2011年12月26日月曜日

年の瀬

#twnovel 「『年の瀬』って言うじゃん。それが『年の背』だったら面白いと思わない?」「どこが?」「背と言うからには反対側に腹があるわけだろ。つまり、6月末が『年の腹』にあたるわけだ」「それで?」「6月に祝日をつくる理由にならないかなぁ、って」「ならねぇよ」

2011年12月24日土曜日

#twnovel 「12月24日が誕生日の人って損だよね。誕生日とクリスマスのプレゼントを一括りにされちゃうから」「そうだね、昔からほとんどの人が子供の頃、そういう不満を感じたと思うよ」「考えてみればイエス・キリストもそう思ったんだろうね」「…いや、それはない」

イブの約束

#twnovel 「イブは毎年ここで待ち合わせをしようね」と約束したのは何年前のことだろう。今夜、この場所に君の姿はない。青春の甘い約束とは儚いものだと思う。「一緒に暮らしているのに待ち合わせしなきゃ駄目なの?」玄関先で出迎えた妻が笑った。キッチンから美味しそうな匂いを漂わせて。

要領

#twnovel 自分では要領の悪い方ではないと思うけど、いつも肝心な所で躓いてしまう。でも人生悪いことばかりじゃない。今の僕には彼女がいる。少々変わった性癖がある子だけど、僕を好きと言ってくれる。「あなた、ツメが甘いのよね」彼女は恍惚の表情で僕の指を手に取り、そっと口に運ぶ。

2011年12月20日火曜日

ホームにて

#twnovel 終電を逃した駅のホームで途方に暮れていると、見慣れない車両が入線した。いつの間にか傍らに立っていた駅員が暗闇を指す。「行き先は過去、または未来です。お好きな方へ」迷っていると彼は言った。「過去行きに乗れば終電に間に合います。未来行きに乗れば明日の始発がすぐです」

ささやかな

#twnovel 求めるものに手が届かぬなら、手が届くものを求めよう。叶わぬ夢を見るよりも、目の前の現実を謳歌しよう。人生とはささやかな幸せの積み重ねだ。「あいつ、さっきから何ブツブツ言ってんだ?」「年末ジャンボ10枚買うか、今夜のサークルの忘年会に出席するかで迷ってるところ」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、来年のお正月を見てきたと言う。「初詣は彼女と一緒じゃなかったよ」喧嘩でもした?そう聞き返すと、ハザマさんは一呼吸置いて続けた。「おみくじの結果を教えようか?」聞きたくない。

忘念怪

#twnovel 亡念怪シーズン真っ只中。墓場で、廃屋で、所謂名所で、病院で、そして鏡に映った貴方の背後で。時折自らを生者と思い込んで現世に留まる輩もいるが、そんなうっかり者は大抵、年明け早々神社に赴き、鳥居の前で朝露のように消え去る。現世に未練があるのなら初詣には行かぬことだ。

一巡

#twnvday 僕が転校してきたことで、今まで同数だったクラスの男女比に差ができた。結果、日直で組む相手が毎回変わり、意中の子と巡り合わせのチャンスが生まれた級友達から感謝されている。ただ、一巡して憧れの彼女との日直が果たされる前に卒業を迎えてしまうので、僕自身は嬉しくない。

今回のお題は2011年の12/14に、165年前に発見された場所へと公転一周して戻ってくる海王星にちなんで、「一巡」「ふりだしに戻る」です! 終わりながら始まっていく、巡り巡る140字の物語をどうぞ。【毎月14日はツイノベの日! #twnvday お題「一巡」「ふりだしに戻る」】

熱帯魚

#twnovel 美しくレイアウトされた水槽の中を優雅に泳ぐ熱帯魚。それを眺める彼女の横顔は僕だけのものだ。「綺麗ね。だけど一生この中なんて、どうなのかしら?」そうは言っても、水槽の外で彼らは生きられない。「あなたはどう?」射すくめられると敵わない。きっと僕も熱帯魚なんだろう。

#twnovel 時は流れるものではなく積み重ねるものだと知り、私はスコップを手に時間を掘りはじめた。積層をはぎ取り在りし日の「時」まで進んだとき、上から心配そうに私を呼ぶ声がした。大丈夫と手を振って、掘った時間の穴を遡る。足場の積層が脆く崩れ、新たな「時」が頭上に降り積もった。

2011年12月9日金曜日

#twnovel 幼い頃から鳥が大好きだったが、結局鳥類学者にはなれなかった。これが現実だ。今や鏡に映る自分の姿は鳥どころか豚に近い。「鳥には縁がなかった俺だけど、唐揚げにならなれるぞ」自嘲気味にそう言うと、妻は自分のお腹にそっと手を当てた。「あら。コウノトリなら来たみたいよ?」

ふわり

#twnovel ふわりと舞い降りた一片の雪を掌で受けとめて、くすんだ空を見上げる。「落としましたよ?」返事の代わりに吹いた潮風が足元の砂塵を巻き上げた。変わり果てたこの街に冬が来る。「謝礼は一割だけでいいです」あとは雪不足のスキー場へ。掌の雪は消えている。確かなぬくもりの中に。

窓拭きのおじさん

#twnovel ふと視線を上げると、窓拭きのおじさんと目が合った。軽く会釈をして目を逸らす。あのねおじさん、そこの窓、午前中に若い人が拭いたばかりだよ。知らない?最近入った新人さん。そうか、知らないよね。おじさんの代わりに補填された人だから。だからおじさん、安心して成仏してね。

安易に

#twnovel 「安易に口に出すと安っぽくなってしまうから、俺は好きとはあまり言わないよ。分かってくれるよね?」クリスマスだからと浮かれてはいられない。「もちろんよ。私も口に出すと安っぽいものになりそうだから、あえてプレゼントとは言わないことにするわ。分かってくれるよね?」

後日

#twnovel グルメ便の箱にお詫び文が入っていた。「好評を頂き製造が追いつきません。味は後日お届けします」商品は届いているし意味が分からない。食べてみるとこれが期待外れの不味さ。こんなものが好評とは世も末だ。数日後、突然口の中に濃厚な美味が広がって、僕は自らの愚かさを呪った。

師走薬

#twnovel 「師走薬」が人気だ。服用するとプレゼントやケーキを無性に気にしだし、忘れてはいけないことも宴会で忘れたことにしてしまう。僅か1週間ほどの間に2度の改宗をし、その後は普段は目もくれない窓拭きに精を出す。傍から見ると滑稽以外の何物でもないが、本人は充実感に浸れる。

2011年12月1日木曜日

主役

#twnovel 「俺、いじめられっ子だったんだけど、一度お芝居で主役を演じたことがあるんだ」「何の劇?」「おむすびころりん。転がされたり穴に落とされたり大変だったけど」「おじいさんは落とされてないだろ」「え、主役っておむすびじゃなかったの?」「やっぱりいじめられてたんだよお前」

#twnovel 「無実の罪で囚われた恋人の死刑が明朝、執行される。そんな夜があったとしたら、君ならどう過ごす?」「聞くだけで胸が締め付けられそうだ。正気じゃいられない」「だろ?俺がかける言葉もない」「君の彼女にかける言葉ならあるよ」「何?」「大丈夫。明けない夜はない」

爆発

#twnovel 「オリオン座のベテルギウスの超新星爆発が近いんだってね。100年後かもしれないし、明日かもしれない。星座の形が変わるなんて、凄いことだよね」「浮気がばれた君ん家は、奥さんが昨日爆発したんだね。君の顔の形が変わるほどに」「…100年後なら良かったんだけどな」

必要のないもの

#twnovel 自分にとって必要のないものを認識しなくなる薬が発明され、世の中はかなりスッキリした。道を歩いても塵一つ落ちていないし、苦手な知人に出くわすこともない。ただ一つだけ困っていることがあって、最近大好きな彼女に声を掛けても無視されてしまうのだ。副作用なのだろうか?

蟹缶

#twnovel 友人から「手が蟹缶で動かない」とメールが来た。「かじかんで、だろ!」とツッコミを入れると画像が添付されてきた。確かに手が蟹缶になっている。「でもやっぱり自分の手みたいなんだよ。よく見ると毛蟹じみ出てる」「食べタラバ美味そうだな」いかん、こっちも蟹缶できた。

祈り

#twnovel 執行の朝、死刑囚は澄んだ瞳を向けた。「神父様、お世話になりました。先に天国で待っています」小さな町で起きた殺人事件。以前から親交のあった彼を導くのは私の務め。冤罪を訴え続けていた彼、私が天国で彼と会うことは許されないだろう。真犯人の行き先は地獄と決まっている。

希望ではなくとも

#twnovel 間もなく地球は崩壊します、と告げてニュースは終わった。ベランダから見下ろす国道は既に大渋滞。僕らも、と言いかけた言葉は珈琲の香りにかき消される。「雨の日は外出したくないの」彼女は微笑んで窓を閉めた。そうだね、今を楽しむ時間さえあればいい。希望ではなくとも。

フカヒレ

#twnovel 動物愛護の観点からフカヒレの流通を取り締まるべきとの声をきっかけに、様々な食材に規制の網がかけられた。高級食材に縁のない我々庶民にも他人事ではなさそうだ。日本にも諸外国が眉をひそめる数々の残酷な庶民食が存在する。たい焼き、うぐいすパン、そしてカッパ巻きなど。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、金に困った僕が将来、強盗の罪で逮捕されると告げた。そんなことになる前にアドバイスしてくれなかったのかと詰め寄ると、彼は言った。「したよ。やるなら夜明け前がいいって」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕の結婚式に面会してきたと言った。結婚なんて諦めていた僕にとっては朗報だが、出席ではなく面会?訝しんでいると彼は続けた。「獄中結婚だからね。それくらいしか出来なかったのさ」

パラレル同期会

#twnovel 入社試験に落ちた人達が集うパラレル同期会。もし入社できていたら今頃あの職場でこんな大きなプロジェクトを動かして、などと歓談に花が咲く。現在の立場はここでは関係ない。皆、一流企業のパラレル同期生なのだ。実体がないぶん、常に理想を語ることのできる憩いの場でもある。

2011年11月12日土曜日

野良

#twnovel コタツでミカンを食べていると、猫が入ってきた。友人は庭に面した大きな窓に手を掛ける。「逃がすの?」「野良なんだ。たぶん次は向かいの家に行くと思う」窓が開き、コタツはのっそりと部屋を出て行った。取り残された私たちは、猫で暖を取りながら二つめのミカンに手を伸ばす。

レール

#twnvel 枕木の音に揺られ、のどかな景色を眺める彼女に話しかける。「レールって、どうして2本あるか知ってる?」「1本じゃ不安定だから?」「違う違う。2本で支えれば、かかる負荷は半分になる。僕らもきっとそうなれるよ」「永遠に付かず離れずお友達でいましょうって意味?」

