。言葉は交わせない。同伴しているお互いの家族に悟られないように僕らはすれ違う。「孫どころか嫁の顔も見れやしない」傍らで母が愚痴た。

他人の夢

#twnovel 「他人の夢に侵入するのは簡単なことさ」街で出会った男が嘯く。「睡眠時は誰もが無防備だからな。でも川は渡らない。その人の感情に流されたら戻れなくなる」夢にその男が出てきた。僕は抗議の意味を込め川を氾濫させた。…と言うのが、おねしょした時の言い訳に用意している物語。

#twnovel 「ねぇ大将、外にある冷やし中華の幟、しまわなくていいの?」そう切り出す僕を、大将は待ってましたとばかりに満面の笑みで迎えた。「ウチの看板メニューを夏だけにしとく手はないって思いましてね。是非どうぞ」指された看板に目を疑った。「冷やし中華(Hotあります)」

ため息

#twnovel 前売り券を家に忘れてきたことに気付いた。仕方なく列に並びチケットを買い直す。「貴方って肝心なところが抜けてるのよねぇ」10年来の女友達が呆れたようにため息をつく。そんな顔するなよ。それにしても君が恋愛映画が好きだったとは意外だね。彼女がもうひとつため息をついた。

2011年10月1日土曜日

こっそり

#twnovel 過去が撮れるカメラが面白い。白髪の両親が若々しい姿で、ペットの老犬は子犬に写る。住んでいる2階建てのボロアパートが、以前は平屋だったことも写真で知った。恥ずかしいからと卒業アルバムを見せてくれない、付き合い始めたばかりの彼女をこっそり撮ってみた。…男だった。

なおらない

#twnovel 風邪がなおらない。医者に聞いても薬局でも、なおしかたは分からないと言う。私は必死に情報を集め、その甲斐あって風邪はなおった。良かった、熱が上がっていくのが分かる。直った風邪が仕事を始め、私は風邪をひいた。治るまでの間、大好きなあの人にうつされた風邪を堪能しよう。

代行

#twnovel 死を代行してくれる今際屋のおかげで人は不死を得た。やがて社会は老人であふれ、街から子供の姿が消えた。上がつかえているために入社50年を過ぎても係長にすらなれない、老人の老人による老人だらけの会社。死にたい。僕は今輪屋に転職した。いつか死ねるという生き甲斐を胸に。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいる。幼い頃から人生の節目に現れては、僕にアドバイスをくれる。その彼が、未来で僕が事故に遭ったと告げた。「信号無視の車にはねられたんだ」どうして事前に教えてくれなかったの? 彼は言った。「だって入院先の看護婦と結婚するんだぜ、お前」