2011年12月26日月曜日

年の瀬

#twnovel 「『年の瀬』って言うじゃん。それが『年の背』だったら面白いと思わない?」「どこが?」「背と言うからには反対側に腹があるわけだろ。つまり、6月末が『年の腹』にあたるわけだ」「それで?」「6月に祝日をつくる理由にならないかなぁ、って」「ならねぇよ」

2011年12月24日土曜日

#twnovel 「12月24日が誕生日の人って損だよね。誕生日とクリスマスのプレゼントを一括りにされちゃうから」「そうだね、昔からほとんどの人が子供の頃、そういう不満を感じたと思うよ」「考えてみればイエス・キリストもそう思ったんだろうね」「…いや、それはない」

イブの約束

#twnovel 「イブは毎年ここで待ち合わせをしようね」と約束したのは何年前のことだろう。今夜、この場所に君の姿はない。青春の甘い約束とは儚いものだと思う。「一緒に暮らしているのに待ち合わせしなきゃ駄目なの?」玄関先で出迎えた妻が笑った。キッチンから美味しそうな匂いを漂わせて。

要領

#twnovel 自分では要領の悪い方ではないと思うけど、いつも肝心な所で躓いてしまう。でも人生悪いことばかりじゃない。今の僕には彼女がいる。少々変わった性癖がある子だけど、僕を好きと言ってくれる。「あなた、ツメが甘いのよね」彼女は恍惚の表情で僕の指を手に取り、そっと口に運ぶ。

2011年12月20日火曜日

ホームにて

#twnovel 終電を逃した駅のホームで途方に暮れていると、見慣れない車両が入線した。いつの間にか傍らに立っていた駅員が暗闇を指す。「行き先は過去、または未来です。お好きな方へ」迷っていると彼は言った。「過去行きに乗れば終電に間に合います。未来行きに乗れば明日の始発がすぐです」

ささやかな

#twnovel 求めるものに手が届かぬなら、手が届くものを求めよう。叶わぬ夢を見るよりも、目の前の現実を謳歌しよう。人生とはささやかな幸せの積み重ねだ。「あいつ、さっきから何ブツブツ言ってんだ?」「年末ジャンボ10枚買うか、今夜のサークルの忘年会に出席するかで迷ってるところ」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、来年のお正月を見てきたと言う。「初詣は彼女と一緒じゃなかったよ」喧嘩でもした?そう聞き返すと、ハザマさんは一呼吸置いて続けた。「おみくじの結果を教えようか?」聞きたくない。

忘念怪

#twnovel 亡念怪シーズン真っ只中。墓場で、廃屋で、所謂名所で、病院で、そして鏡に映った貴方の背後で。時折自らを生者と思い込んで現世に留まる輩もいるが、そんなうっかり者は大抵、年明け早々神社に赴き、鳥居の前で朝露のように消え去る。現世に未練があるのなら初詣には行かぬことだ。

一巡

#twnvday 僕が転校してきたことで、今まで同数だったクラスの男女比に差ができた。結果、日直で組む相手が毎回変わり、意中の子と巡り合わせのチャンスが生まれた級友達から感謝されている。ただ、一巡して憧れの彼女との日直が果たされる前に卒業を迎えてしまうので、僕自身は嬉しくない。

今回のお題は2011年の12/14に、165年前に発見された場所へと公転一周して戻ってくる海王星にちなんで、「一巡」「ふりだしに戻る」です! 終わりながら始まっていく、巡り巡る140字の物語をどうぞ。【毎月14日はツイノベの日! #twnvday お題「一巡」「ふりだしに戻る」】

熱帯魚

#twnovel 美しくレイアウトされた水槽の中を優雅に泳ぐ熱帯魚。それを眺める彼女の横顔は僕だけのものだ。「綺麗ね。だけど一生この中なんて、どうなのかしら?」そうは言っても、水槽の外で彼らは生きられない。「あなたはどう?」射すくめられると敵わない。きっと僕も熱帯魚なんだろう。

#twnovel 時は流れるものではなく積み重ねるものだと知り、私はスコップを手に時間を掘りはじめた。積層をはぎ取り在りし日の「時」まで進んだとき、上から心配そうに私を呼ぶ声がした。大丈夫と手を振って、掘った時間の穴を遡る。足場の積層が脆く崩れ、新たな「時」が頭上に降り積もった。

2011年12月9日金曜日

#twnovel 幼い頃から鳥が大好きだったが、結局鳥類学者にはなれなかった。これが現実だ。今や鏡に映る自分の姿は鳥どころか豚に近い。「鳥には縁がなかった俺だけど、唐揚げにならなれるぞ」自嘲気味にそう言うと、妻は自分のお腹にそっと手を当てた。「あら。コウノトリなら来たみたいよ?」

ふわり

#twnovel ふわりと舞い降りた一片の雪を掌で受けとめて、くすんだ空を見上げる。「落としましたよ?」返事の代わりに吹いた潮風が足元の砂塵を巻き上げた。変わり果てたこの街に冬が来る。「謝礼は一割だけでいいです」あとは雪不足のスキー場へ。掌の雪は消えている。確かなぬくもりの中に。