2011年11月9日水曜日

脱・街宣

#twnovel 熾烈なる選挙運動が火花を散らすなか、一切の街宣活動を行わない候補者が現れた。「勤務中の皆様のお仕事、あるいは夜間勤務の方々の安眠やお子様のお昼寝を妨害する選挙運動は、公害以外の何物でもありません」彼は無関心層の圧倒的な支持を受け当選。なんとも皮肉な事である。

あまいね

#twnovel 「遠恋中の彼女に、誕生日に何が欲しい?って訊かれたから、君が傍にいてほしいって答えたんだ」「あまいね~。それで?」「誕生日当日に彼女が俺の部屋にやって来て、蕎麦を煮てくれた」「壮大なギャグだな」「せめて茹でてほしかった。甘露煮だったよ」「あまいね~」

質屋

#twnovel 失恋のショックから立ち直れない僕は、張り裂けそうな感情を質に入れた。思い出を何もかも流してしまいたい。帰り際、すっかり心が軽くなった僕の背中を店の主が呼び止めた。「流さないでおくから、そのうち取りにおいで。何年か寝かせておくと程よい甘みが出てくるんだ」

覚えてる

#twnovel 何を思い出そうとしていたのか思い出せない。助けを求めに電話を取る。あれ、どうして電話を持っているんだ? 握りしめた自分の手を眺めてみても何も浮かばない。忘れても思い出そうとすることが脳の活性化に繋がるのですと昔テレビで見た。そんなどうでもいいことだけは覚えてる。

ヤブ夫くん

#twnovel ヤブ夫くんは常に大量の蚊に刺されている。その理由を訊いてみた。「生まれ変わりって信じてるか? あれって人間に生まれ変われるとは限らないんだぜ。前世での行いで順位が決まり、下位に沈むと下部に降格なんだ。俺は今入れ替え戦の最中なんだよ」応援を頼まれたが丁重に断った。

2011年11月1日火曜日

言わなくても

#twnovel 「言わなくても分かる」と「言っても無駄」は真逆のようでとても近い。言って何になるっていうんだ? 言ってもらわないと分からないじゃないの。分からないの? 分かるけど、でも言って欲しいよ。やっぱやめた。何、無駄だと思ってる? 違うよ、言うだけ野暮だと思ったんだ。

電池切れ

#twnovel 父が電池切れを起こした。新しい電池に取り替えると、彼は甲高い声で「初期値に戻しますか?」と喋った。「いいえ」と答えると「どの時点から再稼働しますか?」と聞いてきた。気を利かせたつもりで「一番輝いていた頃」と答えると動き出した。今の父は小学校入学以降の記憶がない。

2011年10月25日火曜日

愚痴

#twnovel 愚痴を聞いてくれてありがとう。長電話に付き合ってくれてごめんね。メールに写真を添付してくれて本当に嬉しい。なのにどうして会いに来てくれないの?コンビニでプリントしてきたばかりのあなたの笑顔にまた愚痴る。ぎごちないセルフポートレートに口元が緩むのを堪えながら。

ここだけの話

#twnovel 「ここだけの話なんですがね」僕を呼び止めた男は言った。「拘束されたのは替え玉で、大佐は実は逃げ延びたのです」驚く僕の顔を見て彼は頷く。「店の主人が証言しています」店の主人?男は1枚の写真を差し出した。「それが、拘束された替え玉が入っていた丼です」…誰か助けて。

話題

#twnovel 話題はいつもここ数日の出来事からはじまって、やがて互いの住む街の天気に移っていく。ふと黙り込んだ小さな息づかいの向こうに流れる聴き慣れない地名を地図に想い描きながら、私はこの沈黙を打ち破る。「寒くなると人恋しくなるね」君が、とは言わない。言わなくても伝わってる。

転倒虫

#twnovel よちよちよ歩いてすぐ転ぶ、この生き物から目が離せない。「転倒虫って言うんです。ほら、すぐに転んじゃう。かわいい奴ですよ」人生転びっぱなしの俺と一緒、道理で親近感が湧くわけだ。店員は嬉しそうに続けた。「こいつは諦めずに何度でも起き上がるんです」なんだ、気のせいか。

2011年10月19日水曜日

招待状

#twnovel 妻から披露宴の招待状が届いた。相手は俺の知らない男だ。「出席してくれるよね?だって夫婦なんだから」祝福ムードが俺の戸惑いを加速させる。大勢の人々に祝福され、式は執り行われた。翌朝、妻は何事もなかったかのように帰宅した。盛大な浮気だったと気付いたのはその時だ。

リンネさん

#twnovel リンネさんは輪廻転生を繰り返しているという。いつの世も、前世の記憶を皆に話して聞かせることが彼の役目。しかしそれも面倒になったらしい。彼は今、Tシャツ屋を営んでいる。自分の前世を転写して販売しているのだ。ためしにカエル柄のを1着買ってみた。何を語るのか楽しみだ。

2011年10月18日火曜日

目玉特典

#twnovel このラーメン激戦区で生き残るために当店は低価格路線をとった。ラーメン1杯180円は誰の目にも魅力的に違いない。しかし、更なる目玉特典の利用客がゼロというのは何故なんだ?年に1度、誰もが半額になるというのに。「店長、誕生日にウチに来たがる客なんていません」

週刊あなたの人生の物語

#twnovel 週刊あなたの人生の物語。毎号付いてくるパーツを組み立てていくと幸せな人生が築ける。創刊号は婚約指輪が付いて780円。喜んで飛びついたが、いつしか飽きてしまった。手元には渡す相手のいない婚約指輪と、第2号付録の孫の弁当箱、第3号付録の配偶者の頭部だけが残っている。

あなたの人生を変えた人

#twnovel あなたの人生を変えた人物は誰かって?そりゃ前の職場の上司だよ。向こうからしたら俺。え、お互い尊敬し合っていたのかって?違うよ。そりゃもう犬猿の仲でね、顔を思い浮かべるだけで殺してやりたくなったもんだ。ま、実際に殺しちゃったから、俺の人生が変わった訳だけどな。

トランポリン

#twnovel 雲はトランポリンのようにふわふわしていると子供の頃は思ってた。実は今でもそうだったらいいなと思うんだ。馬鹿みたいだろ ?うん、でもそこがいいの。真顔で言われ照れ隠しに彼女の頬を指先で突く。トランポリンのような肌が小さくふくれた。「せめてマシュマロって言ってよね」

溜め息

#twnovel 他人の溜め息を集めはじめた。溜め息をつくと幸せが逃げるのなら、溜め息イコール幸せのはずで、たくさん集めれば幸せになれる道理だ。しかし、いくら集めてもちっとも幸せになれない。必死になってかき集めているうちに、あることに気がついた。皆、僕の顔をみた途端溜め息をつく。

熊が出るから

#twnovel 山菜採りに出掛ける私を妻が笑顔で呼び止めた。「熊が出るから、これ持って行ってね」つくづく気の利く女だと思う。案の定、巨大な熊と遭遇した。妻がくれた包みを開くと現れたのは鋭利な果物ナイフ。熊と対峙するにはあまりにも心細い。だが、私の喉を切り裂くには充分のようだ。

2011年10月9日日曜日

優柔不断

#twnovel 優柔不断の僕は、いくつもの店が並ぶフードコートが苦手だ。彼女は既にラーメンを運んできた。「伸びる前に決めてよね」こんなだからいつまでもプロポーズできないんだ。僕は決心する。「式場を見に行こう」彼女が固まった。あれ、決めるってメニュー?デートの行き先じゃなくて?

再会

#twnovel 学生時代の恋人と街で偶然再会した。一瞬、驚きの表情を浮かべる彼女。きっと僕も同じ顔をしたに違いない。「ママー」幼い声が彼女を呼んだ。言葉は交わせない。同伴しているお互いの家族に悟られないように僕らはすれ違う。「孫どころか嫁の顔も見れやしない」傍らで母が愚痴た。

他人の夢

#twnovel 「他人の夢に侵入するのは簡単なことさ」街で出会った男が嘯く。「睡眠時は誰もが無防備だからな。でも川は渡らない。その人の感情に流されたら戻れなくなる」夢にその男が出てきた。僕は抗議の意味を込め川を氾濫させた。…と言うのが、おねしょした時の言い訳に用意している物語。

#twnovel 「ねぇ大将、外にある冷やし中華の幟、しまわなくていいの?」そう切り出す僕を、大将は待ってましたとばかりに満面の笑みで迎えた。「ウチの看板メニューを夏だけにしとく手はないって思いましてね。是非どうぞ」指された看板に目を疑った。「冷やし中華(Hotあります)」

ため息

#twnovel 前売り券を家に忘れてきたことに気付いた。仕方なく列に並びチケットを買い直す。「貴方って肝心なところが抜けてるのよねぇ」10年来の女友達が呆れたようにため息をつく。そんな顔するなよ。それにしても君が恋愛映画が好きだったとは意外だね。彼女がもうひとつため息をついた。

2011年10月1日土曜日

こっそり

#twnovel 過去が撮れるカメラが面白い。白髪の両親が若々しい姿で、ペットの老犬は子犬に写る。住んでいる2階建てのボロアパートが、以前は平屋だったことも写真で知った。恥ずかしいからと卒業アルバムを見せてくれない、付き合い始めたばかりの彼女をこっそり撮ってみた。…男だった。

なおらない

#twnovel 風邪がなおらない。医者に聞いても薬局でも、なおしかたは分からないと言う。私は必死に情報を集め、その甲斐あって風邪はなおった。良かった、熱が上がっていくのが分かる。直った風邪が仕事を始め、私は風邪をひいた。治るまでの間、大好きなあの人にうつされた風邪を堪能しよう。

代行

#twnovel 死を代行してくれる今際屋のおかげで人は不死を得た。やがて社会は老人であふれ、街から子供の姿が消えた。上がつかえているために入社50年を過ぎても係長にすらなれない、老人の老人による老人だらけの会社。死にたい。僕は今輪屋に転職した。いつか死ねるという生き甲斐を胸に。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいる。幼い頃から人生の節目に現れては、僕にアドバイスをくれる。その彼が、未来で僕が事故に遭ったと告げた。「信号無視の車にはねられたんだ」どうして事前に教えてくれなかったの? 彼は言った。「だって入院先の看護婦と結婚するんだぜ、お前」

2011年9月26日月曜日

どこでもドア

#twnovel どこでもドアが発売されたと聞き、早速注文した。届いたのはピンク色をした紛うこと無きあのドア。早速行きたい場所を念じてドアを開けてみると、その先にはドアがあった。開けても開けてもピンクのドア。クレームを入れようと取説に目をやる。「どこまでもドア」と書かれていた。

