2012年3月24日土曜日

お墓みたい

#twnovel 「お墓みたいだったわね」帰りに妻が口を開いた。検討中の物件はコンクリート打ち放しのデザイナーズ住宅で、確かに石棺を連想できる。でもそんな縁起でもない言い方ないだろ、君も気に入ったと思ったのに。口を尖らす僕を見て妻が笑う。「いいじゃない。お墓だって一緒に入るのよ」

あの頃の僕達は

#twnovel あの頃の僕達は、毎夜の長電話を「愛してる」で締めるのが常だった。そんな思い出に相応しい状況ではないけれど、それでも離婚調停中の妻との長電話はあの頃の思いを呼び戻した。受話器を置くのが少し怖い。最後の言葉に逡巡していると、耳元で懐かしい声が囁いた。「愛してた」

博士の発明

#twnovel 博士の研究所には様々な発明品が並んでいる。身につけるだけでお金持ちになれる腕時計、着るだけでお金持ちになれる服、被るだけでお金持ちになれる帽子等々、凄い物ばかりだ。これらを発明した博士はさぞお金持ちなんでしょうね? 博士は頭を掻いた。「ああ。売れたらな」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、近々僕に接近してくる女性の存在を教えてくれた。毎朝バス停で顔を見るあの子だという。ハザマさん、的確なアドバイスを!「いいか、まず右アッパーが飛んでくる。避けたら逃げろ」

別れを決めた夜

#twnovel 別れを決めた夜、僕達は2人の思い出を10巻に分割した。お互い1巻ずつ選び、残りは処分する。出会った頃の彼女を忘れられない僕は第1巻を選び、僕を嫌いで居続けたい彼女は最終巻を手に取った。残りを二人で水に流す。そうして僕らは手を離し、泣きながら新たな思い出を繋ぐ。

不眠症

#twnovel 「先生。私、不眠症でしょうか?1年以上寝てないんです」「大丈夫ですよ。不眠症で死んだ人はいません。脳は無意識に休息をとっているのです」「でも本当です。全然眠れないんです」患者の夫が申し訳なさそうに口を挟んだ。「こんな寝言が毎晩続くんです。おかげで私が不眠に…」

シェフ

#twnovel 廃業したシェフの転職先は葬儀社だった。「これからもご贔屓にとは言いにくいですね」親の代からの付き合いである彼は苦笑した。数年後、父が亡くなった。葬儀社の担当はもちろん彼。思い出話に花が咲く打ち合わせの最中に彼は言った。「お父様、焼き具合はミディアムでしたよね?」

冷やし中華

#twnovel 「冷やし中華はじめました」の幟に惹かれて暖簾をくぐる。メニューを開くと、目当ての冷やし中華の隣に小さく「冷やし中華2011」が並んでいた。数量限定でしかも安い。何か理由でもあるのだろうか? 注文を取りに来た店員が耳打ちしてくれた。「それ、去年の在庫品なんですよ」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、この春僕に出会いがあると教えてくれた。相手はどんな人だろう?楽しみだな。浮かれた僕を見て、彼は溜め息をついた。「人の話は最後まで聞け。出会いじゃなくて、出会い頭の事故だ」

忘れない

#twnovel 全ての事象には始まりがあり、いつか終わりが訪れる。蜜月の頃に君の口から出たそんな言葉に、僕はどう応えるべきか戸惑った。「この世に永遠なんてないの」やがて僕らはその言葉を身をもって知ることになった。永遠なんてもう信じちゃいないけど、その言葉だけは永遠に忘れない。

2012年3月16日金曜日

シンネンさん

#twnovel 開けたものは閉めなければならない。そんな几帳面なシンネンさんがはじめた新たな日本の風習。年末、1年間お世話になった人へ送る「閉めましてありがとう」葉書。閉めた後、改めてあけましておめでとうと言うのは確かに理にかなっているのだが、一向に周りの理解は得られない。

木星と金星が最も接近した夜

#twnovel 木星と金星が最も接近した夜、帰り際の彼女を呼び止めた。義理チョコの義理返し。それでも僕にとっては最大級の接近だ。「次に接近するのは来年の5月なんだって」予め用意していた話題は弾むことなく夕闇に吸い込まれる。ありがとう、じゃあね。愛しい背中を僕はそっと見送った。