窓拭きのおじさん

#twnovel ふと視線を上げると、窓拭きのおじさんと目が合った。軽く会釈をして目を逸らす。あのねおじさん、そこの窓、午前中に若い人が拭いたばかりだよ。知らない?最近入った新人さん。そうか、知らないよね。おじさんの代わりに補填された人だから。だからおじさん、安心して成仏してね。

安易に

#twnovel 「安易に口に出すと安っぽくなってしまうから、俺は好きとはあまり言わないよ。分かってくれるよね?」クリスマスだからと浮かれてはいられない。「もちろんよ。私も口に出すと安っぽいものになりそうだから、あえてプレゼントとは言わないことにするわ。分かってくれるよね?」

後日

#twnovel グルメ便の箱にお詫び文が入っていた。「好評を頂き製造が追いつきません。味は後日お届けします」商品は届いているし意味が分からない。食べてみるとこれが期待外れの不味さ。こんなものが好評とは世も末だ。数日後、突然口の中に濃厚な美味が広がって、僕は自らの愚かさを呪った。

師走薬

#twnovel 「師走薬」が人気だ。服用するとプレゼントやケーキを無性に気にしだし、忘れてはいけないことも宴会で忘れたことにしてしまう。僅か1週間ほどの間に2度の改宗をし、その後は普段は目もくれない窓拭きに精を出す。傍から見ると滑稽以外の何物でもないが、本人は充実感に浸れる。

2011年12月1日木曜日

主役

#twnovel 「俺、いじめられっ子だったんだけど、一度お芝居で主役を演じたことがあるんだ」「何の劇?」「おむすびころりん。転がされたり穴に落とされたり大変だったけど」「おじいさんは落とされてないだろ」「え、主役っておむすびじゃなかったの?」「やっぱりいじめられてたんだよお前」

#twnovel 「無実の罪で囚われた恋人の死刑が明朝、執行される。そんな夜があったとしたら、君ならどう過ごす?」「聞くだけで胸が締め付けられそうだ。正気じゃいられない」「だろ?俺がかける言葉もない」「君の彼女にかける言葉ならあるよ」「何?」「大丈夫。明けない夜はない」

爆発

#twnovel 「オリオン座のベテルギウスの超新星爆発が近いんだってね。100年後かもしれないし、明日かもしれない。星座の形が変わるなんて、凄いことだよね」「浮気がばれた君ん家は、奥さんが昨日爆発したんだね。君の顔の形が変わるほどに」「…100年後なら良かったんだけどな」

必要のないもの

#twnovel 自分にとって必要のないものを認識しなくなる薬が発明され、世の中はかなりスッキリした。道を歩いても塵一つ落ちていないし、苦手な知人に出くわすこともない。ただ一つだけ困っていることがあって、最近大好きな彼女に声を掛けても無視されてしまうのだ。副作用なのだろうか?

蟹缶

#twnovel 友人から「手が蟹缶で動かない」とメールが来た。「かじかんで、だろ!」とツッコミを入れると画像が添付されてきた。確かに手が蟹缶になっている。「でもやっぱり自分の手みたいなんだよ。よく見ると毛蟹じみ出てる」「食べタラバ美味そうだな」いかん、こっちも蟹缶できた。

祈り

#twnovel 執行の朝、死刑囚は澄んだ瞳を向けた。「神父様、お世話になりました。先に天国で待っています」小さな町で起きた殺人事件。以前から親交のあった彼を導くのは私の務め。冤罪を訴え続けていた彼、私が天国で彼と会うことは許されないだろう。真犯人の行き先は地獄と決まっている。

希望ではなくとも

#twnovel 間もなく地球は崩壊します、と告げてニュースは終わった。ベランダから見下ろす国道は既に大渋滞。僕らも、と言いかけた言葉は珈琲の香りにかき消される。「雨の日は外出したくないの」彼女は微笑んで窓を閉めた。そうだね、今を楽しむ時間さえあればいい。希望ではなくとも。

フカヒレ

#twnovel 動物愛護の観点からフカヒレの流通を取り締まるべきとの声をきっかけに、様々な食材に規制の網がかけられた。高級食材に縁のない我々庶民にも他人事ではなさそうだ。日本にも諸外国が眉をひそめる数々の残酷な庶民食が存在する。たい焼き、うぐいすパン、そしてカッパ巻きなど。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、金に困った僕が将来、強盗の罪で逮捕されると告げた。そんなことになる前にアドバイスしてくれなかったのかと詰め寄ると、彼は言った。「したよ。やるなら夜明け前がいいって」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕の結婚式に面会してきたと言った。結婚なんて諦めていた僕にとっては朗報だが、出席ではなく面会?訝しんでいると彼は続けた。「獄中結婚だからね。それくらいしか出来なかったのさ」

パラレル同期会

#twnovel 入社試験に落ちた人達が集うパラレル同期会。もし入社できていたら今頃あの職場でこんな大きなプロジェクトを動かして、などと歓談に花が咲く。現在の立場はここでは関係ない。皆、一流企業のパラレル同期生なのだ。実体がないぶん、常に理想を語ることのできる憩いの場でもある。