ボックス席

#twnovel 僕の人生は電車のボックス席に後ろ向きに座っているようなもので、進んでいるのに前方は視界に入らず、過去は否応なく遠くなっていく。向かい席に座って未来を教えてくれる予言者がいたらいいのにと思うけど、大切な人には恥ずかしがらずに隣に並んで座ってほしい。例えばきみとか。

2011年9月20日火曜日

匂いも伝えられる電話

#twnovel 「匂いも伝えられる電話ってあったら便利じゃね? 食い物屋は繁盛間違いなし、遠恋中のカップルにもきっと受けるぜ」「それ買っても電話してくんなよ」「何でよ?」「口臭電話って言われたいのか」

思い出フリマ3

#twnovel 不要になった思い出を持ち寄る思い出フリマ。幼すぎたが故に別れてしまった淡い思い出を抱え会場を訪れると、見覚えのある彼の姿が。私だと気付かない彼。非売品と言われた彼の思い出が気になる。「そちらの思い出と交換なら」彼の申し出をやんわり断る私。「私のも非売品なんです」

思い出フリマ2

#twnovel 不要になった思い出を持ち寄る思い出フリマに、捨てきれない昔の恋を出品した。学生時代のありふれた恋愛ごっこだ。誰も見向きもしない。「これ、お幾らですか?」聞き覚えのある声に顔を上げて息を呑む。「すみません、これ非売品なんですよ」平静を装ってそう答えるのが精一杯。

思い出フリマ1

#twnovel 不要になった思い出を持ち寄る思い出フリマ。別れたの恋人との日々や、大切な家族との離別の悲しみなどが並び、感情の疑似体験を求める人々で賑わう。時効前の殺人犯の思い出を買ったミステリー作家が自責の念に苛まれて自首したことから広く知られるようになった。不定期開催。

2011年9月16日金曜日

銀世界

#twnovel 外出しようと玄関扉を開けるとそこは一面の銀世界。テレビをつけるとニュースは異常気象と伝えていた。そんな言葉で片付けるなんて信じられない。やがてアナウンサーは世界中の銀の相場が暴落していると告げた。そりゃそうでしょうよ。私は気を取り直して外に出る。一面の銀世界へ。

2011年9月15日木曜日

100円位ショップ

#twnovel 90円台から100円台の商品が1円刻みの値付けで並ぶ「100円位ショップ」が人気。端数を出さずピタリ100円単位で会計を済ませる爽快感を求め、人々は店を訪れる。やがて、財布を圧迫する小銭を一度の会計で綺麗に使い切る芸当を披露する猛者が現れた。楽しみ方は尽きない。

2011年9月14日水曜日

ロゼッタストーン

#twnvday 「幼稚園の頃に女の子から貰ったラブレターが大掃除で出てきたんだ。初めて書いたひらがなはそりゃ酷いものでね、当時はそれでも読んでたんだから驚きだよ。妻もまるでロゼッタストーンねと他人事みたいだし。なぁ、ビックリだろ?」「ビックリなのは幼稚園で人生決めたお前らだよ」


毎月14日はツイノベの日! 今月のお題は「ロゼッタ・ストーン(1822年の9/14にヒエログリフ(絵文字)が解読されたのにちなんで)」です! 物語の紡ぎ手と読み手とを繋ぐ140字のロゼッタ・ストーンをこの世界に掘り込みましょう♪【毎月14日はツイノベの日! #twnvday 】

2011年9月13日火曜日

雨を飴に換えるサービス

#twnovel 雨を飴に換えるサービスが子供達に人気だったのでバリエーションを拡げた。箸を橋に換えてみたが反応は今一つ。次に生家を製菓に換えたら子供達は大喜び。たちまち町中がお菓子の家だらけになった。そこへ親たちが大挙して怒鳴り込んできたので、退去に換えてお引き取り願った。

時空宅配便

#twnovel ピンポーン、時空宅配便です。「俺、何も頼んでないよ。金欠でメシも食ってないんだから。って何この高級肉」未来の奥様よりお届け物です。「え、俺結婚できるの?そんで嫁さんが夫の貧乏時代を案じて送ってくれたの?嬉しいなぁ」お言付けがございます。『まだ死なれちゃ困るのよ』

2011年9月9日金曜日

秋空

#twnovel 君を想う言葉はこの瞬間も幾らでも思い浮かぶのに、口にしたところで結局笛の音にかき消されてしまう。秋空の下、ぼくらはたった一本の綱を引き合って汗を流す敵同士。出来るならくっつきあっていたいのが本音だけど、この高い空を見上げながら、無駄に楽しい思い出を刻んでいる。

解像度

#twnovel 心の解像度を上げればきっと、君のことが鮮明に見えてくる。秘めた聡明な心の景色も、知りたくなかった深層の醜い汚泥も。だからぼんやり曇ったレンズで君を迎えると決めた。ごめんね、髪を切ったことにも気が付かないで。愚鈍な僕に向けるその眼差しが真実だって信じたいんだ。

一目惚れ

#twnovel 一目惚れと言ってよかった。涼みに入った図書館での衝撃的な出会い。なぜあのとき手を離してしまったのか、それだけが悔やまれる。それから僕は毎日のように図書館に通った。ようやく名前を知ったときには、半年先まで予約で一杯だと言われた。…僕は諦めてその本を書店で購入した。

2011年9月6日火曜日

エヌ氏

#twnovel エヌ氏について話を聞きたいと刑事は言った。彼はバーの顔見知りで、それ以上のことは知らない。そう答えると刑事は渋々帰って行った。エヌ氏はその後も何事もなかったようにバーに現れた。ある日は青年の姿で、またある日は顎髭をたくわえた老人の姿で。でも誰も気にしていない。

9月6日はショートショートの神様 星新一さん生誕85周年ということで、「ノックの音がした」と「エヌ氏」をお題にしてみました。

ノックの音がした

#twnovel 友人や親戚達が帰ると、家の中は私と彼だけが残された。時計の針に目をやり、私は先刻までひっきりなしに出入りのあった玄関扉を閉めた。今夜はもう尋ねてくる人もいないだろう。彼と私の二人だけの長い夜のはじまりだ。ふいにノックの音がした。彼が眠る、柩の内側から。

9月6日はショートショートの神様 星新一さん生誕85周年ということで、「ノックの音がした」と「エヌ氏」をお題にしてみました。

2011年9月5日月曜日

生き貝

#twnovel 旅行先の土産物屋で生き貝の置物を手に入れてからというもの、毎日が楽しいことばかり。でも男運のなさは相変わらずで、言い寄ってくるのは中身のない男だけ。もう一度あの店で生き貝を手に入れよう。旅立とうとする私を友人が止めた。「無駄だと思うよ。あの置物、中身カラじゃん」

キスの味

#twnovel 黄昏時に交わした初めてのキスの味は杏のように甘酸っぱかったのに、試しに杏を買って食べてみたら思い出とは似ても似つかない。昼食に二人で食べた冷やし中華の酸味かと思ったがやはり違う。映画館で食べたスッパムーチョの味だと気付いた時にはどうでもよくなってしまった。

時が止まった場所

#twnovel 時が止まった場所を発見した。宇宙は開闢以来膨張し続けている。そして時間と空間の同一性から鑑みて、このような事態は起こり得るのであろうか。私には分からない。しかし今日は9月1日である。そしてここはまだ8月らしいのだ。 http://bit.ly/p9aAGp


いっこうに「第2回Twitter小説大賞」の発表がないことへの苛立ちを表現してみました。他意はありません。

適齢機

#twnovel プロポーズ大作戦。最近冷たくされている彼女に「適齢機」を向けた。「私と結婚して!」突然抱きついて来る彼女。向こうから言われると逆に白けてしまう。それにどうして僕は彼女と結婚したかったのだろう。泣きだしそうな彼女のバッグからこぼれ落ちた「倦怠機」が僕を向いていた。

2011年8月31日水曜日

9月の声

#twnovel 9月の声を聞いた途端に夏が恋しくなる。そう言うと、勝手な話ねと彼女に笑われた。君と別れたあとに恋しくなるのと一緒だよ。そうかしら? 私なら新しい季節を思いっきり楽しむけど。傍から見たらじゃれ合っているだけなんだろうけど、僕らは僕らで季節の移り変わりすら綱渡り。

市場

#twnovel 三途の川で釣り上げられた魂はそのまま競りにかけられ、活きのいい魂を求める仲買人達で活気づく。高く取引されるのは何と言っても老人の魂だ。「若いのは小ぶりで味も薄いからね」とある仲買人が教えてくれた。屈託なく笑う漆黒の口の中に、仕入れたばかりの魂を放り込みながら。

あなたはだぁれ?

#twnovel 「あなたはだぁれ?」過度のストレスが引き起こす、対人関係に限定された記憶障害。脳内のパーソナルな記憶スペースを割愛し、そこへ阻害されていた記憶を逃がすことが有効な治療方とされる。割愛した記憶のおかげで、原因となったストレスを取り除く必要はない。「私はだぁれ?」

落とした

#twnovel 何かを落としたような気がしてならない。気になって周囲に聞いてまわった。「私、何か落としましたか?」だが、視線を逸らしたり足早に立ち去ったり、誰も取り合ってくれない。公園のベンチで途方に暮れていると、友人が気の毒そうに声を掛けてきた。「お前が落としたのは評判だよ」

2011年8月26日金曜日

総理は…

#twnovel 総理は閣議後の記者会見の席で、自らの進退について次のように述べた。「帰化申請を行い、第二の人生は微笑みの国で過ごしたい。私はやるべきことはやってきたつもりだ。今後はサムイやプーケットで美しい海を眺めて暮らすのもいいと思う」いわゆる「タイ人表明」である。

時のかけら

#twnovel 時のかけらには小さな時間が閉じ込められていて、集めると特典が貰える。老人の手元からこぼれ落ちた時のかけらを拾った少年が歓声を上げた。時を得た少年は大人になり、老人は時を止める。やがて年老いた少年は子供達に時のかけらを撒く。特典という名の思い出を脳裏に残して。

聞き間違い

#twnovel もう夏も終わりね、と呟くと友達が呆れ顔で口を挟んだ。「季節より気の移り変わりが早いのもどうかと思うよ。こないだまでラブラブに見えた彼が、あんたの中では既に除け者っていうのもねぇ」「そうね、私の上で素で獣だったからねぇ、彼」聞き間違いと気付いたのはそれから3秒後。

食器洗い乾燥機

#twnovel その食器洗い乾燥機が回収騒ぎとなった理由は、食器だけではなく、人の心も洗ってしまうことが判明したからだ。食後の一家団欒に心を洗われた人々は一様に会話が弾み、円満な家庭生活の一助ともなる効果が認められた。その後の乾燥機能まで人間に適用されてしまうことを除けば。