前転寿司

#twnovel 「前転寿司」と書かれた暖簾をくぐると、カウンターの前では文字通り寿司が前転していた。一体それに何の意味があるのか? おまかせで注文すると、若い職人が握った寿司が前転しきれずに俺の前で横倒しになった。文句を言うと彼は笑顔で答えた。「ああ、それは横転寿司ですね」

詩人

#twnovel その詩人はまるで息を吐くように詩を紡いだ。詩は彼そのもので、止まるのは彼の命が尽きたときだと誰もが思っていた。彼はその才能を妬む者の手によって命を落とす。嘆き悲しむ人々はやがて拙い詩を紡ぎ出した。今は小さく幼いそれは、いつしか麗しい調べを纏い町に春を呼び寄せる。

特典

#twnovel 新しく買ったデジカメには特典として女性アイドルの画像がメモリに保存されていた。「あの女、誰?」芸能人に疎い彼女は案の定噛みついてきた。妬かれるのも悪くないね。「まぁいいわ、どうせあなたがあんなに上手く撮れるわけないもの」しまった、君を撮らせてよとは切り出せない。

ひょうがき

#twnovel 昔、地球に「ひょうがき」があった、と小さな未来の科学者が熱弁を振るっている。とても寒かっただろうねぇと相づちを打ちながら縁側に目を向けた。寒さに対応して進化する過程で小型化し、豹が期の後にはきっと猫が期が来て、そしてその生き残りが、今あそこで丸くなってるわけね。

人気者

#twnovel 急に人気者になったような気がした。周囲に人だかりが出来、皆が自分を褒め称えてちやほやしてくれる。でもそれはきっと錯覚で、ひとときのさざ波が通り過ぎると僕は元の孤独な男に逆戻り。最近色気づいてきた妹が僕を呼んだ。「お兄ちゃん、私のサクラ餅、食べなかった?」

過去に届ける

#twnovel 想いを過去に届けるサービスは生活に安らぎをもたらした。分岐したパラレルワールドが生成されるので現在の生活は何も変わらない。あれほど胸を焦がしていた想いは無限に生成された世界のほんの一粒でしかなくて、でもそんな想い達で出来た砂浜を踏みしめ、人々は未来へ歩み出す。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼から聞いた話。ここ最近時空間のあちこちで一方通行や規制が敷かれ、行き来が難しくなっているそうだ。もしや大きな災害の前触れ?不安になって尋ねると彼は言った。「いや、年度末だから」

3.11

#twnovel ドーム内に満天の星空が瞬いた。「普段は街の灯りで見えにくいのですが、本来はこのように見えます」心地よいシートにもたれ学芸員の解説を聞きながら、私はそこに街中の灯りが消えたあの日の夜空を重ね合わせていた。視界の隅を横切る流れ星に、心の中で小さな祈りを捧げながら。

2012年3月9日金曜日

サクの日

#twnovel 「3月9日はサクの日だから刺身でも買うか、って話したら女房が怒ってね」そう言っておじさんは項垂れた。「失業中なんだから家計を考えろって。それで女房をサクっと」刺しちゃったの?彼は力なく続けた。「…した物で機嫌をとりたいんだけど、スナック菓子しか思い浮かばなくて」

トガシ君

#twnovel 転校生のトガシ君の話し方は少し変わっている。「ありがとう」は「ありがしう」と言うし、好きな食べ物を聞くと「しうふしシマシ」なんて答える。そんな彼との会話にも慣れてきた頃、「しおくに引っ越します」と彼は僕達の前から姿を消した。翌日、今度はナガタ君が転校してきた。

画期的なカメラ

#twnovel プロ顔負けの完璧な構図の写真が撮れる画期的なカメラが登場しました。早速開発者にお話を伺いましょう。「原理は単純です。笑顔検知と同様、完璧な要素が揃った時点で自動的にシャッターが切れる仕組みです」問題は、プロでもないとその要素を揃えられない点だとのことです。

理解できない

#twnovel 君のことが理解できない。僕の目に映る世界と君の目に映る世界が異なる以上、理解し合えたつもりでいてもいつかきっと綻びが生じる。そしていつしか無視できないほどに広がっていくんだ。彼女は不思議そうに口を尖らせた。「だからその綻びを結ぶんでしょ」赤い糸で、と付け加えて。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が新入社員歓迎パーティーで当たったと教えてくれた。毎年豪華な景品がズラリと並ぶ恒例行事、何が当たったんだろう?彼は溜め息をついた。「気を付けろ。牡蠣とふぐのコンボだ」

