2012年7月26日木曜日

柔らかな

#twnovel お化け屋敷は正直苦手だけど、ぴったりとしがみついてくる彼女の柔らかな肌に舞い上がり、臆病な自分を押し殺して歩を進める。外に出ると、当の彼女がかき氷を両手に僕を出迎えた。「ごめんね、怖くて先に出ちゃって。これお詫び」え、だって…。まだ温もりの残る腕に鳥肌が立った。

任期満了

#twnovel 幽霊の任期は毎年夏に満了するため、人へのアピール合戦はこの時期熱を帯びる。継続の条件は人の心に刻まれていること。誰からも忘れ去られた時、僕はいなくなる。成仏などなく、ただ無に還るのみ。だからごめんなさい、あなたに恨みがある訳じゃないんです。彼女はどこにいますか?


7月26日は幽霊の日だそうです。

純白

#twnovel 彼女は意にそぐわない意見は受け入れない。「心の中で否定するたびにね、世界が少しずつ白く変わるの。「純白」の白にね」そう彼女は微笑む。僕は何も言い返せない。機嫌を損ねたら排除されてしまうから。「漂白」され夏の空に消えそうな彼女を、僕はそれでも必死に繫ぎ止めている。

ナツヤスミソウ

#twnovel みんなで大切に育ててきた「ナツヤスミソウ」が大輪の花を咲かせると、校長先生は今年の夏休みを宣言した。子供達は歓声を上げ、重い荷物を両手に抱え笑顔で家路に就く。夏休みの花は1ヵ月以上咲き続け、やがて全ての花びらが枯れ落ちたとき、校長先生は夏休みの終わりを宣言する。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、次に掛かってくる電話には決して出るなと言う。詐欺?イタズラ?それとも僕、何かまずい事しちゃってた?気になって尋ねると彼は首を横に振った。「受話器の裏に蜂が止まっている」

枯渇

#twnovel 「暑い」という言葉がまもなく枯渇することが判明しました。とニュースが告げた。皆がこの夏に使い過ぎたのが原因という。もっと慎重に発するべきだったと言語学者はうな垂れ、感情を口に出せなくなる心理状態についてカウンセラーが懸念する。窓の外では蝉が鳴いている。今日もあつ

2012年7月16日月曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、土用の丑の日には鰻を食べろと言う。お金なんてないと訴える僕に、彼はエプロンと包丁を差し出した。自分で捕って食えって?そんな無茶な。「自炊して今から貯金しろと言ってるんだ」

おむかえ

#twnovel 「パパおそいね」「おむかえこないのかな?」保育園児達がおままごとをしている。父親の帰りが遅いのは、自分達のように保護者のお迎えを待っているからだと思っているようだ。純真な彼らが演じる日常が微笑ましい。「おじいちゃんは?」「おふとんでねてる」「おむかえこないねー」

あさがお

#twnovel あさがおの種を蒔いた。芽が出てつるが伸び蕾が膨らんだ翌朝、そこに尻尾が垂れ下がっていた。朝が尾は昼に胴体が現れ、満月の晩にするりと頭が抜け出た。「にゃあ」一声だけ残し、そいつは隣家の屋根に飛び移ってどこかへ行ってしまった。観察帳を前に、いま僕は途方に暮れている。

#twnovel 「ですから生ではお出し出来ないんです」建物から出てきた男が携帯電話片手に汗を拭った。「法律で定められておりまして…。表面を軽く炙る?そんな無茶な」こんな山奥に焼肉屋なんてあったっけ?ふと建物に目を向けてみる。「7月に入ったから?ずっと前からです!」火葬場だった。

交差点

#twnovel 交差点で君と手を繋ぐ。雑踏の中ではぐれてしまわないように。行き交う人々は僕の生涯でこれっきりのすれ違いでしかなく、手を離すとそれっきりで終わってしまうような気がして。信号はいつか赤に変わることを今の僕らは知っている。けれど、渡り終えた手の温もりは間違いじゃない。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今から駅で人身事故が起き、丸一日運休になると教えてくれた。じゃあ出掛けるのやめる。バイト休む口実になるし。そう言うと彼は首を振った。「お前が出掛けなければ事故は起きないぞ」