今日は…

#twnovel 入口前に繋がれた犬が飼い主を探して鳴いていた。今日は買わないと決めていたのに、いざ店に入ると心が揺らぐ。売り場でそのつぶらな瞳と目が合った瞬間、私の理性は吹っ飛んだ。「予定を変更して、今夜はサンマにします」…焼き肉を楽しみにしていた子供達から一斉にブーイング。

2011年8月23日火曜日

夏が過ぎたら

#twnovel 夏が来れば思い出す。「それじゃ、夏が過ぎたら忘れちゃうんだ」からかうような口調の中に、僕は一抹の寂しさを感じ取る。そう、たぶん夏が過ぎたら僕は君のことを忘れてしまう。でもいつか必ず思い出す。一抹の寂しさは、大きな喪失感の残り香だってことを僕らは知っているから。

魔法の物語

#twnovel 古書店で見つけた読むと文字通り本の中に入り込めてしまう魔法の物語。現実に嫌気がさしていた僕は迷いもなく頁を捲る。光が溢れ、物語が僕を引き込んだ。「今日はここまで」少女の声に我に返った。どうして?これから面白いところなのに。僕は本の中に取り残された。…栞として。

ハザマさん2

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいる。幼い頃から人生の節目に現れては、僕にアドバイスをくれる。そんな彼が、僕がギャンブルで破産した未来を見たと言う。どうしてアドバイスしてくれなかったの?文句を言うと彼は言った。「したよ。彼女との結婚はギャンブルのようなものだって」

言葉

#twnovel ある日突然、人類は言葉を失った。社会は一時的に混乱を来したが、時の経過と共に概ね収束に向かいつつある。男達はいち早く以前と変わらぬ生活に戻った。一方で、女達の混乱はしばらく収まりそうにない。

2011年8月20日土曜日

設定

#twnovel 学生時代には何とも思っていなかったクラスメイトの子と、実は当時付き合っていたという設定で思いを巡らせてみた。一つ一つの凡庸な思い出が補正されて美しく輝き出す。実態のない妄想だから別れの痛みもない。問題があるとすれば、僕が通っていたのが男子校だったということだ。

十分

#twnovel 生まれ変わっても一緒にいようね、恋人達のそんなセリフには正直反吐が出る。生まれ変わろうが変わるまいが、出会いはいつだって偶然の産物。生まれ変わってもあなたを見つけられますように。それだけで、十分に奇跡。

炭酸

#twnovel 友人の失恋話に相づちを打つ。悪いと思いつつも奢りの炭酸が喉に心地いい。帰り際、友人はすっかり気の抜けたコーラを一口含んで言った。「恋愛ってコレみたいだね」「儚く消える泡ってこと?」顔をしかめて首を振る。「いや、ぬるくなったら甘ったるくて飲めたものじゃない」

河童

#twnovel 河童を捕まえようと沼に張り込んだ。相手に警戒心を抱かせない為に皿を乗せ甲羅を背負った。沼に逃げられても追えるように泳ぎも覚えた。それから何年経ったか分からない。いつものように茂みに身を潜めていると背後で人の声がした。「いたぞ、河童だ!」私は慌てて沼に飛び込んだ。

カブトムシ

#twnovel 「子供の頃、飼っていたカブトムシが死ぬと夏も終わりだなって思ってた」いつかそんな話をしてたよね。夏が終わる度に遠い貴方の言葉を思い出す。カブトムシじゃない貴方はこの空のどこかで今日も生きている。もう会うことは叶わないけど、でもだから貴方のことを憎み続けられるの。

思い出を

#twnovel 発病前の状態まで肉体の時を巻き戻す。細胞の時間を遡行させる薬は、人類が病に打ち勝つ決定打となった。リハビリに励む彼女に別れも告げず、僕は病院を後にする。後悔はしていない。脳も細胞である以上、例外ではないのだ。彼女は輝きを取り戻すにつれ、僕との思い出を失っていく。

入れ替わりの季節

#twnovel 僕は冷たい地下室で眠りにつき、入れ替わりに彼女は秋から冬を生きる。冷凍冬眠は、居住空間も食料にも乏しいコロニー内に逃げ延びた人類が採った苦肉の策。僕は夏の人で、彼女は冬の人。季節に記号以上の意味なんてない。僕は蝉の鳴き声を知らない。でも、もうすぐ夏が終わる。

#twnovel 昔の人は写真を撮られると魂を奪われるなんて言っていたそうだけど、だとすると僕は彼女の魂をかなり奪っていることになる。でもね、写真って撮る側も魂を取られているって知ってた?僕が証拠だよ。君から奪ったぶんと君に奪われた分、きっと同じ量だから僕らはうまくやっている。

流れ星

#twnvday 流れ星なんて所詮、宇宙に漂う塵だよ。大気圏に飛び込んで燃え尽きるそんなものに願いをかけて叶うと思う?  周囲で歓声が上がる中、そんなセリフを吐くあなたを私は声をひそめて笑う。あのね。5ヶ月前のあの夜、満天の星空の下で必死に祈った願いは今こうして叶っているんだよ。

2011年8月12日金曜日

終わりの時まで

#twnovel 終わりの時まで傍にいて、と君は囁いた。わかった。それなら最期の時には傍にいて、と僕は応える。二人に終わりが来るかなんて、今の僕らには分からない。けれど最期の瞬間は誰にでも必ず訪れる。だからその時は君の顔をみつめていたい。

2011年8月10日水曜日

僕のせい

#twnovel 僕のせいじゃない。この呪文を貼り付けながら、辛うじて自我を保ち続けてきた。世の中の出来事は僕などが及びもしない意思によって形成されていて、だからそれは僕のせいじゃない。自我はやがて崩壊するものだと思っていた。「あなたのおかげ」君の口から出た一言。僕は解放された。

2011年8月9日火曜日

恋の薬

#twnovel 彼女への想いが叶わないもどかしさに悶々とする俺に、友人が小さな包みをくれた。聞けば恋の薬だという。機会を見計らって彼女の飲み物に混ぜたが何の変化もない。媚薬じゃなかったのかと尋ねると友人はため息をついた。「あれは恋を冷ます薬だ。彼女じゃなくてお前が飲むものだよ」

#twnovel 通販で秋が売られていることを知った私は、一も二もなく飛びついた。ウンザリしていた夏の暑さともこれでサヨナラだ。1時間後、ようやく繋がったフリーダイヤルの向こうでお姉さんは私にこう告げた。「ただ今ご注文が殺到しており、お届けまで2ヶ月ほどかかります」

夢に君が出てきたよ

#twnovel 夢に君が出てきたよと言うと、決まって「夢じゃなくて会いに来てよ」と文句を言われた。崩れかけた石段を登り振り返れば凪いだ海が広がる。花を手向けつつ、夢に君が出てきたよと呟いてみた。蝉の大合唱が一瞬だけピタリと止んだ。「会いに来てよ」の言葉はもう聞こえない。

2011年8月5日金曜日

気持ち

#twnovel 「恩師にごちそうになったんだ。そのお礼みたいな感じで年末にお歳暮を贈ったら怒られてね。気持ちだけでいいんだ、無駄に金を使うなって」「いい恩師じゃないか」「だろ。だからお中元は金を掛けずに気持ちを送ったよ」「手紙でも書いたのか?」「いや、先方宛に代引きで注文した」

2011年8月4日木曜日

理解

#twnovel 君のことが理解できない。そう言うと彼女は頷いた。当たり前よ。理解って思い込みに過ぎないもの。私達は永遠に理解できないまま、それでも絡み合いながら未来に進んでいくの。交わらない螺旋階段のようにね。素敵じゃない?彼女の言い分は理解できない。けれど素敵だと僕は思った。

プロポーズの言葉

#twnovel 「ねぇ、プロポーズの言葉、覚えてる?」結婚記念日のディナーの席で妻が訊く。上手く取り繕わないと。「えーと、明日の朝枕元で言ってあげるから」「そう、それ。結局朝は二日酔いで何言われてるか分からなかったのよね」妻の「ごめんね」の言葉に胸を締めつけられた10年目の夜。

2011年8月2日火曜日

父の職業

#twnovel 父の職業が何なのか、私は知らない。でもそれがどんな仕事であっても、父を尊敬する気持ちは変わらない。男手一つで私をここまで育ててくれたのだから。「まさかあの真面目そうな男が人さらいだったとはね。娘も不憫だよ。もっとも、彼女もさらってきた子供の一人だって噂だがね」

不安

#twnovel 手術のことで不安がおありだとか。入院中に社会から置き去りにされるのでは、という不安も分かりますが、どうか焦らずに。人生どこでどう転ぶか分かりません。私だって医師免許を持っていないのに、現にこうして医者としてやれているんです。さて、ご安心いただけましたか?

ドキドキ

#twnovel 「ドキドキしたね」満足げな表情の彼女が眩しいのは、目が明るさに慣れていないからかそれとも心理的な現象か。「映画館は昼間から夢を見れるから好き」なるほどね。僕は隣にいるのに顔も見えない映画デートはあまり好きじゃないんだ。カフェで向き合っているほうがドキドキだよ。

花火

#twnovel 花火見物に集まってくるのは、なにも生きている者とは限らない。あの大きな音と光の中、草葉の陰でおとなしく寝ていろというのも酷な話だ。死者は群衆に紛れ、夜空に咲く大輪の花に現世の思いを甦らせる。風のない真夏の夜、冷たい風が首筋を撫でたら、彼らにそっと「おかえり」と。

2011年7月30日土曜日

哲学入門

#twnovel 生きるとは何か。リビングで哲学入門書を読みふける俺の前に、妻がラーメンを置いた。「そう考えている間にも週末は過ぎていくの。そしてラーメンはのびる。私の予定は空いている。あなたがすべきことは?」俺は目の前の丼を見つめた。「…箸を取りに行く」あっ、と妻が苦笑した。

#twnovel ぽっかりと心に空いた穴が塞がらない。夜の街で路地裏の占いに呼び止められた。「無理に塞ごうとしないことだよ。余計拡がりかねないからね」僕は老婆に訊ねる。「手相に出てる?」「ただのアドバイスだよ、無駄に生き延びちまった老いぼれからのね」潮風が凪いだ。

かき氷

#twnovel かき氷になった僕たちは、夏の陽射しに溶かされるまでの刹那の時に愛し合う。文字通り一つになり、混ざり合い、そして蒸発してその生を全うするのだ。「なんか素敵なこと言ってみたって顔してるけど、蒸発する前に『アリの大群にたかられる』が抜けてるわよ。私は嫌だからね」