遅れてない

#twnovel デートに大遅刻して平謝りの僕に対し、彼女は怒るそぶりも見せない。「遅れてないよ、ほら」腕時計の針は待ち合わせ時間ちょうどを指していた。「でも遅れてるって言うなら、この時計壊れちゃったのかな?」冷や汗を拭いながら、僕は口を滑らす。「誕生日、もうすぐだったよね?」

元気ですか

#twnovel 「元気ですか?」知らないアドレスから届いた、たった一言のメール。どうせ間違いだろうけど、春の陽気にまかせイタズラ心で返信してみる。「元気です」澄んだ青空を見上げてふと思う。向こうの空も同じ色をしているのかな、と。「よかった。私もです」懐かしい風が吹いた気がした。

2012年3月6日火曜日

解体新書

#twnovel あの杉田玄白の「解体新書」を在庫していると噂の古書店へ行ってみた。主人が店の奥から出してきたのは紛れもなく解体新書。一体幾ら出せば買えるのだろうか。こちらの心の中を見透かしたかのように、主人は棚を指さした。「解体新書は買い取り専門です。売りたい新書はあちらです」

前世

#twnovel 「前世が卑弥呼だなんて馬鹿なことがあるかい。正直に言うよ、あたしの前世はハンバーグだよ」ハンバーグってことはないでしょう。せめて豚とか牛だったのでは?すると占い師は寂しそうに顔を伏せた。「合挽だったからねぇ。それ以前は分からない…」僕は彼女を信用することにした。

嘘八百

#twnovel 「生涯に800回嘘をついた時点で人は死ぬ。それが『嘘八百』という言葉だと、子供の頃母親に教えられたよ」「とんだ嘘八百だな。でもそれで立派に育ててもらったのなら感謝しないとな」「ああ。800回嘘をついても死なないことは早い段階で実証できたから、あとは楽なもんだよ」

牡蠣の種

#twnovel 妻が「牡蠣の種」なるものを買ってきた。パロディ商品なのだろうが、見た目は有名な某商品にそっくりだ。食べてみると確かに牡蠣の味がする。しかし美味いかと聞かれると微妙だ。と言うか不味い。パッケージを眺めていた妻が言った。「これ、当たりつきなんですって」

2012年3月3日土曜日

崩れた雪だるま

#twnovel 買い物帰り、崩れた雪だるまと目が合った。「なんか可哀想ね」「でも、いつか失われるものだからこそ美しいんじゃないかな」瞳が僕を射すくめる。「崩れても気持ちは変わらない?」しまった、やぶ蛇だ。頷くと彼女は買い物袋を開けた。「よかった。あなたのお弁当、片寄ってるの」

#twnovel 昔は写真を撮られると魂が抜けるなんて言われたそうだけど、だとすると魂は写真に移ることにならないか?日本では古来より万物に魂が宿っていると信じられてきたのだから、どんな魂も写真に移る道理だ。「あいつ何してるの?」「焼き肉の写真を見ながら白飯を食うトレーニングだと」

時計の針

#twnovel 壁に掛けられた時計の針が逆に回っていた。「あれ、どういうこと?」部室を見渡すと一人の先輩が手を挙げた。「今日から我が部は時間を逆転させる。いつまでかって?それは我々が幸せだった頃までだ」別の先輩が助け船を出してくれた。「こいつ、単位が足りなくて卒業できないんだ」

子豚

#twnovel 藁の家、木の家、煉瓦の家のアイディアを兄達に使われてしまい、困った4番目の子豚は森の奥にお菓子の家を作りました。甘いものに興味がない狼はやってきませんでしたが、代わりにお腹を空かせた幼い兄妹が訪れました。不憫に思った子豚は彼らにこう言いました。「僕の顔をお食べ」

新人君

#twnovel できる、できないの話じゃないんだ。やったか、やらなかったかだよ。君も社会人なんだからそのくらいの自覚を持ちたまえ。分かったな。え、どっちなんだ一体?「えらい剣幕だな部長。口だけ一丁前の新人君に嫌気がさしたか?」「いや、その新人君が得意先の令嬢に手を出したって話」

化石から

#twnovel 前文明の食文化における解析は困難を極めた。発掘されたカレーライスの化石を精査すると、確認されている亜種以上の差異が認められた。ライスにかけられない状態でのみ発見されるそれは「シチュー」と命名された。なお「ハヤシライス」は早い段階で別種であることが確認されている。