2011年7月27日水曜日

かしパン

#twnovel 友人から「貸しパン」が帰ってきた。そいつの本心が知りたくて「可視パン」を食べると、僕への憎悪の念が見えた。それを指摘すると、動揺した友人は発作的に「仮死パン」を食べて倒れた。なんたる悲劇。僕は自らの愚かさを悔い泣き叫んだ。その文句は「歌詞パン」に記されている。

思い出屋

#twnovel 倦怠期を迎えていた私達夫婦は、不要な思い出を買い取る「思い出屋」を訪れた。私が先に済ませ、妻が処置を終えるのを待つ。やがて現れた妻の姿に、私は心臓が高鳴るのを感じた。不要な思い出を消し去ったぶん、新婚当時の思いが近いのだろう。喜ぶ私に妻が言った。「あなた、誰?」

気がつくと

#twnovel 気がつくと外は雨だった。僕の人生はそんなことばかりだ。気がつくと大人になっていて、社会の歯車に乗っていた。今さら自分の愚鈍さに打ちひしがれても始まらない。そう悪いことばかりでもないさ。気がつくと隣で寝息を立てている彼女を見てそう思う。気がつくと雨音は止んでいた。

昔の話

#twnovel 昔の話なんですが…と男は言った。ここで見掛けた女性を忘れられないのです。それはいつのことですか?相手の顔は?ほらご覧なさい。夢だったんですよ。諭すと彼の魂は穏やかに召された。寂しさは常に私につきまとう。100年に1人位は、私の顔を覚えてる人がいて欲しいのに。

届かない

#twnovel 僕が綴った言葉が君のもとに届くことはない。けれど僕は綴ることを止めない。それは君が確かに存在していた証になるからだ。なんて偉そうなことを言ってごめん。単に僕は、僕自身が存在した証として書き綴っているに過ぎない。君をだしに使ってごめん。そんな言葉も君には届かない。

行列

#twnovel 昼間から行列に並んでいると、後ろのオヤジが「君は何のために生きているんだ?」と聞いてきた。はぁ?どうせ無職だよと思いつつ「ここのたこ焼きを食うためだ」と吐き捨てた。現在俺はそのたこ焼きチェーン店を数店舗任されている。人生分からない。あのオヤジが社長だったなんて。

花火

#twnovel 「ごめんね、私のせいで花火を観に行けなくて」僕は首を振る。「いや、このほうが独り占めできていいなって」花火のことを言ったつもりだったけど、何やら勘違いしたみたいな彼女の顔が、暗がりのなかでも真っ赤で可愛かったから黙っておこう。コンビニで買った花火を2人で囲む夜。

祖父

#twnovel 帰宅すると、死んだはずの祖父が居間で寛いでいた。早ぇよ、お盆は来月だぜと声を掛けたら、相手は向かいの家の爺さんだった。「冗談にも程があるわい!」不機嫌になった爺さんが出て行く。見送った先の煤けた一軒家に目を止めて気がついた。爺さん、あんた先週の火事で死んでるよ。

2011年7月24日日曜日

最後の日

#twnovel 「もう終わりにしない?」3度目のクレーンがぬいぐるみを取り損なったところで彼女が言った。突然の別れ話?僕は戸惑う。「今日が最後なんだって、ずっと考えていたの。だから…」サヨナラひと夏の恋。「だから今日は地デジテレビ買いに行くの付き合ってほしいな。何泣いてるの?」

2011年7月23日土曜日

エンドレス

#twnovel いつまでも物語に浸りたいという息子に、エンドレスの物語を書いた。追い詰められた犯人がラストで逃走、振り出しに戻って再び悪事を働く。盗んだ金銭でリゾート暮らし、ラストで捕まるも逃走して振り出しへ。3回ループして息子が言った。「パパ、このリゾートホテルがグルだよ」

2011年7月22日金曜日

S-Fマガジン リーダーズ・ストーリィ投稿

一昨日投稿しました。またもや5ヶ月振りです。
34作目の投稿になります。始めた頃は毎月出していたけれど、最近は年に2、3作のペース。
活動の幅を拡げていこうとはしているんですが、いっこうに拡がっていません…。

いつもと同じ銘柄の封筒を使い、いつもの書式で、いつもの郵便局から、いつも通り速達で(笑)。

覚えてる?

#twnvday #twnovel 記念日には花を贈ることにしていると話すと、同僚に「熱いね」とからかわれた。何の記念日か覚えてないけどな、と照れ隠しに言ったが、それもあながち間違いではない。彼女だってそうに違いない。「今日、何の日か覚えてる?」「待って。140字にまとめるから」

毎年7月22日はツイノベ記念日!(2009年7月22日から「140字で完結した小説作品、ツイッター小説」のタグとしてtwnovelが使われ始めた) #twnvday

カケル君

#twnovel カケル君は子供の頃から駆けっこが得意だった。陸上選手となった彼は大舞台でメダルを獲得した。「名前に恥じない走りが出来ました」笑顔でインタビューに答えるカケル君。でも僕は知っている。彼のお父さんは書道家だ。名前の由来が「駆ける」じゃなくて「書ける」だってことも。

とりあえずビール

#twnovel ねぇ大将。メニューにある「とりあえずビール」って何? え、店に入るなりお客さん達が揃いも揃って言うもんだから…って? そうだね、作る方はとりあえずじゃないよね。ビール1杯だって心を込めて注いでるんだよね。それじゃ、とりあえず「とりあえずビール」を貰おうか。

2011年7月21日木曜日

うなじ

#twnovel 「うなじ、好き?」ポニーテールを結った彼女の白い首筋に見とれていた僕は、心の中を見透かされたみたいでどぎまぎした。あ、でも、別に誰でもいいって訳じゃなくて…。彼女が看板を指す。「お昼、ここにする?」香ばしく甘い香りが漂う。あ、今日は土用の丑の日。うなぎか…。

耳度島

#twnovel 「耳度島」を手に入れた。耳の中に入れると島民達の声が聞こえる。悲喜交々の人情劇に僕は魅了された。あるとき島の娘に恋をした。彼女の声は僕に届くのに僕の声は彼女には届かない。やがて彼女は島の若者と結ばれた。悲しみに悶える僕の耳に、今日も幸せ一杯な彼女の声が響き渡る。

団地

#twnovel 廃墟? いや今でも何世帯か住んでいるんですよ、あの団地。夜になるとポツリポツリと灯りがつきますから。住人が去って行った理由? やはりあの一家心中でしょうね。…どうです、立ち話もなんだし、うちに寄っていきませんか? あの2階の角の、壁が焼け焦げた部屋なんですがね。

母の希望

#twnovel 「ピアニストを目指していた母の希望で、私は幼い頃からレッスンに明け暮れていました。嫌で嫌で仕方がなかったんです。だから私は、自分の娘には普通の生活をさせたいんです。平凡な大人になって欲しいんです」「ですからお母さん、それが親の押し付けだと気付かないのですか?」

アドバイス

#twnovel 「おこらないように願うのではなく、おこったらどう対処すべきかを考えるんだ。いいね」「震災の備えかしら?ちゃんとお兄ちゃんの話を聞くのよ」ママが立ち去るのを確認して、僕は兄にアドバイスの続きを請う。「テストの結果がこんな点数じゃ、母さんだって怒るよ。肝心なのは…」

2011年7月18日月曜日

海に行こうよ

#twnovel  「海に行こうよ」そう言って彼女が開いた情報誌。ビーチで小麦色に焼けた水着姿の女の子の笑顔に、僕は吸い込まれそうになる。あれ、焼きたくないって言ってなかったっけ? ふいに彼女の手が誌面を覆う。「私が焼きたくないのは焼きもち!」ごめんごめん。今日は海の日だね。

「あつい」って言った方が…

#twnovel メニューを眺めていた私に、向かい席の彼氏が言った。「先に『あつい』って言った方がおごるってのはどう?」節電中の店内はじっとりしていて、座っているだけで汗が浮かんでくる。「面白そうね」私は承諾し、彼は店員を呼び止めた。「俺、味噌ラーメンね」「じゃ、私は冷やし中華」

2011年7月15日金曜日

今日も暑いね

#twnovel 彼女とデート中、知り合いと遭遇した。「今日も暑いね〜」ありきたりな会話を交わしてすれ違ったあと、絡めていた彼女の腕がするりと抜けた。「…くっつきすぎかな?」そう言う意味で言ったんじゃないと思うけど、照れて俯いた顔が可愛いから黙っておこう。今日も熱いね。

不思議な眼鏡

#twnovel 不思議な眼鏡を買った。脳波を読み取り、不快な物を記号化してくれるという。装着してみたが特に変わった様子はない。ものは試しと、説明抜きで妻に渡してみた。怪訝そうに妻が私を見る。「この眼鏡が何だって言うの?それと、貴方が被っているへのへのもへじのお面。訳わかんない」

新型の耳栓

#twnovel 新型の耳栓を買った。脳波を読み取り、不快に感じる音を全て遮断してくれるという触れ込みだ。装着してみると蝉の鳴き声が止んだ。道路工事の掘削音も、隣家の夫婦喧嘩の怒鳴り声も聞こえない。実に素晴らしい。「で、貸した金いつ返してくれるの?」アーアー聞こえない。

2011年7月14日木曜日

たくあん

#twnvday 「たくあんはどうだった?」「食べた。美味しかったよ」「よかった。ほんとだ。一切れも残さず」「ずっと好きだった」「たくあん?それとも…」「勿体ぶった言い方しないからな。お前がだよ。いい加減気付いてほしいわ」「…私も好き」「キスしていい?」「いいけどたくあん臭いよ」


毎月14日はツイノベの日! 今月のお題は「たくあん」です! おにぎりの横に佇む姿、しみ込んだ味が食を進める、隠れた実力者、たくあん。たくあんを和える味が、あなたの物語にはありますか? #twnvday 【毎月14日はツイノベの日! お題「たくあん」 #twnvday 】

2011年7月13日水曜日

西瓜売りのおじさん

#twnovel この季節になるとやって来る行商のおじさんから、母は毎年律儀に西瓜を買っている。「あんたが子供の頃、弟が欲しいとダダをこねられてね。赤ちゃんは西瓜に入って来るんだと教えたのよ」私には年の離れた弟がいるが、父は私が幼い頃に亡くなっている。なるほど、そういうことか。

目隠し

#twnovel 読書中の彼女の背後にまわり、両手で目隠し。他愛のない悪戯だ。「恋愛小説とかけて今の私の気持ちとときます。そのこころは?」え? 予想外の反応に僕はオウム返し。「そのこころは?」「顔が見えないのにドキドキします」掌から急に汗が噴き出して、僕は慌てて手を引っ込めた。

2011年7月12日火曜日

雷雨

#twnovel 突然の雷雨に追い立てられ、僕らはコンビニの軒下に駆け込んだ。「どうしよっか」顔を上げると道路向かいにはホテルのネオン。気まずくなって、彼女の手を引くように店内へ。ビニール傘を2本取ってレジへ向かう僕の腕を彼女が掴む。「1本でいいでしょ?」微妙な加減がもどかしい。

アイツの彼女

#twnovel 「アイツ最近付き合い悪いよな。彼女でも出来たか」「そうだよ。知らなかったの?」「マジかよ? ちくしょう、先を越されたか。でもアイツが落とせるような女なんて、たいした玉じゃねぇよな」「何だ、それも知らないのか。お前の妹だよ」

心頭滅却すれば…

#twnovel 「心頭滅却すれば火もまた涼し、でしょ」暑い暑いと連発する僕をたしなめるように彼女は言った。確かにそうだけどさ、後に続く言葉を僕は飲み込む。無念無想の境地なんて無理な話だよ。照れ隠しだって分からないかな? 腕に絡まる君の柔らかい感触で、僕の頭の中は一杯なんだって。

2011年7月11日月曜日

夏は好き?

#twnovel 夏は好き? 彼女に聞かれ、僕は慌てて視線を逸らした。勿論、好きだよ。胸元の大きく開いたシャツが、とは言えない。僕らは知り合ったばかりなのだ。焦ってはいけない。私も好きよ。彼女は悪戯っぽく笑った。夏は本性がすぐ見えるから。僕は再び視線を逸らす。青すぎる空が眩しい。

超強力万能掃除機

#twnovel 超強力万能掃除機を手に入れた。「どんなゴミも逃さない!ゴミの原因を根こそぎ吸引!」頼もしい。スイッチを入れた途端、掃除機が唸りを上げて俺に襲いかかってきた。「だから暫くかくまってくれ、って言うのがプロポーズの言葉」「掃除が済んだら別れちゃいなさいよ、そんな相手」

2011年7月9日土曜日

履歴屋

#twnovel 転職にあたり、履歴屋から見栄えの良い履歴を買った。一流大学出身、海外留学、資格多数。そのおかげで一流企業に就職が叶った。しかし、入社してみると三流以下の企業にしか思えない。上司が言った。「法人向けにも似たような商売があってな。うわべの業績なら金で買えるんだ」

2011年7月8日金曜日

時間に大らか

#twnovel あいつは遅刻ばかりしてたなぁ。友人達が咲かせた話に取引先の老人が加わる。私も随分泣かされましたよ。時間に大らかだった故人が焼き上がるのを待つ火葬場のひととき。待合室に顔を出した親族が済まなそうに言った。「もう少し、かかるみたいです」彼らしいね。座がどっと笑った。

2011年7月7日木曜日

短冊に願いを

#twnovel 祭り会場で3人並んで短冊に願いを託した。何を書いたの?と彼女に聞かれた僕は、奴がジュースを買いに行ってるのをいいことに抜け駆けを試みる。「右隣の人の願いが叶いますように、って」彼女は笑みをもらして言った。「わぁ、私と同じ」ちょっと待て。彼女の右隣は僕じゃない。

七夕貯金

#twnovel 「七夕貯金をしているんです」逆さに吊されたてるてる坊主を訝しむ僕に、彼女は言った。「雨でもいいやという日は逆さにして雨を願うんです。そうして貯めた一年分の晴れを、七夕の日に下ろすんですよ」子供みたいでしょ、と照れくさそうに笑った彼女は、天文台で働く学芸員。

七夕は記念日

#twnovel 僕らは七夕の日に出会った。付き合いだしたのは翌年の七夕。七夕は僕らの記念日だった。だから入籍日を七夕に合わせたのも自然な流れだろう。でも離婚届けまで七夕の日に出すのはどうなんだ? 今年もこの日が来た。今では七夕は、年に一度子供達に会える日になっている。

超高齢化社会

#twnovel 超高齢化社会。政府は「末期高齢者」と位置付けた90歳以上への「余生一時金」の支給と、それ以降の年金支給の打ち切り、医療保険制度の廃止を決定した。いわゆる「姥捨て法」である。ニュースを見た母が溜め息をつく。「子消し法も成立しないものかねぇ」…この世代には勝てない。

エアコン要らず

#twnovel エアコン要らずで涼がとれるという噂のラーメン屋に足を運んだ。カウンターにつくと確かに背筋がひんやりする。「冷房?入れてませんよ」大将は笑って麺を茹でている。「ちょいと訳あり物件を借りただけでね。ちょうどお客さんの足元あたりかな、仏さんが倒れてた場所は」

過酷な健康診断

#twnovel 世界一過酷な健康診断。全ての検査項目で異常なしの結果を出さなければいけない。脱落者は文字通り次々とふるい落とされる。その姿は果物の出荷工場の選別風景にも似ていた。「落とされた人はどうなるのですか?」「ご心配なく。医学界が有効に活用します。規格外の果物のようにね」

夏のかけら

#twnovel 夏のかけらを買った。焼けつく日射しに揺れる陽炎、潮騒の香りに身を委ね、あの夏を想う。続けざまに次の封を解く。外界との接触は1台のラジオのみ。絶望のない、美しい世界だ。「それでは次の相談です。お兄ちゃんがお風呂に入浴剤を何個も入れるので困っています。どうすれば…」

2011年7月4日月曜日

扇風機に足(完結編)

#twnovel 私は横町の発明おじさん。扇風機に足を取り付ける発明を断念した。億劫がらず自分で向きを調整すればいいのだ。行きすぎた科学は堕落を生む。「ちょっとあんた、風こないわよ」逃げ出した初代扇風機は神の啓示であった。トドのように横たわる妻に風を送りながら、真理に触れた夏。

扇風機に足(後編)

#twnovel 私は横町の発明おじさん。扇風機に足を取り付けてみた。2代目は逃げ出すこともなく、私の姿を認めるとヨチヨチと寄ってきた。そして私の隣に座り…なぜお前が一番涼しい場所に陣取るのだ? お気に入りの場所を扇風機に奪われた私は3代目の製作を決意した。まだ夏はこれからだ。

扇風機に足(前編)

#twnovel 私は横町の発明おじさん。扇風機に足を取り付けてみた。人の居場所を感知し、最も涼しく感じるポジションに移動し風を送る…はずだったが、どういうわけか逃げだした。仕方なく私は2代目の製作にとりかかった。快適な風を得るべく、今年の夏はこの研究に全てを注ぐつもりだ。

節電温度28度以下

#twnovel 「どう、節電してる?」「もちろん。室温は28度以下にならないよう、こまめにチェックしてるよ」「偉いな」「これが結構手間でね、ホラ、うち高台で涼しいだろ? だから何もしなくてもよく28度以下になるんだよ。夏場にわざわざ暖房を入れるのは苦行だぜ」「それ本末転倒」

節電モード

#twnovel テレビに新たな節電モードが搭載された。映る価値のないタレント、流す価値のないニュース等を画面から排除する。価値のないものに電力を消費するのは無駄だ。どのチャンネルもすっかり静かになった。時折、売れない芸人が顔を出す。彼らの寒いギャグで視聴者はささやかな涼をとる。

人間関係トリモチ

#twnovel 人間関係トリモチで、友人知人を好き勝手にくっつけた。たいして仲が良いわけでもなかった連中が恋仲に発展するさまは滑稽で楽しかった。やがて僕は一人になった。時折思い出したかのようにハガキが届く。「ありがとう。君は僕たちのキューピットだ」そんなつもりじゃなかったのに。

思考読み取り装置

#twnovel 人の思考を読み取ることに成功したという博士にインタビューを行いました。「頭蓋骨から脳を取り出してこの機械にかけると、その直前の考えが読み取れるんじゃよ」ちなみに、今まで見てこられた方の結果はどのようなものでしたか? 「全員、「死にたくない」だったな」

小窓

#twnovel 部屋の隅に見慣れない小窓がついていた。覗くとそこは自分の部屋。卓上カレンダーは明日の日付だ。万年床では俺がいびきを掻きながら寝ていた。明日もこの様か、怠け者め。舌打ちをして俺は万年床に戻った。「チッ」背後で物音がした。振り返ると反対側の隅にも小窓がついている。

2011年6月28日火曜日

パンダを飼いたい

#twnovel 娘にパンダを飼いたいとせがまれ困っていると、妻が助け船を出した。「普通の熊に色を塗ればいいのよ。子供だしどうせ分からないわ」なるほど。屋台で売ってたカラーひよこの要領だ。「ですから刑事さん、塗料缶を盗んだのは娘を思ってのことなのです。え、熊はどうする気だって?」

君がいなくなってから

#twnovel 君がいなくなってから1ヶ月が経った。あの晩、僕はヤケ酒をあおった。3日間は悲しみに打ちひしがれた。1週間は何もやる気が起きなかった。1ヶ月、ようやく君を思い出にすることができそうだ。君と初めて会った店で、僕は出逢ってしまったんだ。君とよく似た可愛い…子猫に。

靴下

#twnovel 「靴下に穴が空いちゃったんだけど、結構便利だぜ」「どうして?」「だって、爪を切るたびにいちいち脱がなくて済むし」「脱げよ」

スイカ

#twnovel 親父がスイカになった。「いい大人がタライで水浴びをするわけにはいかんが、スイカなら自然だろう」という言い分だ。そんな親父を羨ましく思いつつ僕は学校へ行く。帰宅するとタライに親父の姿がない。台所で母がスイカに包丁を入れていた。「刑事さん、これが父の失踪の真実です」

悲観

#twnovel 足元で小さくなってゆく地上を見下ろしながら僕は嘆いた。まだまだ人生でやりたいことが沢山あったのだ。こんなに早く死んでしまうなんて。「そう悲観することもないですよ」案内役の天使が囁く。「申請すれば、未使用分の寿命は還付されます。適用は来世になりますが」

2011年6月25日土曜日

平行世界では

#twnovel 「よう、俺」平行世界から別の自分が現れた。やけに身なりが良い。「事業が順調でね」こっちは失業中だというのに。「妻のお陰だよ」振られた元カノの名前が出てきて驚いた。「計画通り受け取った保険金を元に事業をはじめたわけだから……あれ、こっちじゃまだ生きてんの?彼女」

夢じゃなかった

#twnovel 目覚めると、憧れの彼女が隣で寝息を立てていた。良かった!昨夜のことは夢じゃなかったんだ。幸福感が僕を包む。このままずっと寝顔を見ていたい。窓からの爽やかな風に撫でられ、彼女が目を覚ました。喜びを噛みしめて頬が緩んだ僕を見て肩を落とす。「夢だったら良かったのに…」

述語

#twnovel 話が長すぎて何を言いたいのか分からない。先に述語を言ってくれ。「仕方ないわね。それで3日目の昼には冷やし中華が出たんですって。信じられる? てっきり抜糸までは流動食だとばかり…」待って、話が飛んだぞ。今度は何の話?「え、入院している友達の術後の話だけど」

2011年6月23日木曜日

季節外れの

#twnovel この時期に花を咲かせている季節外れの桜があるという。春に花見をし損ねていた私は、興味本位でその公園を訪ねてみた。「おや? 確かに桜の花のようですが、この木は桜ではありませんよね?」管理人は頷いた。「ええ。ボケの木です。かなり樹齢がいってます」

夏のせい

#twnovel そうだ、我慢なんてせずにすべてこの夏の暑さのせいにしてしまおう。仕事でミスをして同僚に八つ当たりしたのも夏のせい、ムシャクシャして塞ぎ込んだり暴飲暴食してしまったのも夏のせい。僕は何も悪くない。「私と出会ってしまったのも夏のせい?」ん? それは夏のおかげ。

妻との間で(3)

#twnovel 妻との間で意見の衝突が起こり、干渉材を入れることにした。口出しせずにいられない。「貴方がイカ嫌いってことは知ってるけど、このヤリイカは美味しいわよ。食べてみたら?」小皿に載った白い物体を恐る恐る口に運ぶ。「…うん」回転寿司で仲直りなんて、庶民的な夫婦だよ僕らは。

妻との間で(2)

#twnovel 妻との間で意見の衝突が起こり、鑑賞材を入れることにした。これからはお互い相手を眺めるだけだ。気楽にはなったが、何か物足りない。「だけど嫌な思いもしなくて済むじゃない?」その微笑みは恋人同士だった頃と変わらない。ただ、僕が彼女の柔らかい肌に触れることはもうない。

妻との間で(1)

#twnovel 妻との間で意見の衝突が起こり、感傷材を入れることにした。「ごめん。君がこんなに心を痛めていたなんて知らなかった」「私も。貴方が背負った重荷に気付いてあげられなかった」僕たちは互いに慰め合った。お互いを見つめ感傷に浸る毎日。衝突は起こらないが何の進展もない。

彼女の欠片

#twnovel 彼女の欠片を拾った。全て揃えると憧れの彼女が手に入る。僕は学業そっちのけで毎日探し続けた。就職もせず、同窓会の通知に返事もせず何年も彼女の欠片だけを追い求めた。そしてついにすべてが揃う日が訪れた。「発掘の成果に水を差すようで悪いんだが、あの恐竜はオスだってさ」

氷の家

#twnovel 氷で家を新築した。空気の流れを工夫することで、エアコンはおろか冷蔵庫すら不要になる画期的な構造が自慢だ。これからの季節にうってつけのエコ住宅、私はこの家で夏を快適に過ごしている。ある日、涼みに来ていた友人が言った。「冬、どうすんの?」

冷やし

#twnovel 「ねぇ大将、最近は冷やしラーメンに冷やし茶漬け、冷やしカツ丼なんてのまであるらしいね。だけど、そこをいくと俺なんかは冷やしの先駆者だぜ。職場じゃ上司にずっと冷や飯を食わされてるからね…って大将、チャーシューがやけに多くない?」「食ってください、サービスです」

#twnovel 一時は溢れんばかりの水をたたえていた泉も、連日の猛暑のためか底が見えてきた。水不足を懸念した人々が社に集まり祈祷する姿を、神は呆れながら見下ろした。「底が見えているのは悲しみの泉じゃ。困ることなどあるか。まぁ、ちと急過ぎたかの」下界に爽やかな風が吹いた。

UFO

#twnovel 突如出現したUFOは世界各地の上空を飛び回り、やがてとある都市に着陸した。各国の要人が直ちにその都市に駆け付ける。全世界が固唾を呑んで見守る中、現れた宇宙人は無数のフラッシュに包まれながら静かに口を開いた。「すみません。田舎に泊まろうという番組なんですが…」

無くなっている物は

#twnovel 実況見分が終わると、刑事さんは私の顔をまじまじと見た。「小銭の入った財布の他に、無くなっている物はないのですね?」汚い部屋を見渡して私は頷く。よりによってこんな貧乏学者崩れの部屋に泥棒に入るとは。「酷いな。博士の地位と実績、人生丸ごと盗まれたときた」何だって?

CG

#twnovel 妹がCGになった。「理想のプロポーションを実現出来るから」と笑って。続いて父が「満員電車に乗らずに一瞬で職場に行けるから」と、母が「家族の食事を作らずに済むから」という理由でCG化した。一人残された僕は今日も部屋に籠もり、ディスプレイ越しに家族の世話をしている。

青春の味

#twnovel 焼きそばUFOは青春の味と言うが、青春はUFOの味とは比べものにならない。それを知ったのは中年を迎えてからのことで、遅れてきた青春を初めて口にしたときだった。「奥さんの手料理がカップ麺より不味いからって文句言うなよ。お前が結婚できた事自体が奇跡なんだからな」

暑さで…

#twnovel 暑さで隣の奥さんが溶け出した。あ、と思う間もなく、私も足元から溶け出した。テレビではアナウンサーがカメラの前で既に液体化している。職場の夫の顔がふと浮かんだ。流行に疎い彼のことだから、この暑さでも溶けていないかもしれない。帰ったら教えてあげなくちゃ。

リセット

#twnovel 疲れ切った人生をリセットしてみた。最高の可能性を秘めていた頃に戻れるという。秀才で通用した小学生の頃だろうか、それとも部活に打ち込んだ中学生の頃だろうか。いくら待っても何も変わらない。装置の液晶表示は今日の日付で停止していた。泣き笑いの情けない顔が鏡に映った。

進化の頂点

#twnovel 「地球上に発生した生物の進化の頂点に、我々人類は存在するわけだ。この地位を揺るがす存在を認めるわけにはいかない。例えば宇宙人などはね。適当なものに置き換えて、なかったことにしたいのさ」「代わりに置いた空き缶がその気になっている国があるけどな」

雑踏の中で

#twnovel 駅前の雑踏の中で見覚えのある姿を見掛けた。急いで駆け寄ったがその背中は既にない。振り返り、先程まで自分がいた場所を確認する。ぼんやりとこちらを見ている自分がいた。その視線が驚いたように僕を捉える。僕は雑踏の中に逃げ込んだ。

八百屋のおじさん

#twnovel 手酷い失恋をした私の元に八百屋のおじさんが来た。悲恋の情を譲ってくれと言う。意味の分からないまま頷く。心なしか気持ちが晴れた。だけど私の感情はどこへ行ったの?「下手な役者が欲しがるんだよ」おじさんは副業で感情売りをしているそうだ。謝礼として大根を受け取った。

夢の中で

#twnovel 夢の中で私は、子供の頃住んでいた家にいた。自屋に足を踏み入れる。ここは私の潜在意識の中だと直感した。学習机の上には1冊のノート。潜在意識で私は何を綴っているのだろうか。興味を抑えきれずに開いてみると…「あんみつ」と書かれていた。「それって善哉意識ってオチ?」

2011年6月19日日曜日

資格

#twnovel 気まぐれで冷やし中華を作ったが、とにかく不味い。諦めて外に食べに出ようとすると、背後から冷やし中華に呼び止められた。「ふざけんな。誰が作ってくれと頼んだ?」悪かった。俺に料理をする資格なんてなかったな。それ以来、俺は料理をしていないんだ、大将。「へい、お待ち」

ニシムラさん

#twnovel ニシムラさんは、ひたすら西を目指して旅をしている。「西には何があるんですか?あなたの故郷?」彼は寂しそうに微笑んだ。「私の故郷はずっと東にあります。もう帰ることは出来ないかもしれない」西に何があるかは分からない。そう言って彼は旅立っていった。振り返りもせずに。

止まない雨は

#twnovel 止まない雨はない。などと一体誰が言い出したのか。雨なんていつかは止むに決まってる。気まぐれな気象と目の前に立ちはだかる現実とは関係がないのに。今日も僕は辛い現実と向かい合う。雨に紛れて泣けば気付かれずに済む。止まない雨はない。…思い出した。君が好きだった言葉だ。

2011年6月15日水曜日

3.11 心に残る140字の物語



本日6/15日に学習研究社から発売された「3.11 心に残る140字の物語」に、拙作が収録されています。

この本は、作家の内藤みかさんが3.11の震災後、Twitter上に寄せられた心温まる小さな物語を個人的に集めはじめたことをきっかけに生まれました。

厳選された100編の小さな物語が、5つの章に分けて収録されています。
仙台で被災した自分にとって、このような企画に参加できたことを嬉しく思います。
印税は全額チャリティーです。
書店にお立ち寄りの際にでもご覧いただければ幸いです。

自殺?

#twnovel 目覚めると部屋の中で私が死んでいた。私が殺したのだろうか?これも自殺と呼べるのか?自殺が罪ならば、私はどれほどの報いを受けるのか。二人殺したら死刑等というガイドラインが存在するのだろうか。そのうち出勤時間が過ぎてしまった。すみません。自殺したので今日は休みます。

前借り

#twnovel 「係長、新婚旅行休暇を取りたいって、君はいつ結婚したんだね?」「いえ部長、予定すらありません。申請したのは新婚旅行休暇の前借りです」「悪いが、私が認めるわけにはいかんな」「何故です?」「前借りしていた部長職の期限が切れるからな。明日からは君の下で働く平社員だ」

あれから

#twnvday あれからというもの、僕は必死に君の姿を探し続けた。駅前の雑踏、お気に入りのカフェ、海岸沿いの公園、そして最後の思い出になった映画館でそれを知った。一緒に観ようと約束していた新作映画。チケットを二枚購入して僕は席に着く。まだしばらくは、このままでいさせて欲しい。


 【毎月14日はツイノベの日! #twnvday お題「あれから」】

夏を前に

#twnovel 夏を前に、政府は気象用語の適用温度を見直すことを閣議決定した。夏日がこれまでの最高気温25度以上から30度以上へ、真夏日が同じく30度以上から35度以上へそれぞれ引き上げられる。これにより、猛暑と予測される今年の夏における夏日と真夏日は大幅に減少する見込み。

あの頃は

#twnovel 誰しもが人生の中で、あの頃は良かったと思い振り返ることがあるだろう。それでは動物もそんな感情をもつのだろうか?自ら開発した万能翻訳機を我が家の犬に向けてみた。「この器にたくさんの餌が盛られていた頃が懐かしい…」なんと人聞きの悪い!夕食まで少し待ちなさい。

忘れ物

#twnovel 忘れ物が多い部下の扱いに困っている。家に持ち帰った資料など満足に戻したことがない。「ペットのウサギが食べてしまって…」そんな幼稚な言い訳が通用するとでも思っているのか。俺は毒性のある農薬を染みこませた資料を彼に手渡した。その夜、彼は救急車で病院に運ばれた。

#twnovel この世界には古来から白黒2本の巨大な柱が天に向かってそびえ立っていた。「白い方の柱が世界を支えていると言い伝えられているんだ」父親は幼い息子にそう説明した。「疲れたら黒い方が代わってあげるの?」息子が彼を見上げる。「いや、蹴落として自分の世界にするのさ」

2011年6月11日土曜日

自信

#twnovel 「君は娘との結婚を長いこと迷っていたそうだな」娘の父親は苦々しく青年を睨んだ。「ええ。定職に就いたこともない自分が家庭を築いていける自信がなかったんです」「そう言う割には、結婚前から子供を作るなど手が早いようだが」「ええ、そっちの方は自信がありますから」

2011年6月9日木曜日

恋のお守り

#twnovel 意中の相手を振り向かせる!「恋のお守り」が空前の大ヒット。開発者にインタビューしてみました。「以前開発していた別の製品がありまして。売れ残って大量に返品されたそれをお守りの袋に詰めてみただけなんですよ」「それはどんな製品なのでしょうか?」「勘違い誘発装置です」

2011年6月8日水曜日

日本印度化協会

#twnovel 差し出された名刺には「日本印度化協会」とあった。「失礼ですが…」男の視線が1Kの部屋に向く。「お昼はカレーですか?」ちょうど今、レトルトを器に盛ったところだ。「それなら結構です。ご協力感謝します」男が去ってから改めて食卓につく。何だよアイツ…あ、これハヤシだ。

後悔の念

#twnovel 老いさらばえた両手を見つめ、私は後悔の念にかられた。思えば無駄ばかりの人生だった。今度生まれ変わったら、短くとも太く生きよう。今世で叶えられなかった夢をこの手で掴むのだ。そして私は生まれ変わった。短く太い指をもって。…ピアニストになる夢は掴めそうにない。

2011年6月7日火曜日

冷やし中華風

#twnovel 「冷やし中華風、始めました」という看板に引き寄せられて店に入った。冷やし中華風ひとつと注文すると、いかつい店主にジロリと睨まれた。「冷やし中華風の、何にします?」メニューに目を向けるとそこにはイカ、豚、海鮮の文字が。「ウチはお好み焼き屋なんでね」え…。

熱いラーメン

#twnovel 「ねぇ大将」熱いラーメンを一気に啜って、男は額の汗を拭った。キッチリ締めたネクタイ、上着が暑苦しい。「ブームに流され、過ぎたら忘れる。俺は日本人のそんなところが嫌いなんだ。どうせ夏が過ぎたら誰もクールビズなんて言わなくなるよ。間違いない」そんなこと言われても。

応援

#twnovel 応援すると必ず負けるのでスポーツ観戦の類は控えていたのだが、困ったことに息子が野球部のレギュラーに選ばれた。私は試合のたびに相手チームを応援し、甲子園優勝を反対側のスタンドから見届けた。息子がプロに進んだ今も、全チームのユニフォームを取り揃えて応援を続けている。

世界の果てまで

#twnovel 世界の果てまで行って来たと告げると、友人は目を丸くした。「どんな風景だった?」「普通だよ。道があって船着き場があって」「船着き場なんてあるのか」「ああ、こちらの世界からは果てだけど、あちらの世界からは割と近場らしい。六文銭しか使えないみたいで乗れなかったけど」

2011年6月6日月曜日

黄昏どき

#twnovel その町の時間は黄昏どきに止められた。どこからか聞こえて来る豆腐屋のラッパ、銭湯の煙、家路に急ぐ子供達、全てが夕日に赤く染まっている。いつまでもこの幸せに浸り続けたい。人々の願いは聞き入られた。時を止めたこの町に夜は訪れない。そして、明日の朝日も昇らない。永遠に。

つけない麺

#twnovel 馴染みの店でつけ麺を頼んだが、麺しか出てこない。「大将、つゆがないんだけど?」「あ、それ『つけない麺』です。特別メニューですよ」そのまま食べてみたがちっとも美味くない。「つゆ欲しいんだけど?」したり顔で大将が言った。「ツケ払ってからにしてもらえます?つけ麺は」

カンブリア紀

#twnovel 時空間入替装置によって出現したカンブリア紀の生物たちを前に、博士は言った。「彼らは現在の生物の祖先だ。一匹でも殺したら、延長線上にある現在にどんな影響が現れるか…楽しみじゃないか?」博士は水槽に手を突っ込み、ナメクジの様な生物を握りつぶした。博士の姿が消えた。

プロポーズ

#twnovel 写真好きのN君は口下手な男だ。そんな彼のことを思い、彼女へのプロポーズの言葉を考えてあげたのだが、あえなく玉砕したという。「『おばあちゃんになった君の笑顔を撮りたい』ってちゃんと言ったのか?」「いや、うまく言葉がでなくて。『君の遺影を撮りたい』って言ったんだ…」

#twnovel 「バカ言うなよ、卵が先に決まってんだろ」「いや、鳥じゃないとおかしいって」「何、卵が先かニワトリが先かで揉めてんの?」「うん、客にスクランブルエッグを先に出すか、照り焼きチキンを先に出すかで意見が折り合わなくて」「いっそ親子丼にしてしまえ」

2011年6月4日土曜日

葬儀から帰宅すると

#twnovel 友人の葬儀から帰宅すると、当の友人がゲームをしていた。「お帰り。今日はありがとな」何してんだよ?「居場所ねぇんだよ。49日まで泊めてくれ」奴がいると冷房が要らないのは嬉しい誤算だった。夏休みに入り、友人は成仏した。浮いた冷房代は墓前に供えるスイカ代に消えた。

冷やし中華

#twnovel 「私を食べて」道すがら、冷やし中華に声を掛けられた。「暑いでしょ?こんな日は私を食べて元気を出して」麺の上に盛られたキュウリ、ハム、錦糸卵、それにトマトの色合いに目を奪われ、僕はむしゃぶりついた。「日替わりランチの展示品を食って腹壊したって?バカじゃねーの?」

夢の中

#twnovel 夢の中で出会った女性と恋に落ちた。現実の夫婦関係にトラブルを抱えていた僕は、夢と分かるや否や積極的に愛を育んだ。夢の中で結婚し、新たな家庭を持ったが、しばらくするとこちらでも夫婦関係がギクシャクしてきた。今でも毎晩彼女の夢を見る。寝ても覚めても逃げ場がない。

メルマガ

#twnovel 内気な彼は担任の先生の勧めでメルマガを発行し、クラスの皆に自分の意見を伝えていた。それは卒業後も続いた。就職した、結婚した、子供が生まれたと綴られた。仲の良かった友達の近況は聞かないのに、彼の日々は毎日送られてくる。20年前のあの日、間違いなく埋めたはずなのに。

2011年6月3日金曜日

まずは…

#twnovel 霧の中を歩いていた。どこまで進んでも景色は開けない。ああ、これは夢だと気がついた。その証拠に、頬をつねっても痛くない。それどころかプラスチックのような感触がある。「先生、心の病ってやつでしょうか?」「そうですね。まずはバケツを被って寝る習慣を改めてみましょうか」

いつもの猫

#twnovel バス通りを奥に入ると、いつもの猫と目が合った。「兄ちゃん、今日もラーメンかい?毎日よく飽きねぇな」偉そうな奴だ。オマエにラーメンの味など分かるものか。「て言うか兄ちゃん、お目当ては店の娘だろ?」咥えていたネズミを俺の前に落とす。「まぁ頑張んなよ」いらんわい。

神様登場

#twnovel 「じゃん、神様登場」で、何?「少しは驚け。望みを叶えてやるから言え」んじゃ、掃除でもしてくれ。あと買い物も頼むわ。財布とエコバッグはそこにあるから。「…他に望みはないのか?」特にないけどさぁ~。そうだ、「若者の神様離れ」ってオチだけはやめろよ。恥ずかしいから。

ホシさん

#twnovel ホシさんは広いお屋敷に一人で住んでいる。「宇宙船を作ったんだ。今夜飛び立つつもりだよ。君も元気でな」数日後、彼は庭先で倒れているのを宅配業者に発見された。自身が作り上げた宇宙船に収められ、ホシさんは荼毘に付された。これで良かったんだ。そう思うと涙がこぼれた。

2011年6月2日木曜日

秘密

#twnovel 僕は良心の呵責に苛まれていた。「今まで黙っててごめん。実は結婚前から、何度かコピーロボットに僕の代わりをやらせてた」妻が目を丸くした。「え、あなたも!?」今度は僕が驚く番だった。傍らで小さな寝息を立てている娘の鼻をそっと押してみる。みるみるうちに人形に戻った。

串揚げ

#twnovel 「ねぇ大将。今日の串揚げ、いつもより小さくない? ケチってんじゃないの?」主人はサーバーを操作しつつ、にこやかに切り返した。「そんな事しませんよ。ただね、衣の厚みを変えてみたんですよ。衣替えってやつでね。…お待ち!」照れ隠しなのか、威勢良く僕の前にビールを置く。

2011年5月31日火曜日

300万円

#twnovel 「知ってる?隣の奥さん、投資詐欺で200万円損したんですって」「300万だよ。お前も気をつけないとな。人を疑うこと知らないから」「何言ってんの。私は大丈夫よ。ところで旅行どこに行くの?」「お前が決めていいよ。予算は300万円な」「ボーナス結構出たのね」「まぁな」

たこ焼き星人

#twnovel たこ焼き星人地球訪問。「地球の皆さんこんにちは。我々はたこ焼きを主食にしているだけで、姿形はあなた方と変わりません。仲良くしましょう」「で、どうして怒って帰っちゃったの?」「手違いで明石焼きでもてなしちゃったらしいんだけど、明石焼き星人とは犬猿の仲なんだって」

知ってた

#twnovel 「ついてきてもらえますか?」黒服の男が手招きをすると景色が一変した。ここは…幼い頃に住んでいた家だ。玄関から父ではない男が出てきた。「彼はお母さんの愛人です。彼はこの後失踪しました」「それで?」「…驚かないのですか?」「だって、俺このオヤジ埋めるとこ見てたもん」

夢占い師

#twnovel 見る夢は全て正夢で、明日来る客に対するアドバイスを夢に見てしまうという夢占い師。話の種に俺も一度みてもらおうと思っていたのだが、予告もなしにある日突然店じまいをしてしまった。噂好きの同僚が教えてくれた。「なんでも、不眠症になる夢を見てしまったらしいよ」

良いニュースと悪いニュース

#twnovel 事故から後の記憶がない。目覚めると病院のベッドの上だった。医者が言った。「良いニュースと悪いニュースがあります」身体が動かない。「良いニュース。一緒に事故に遭われたご友人は助かりました」起き上がろうとしたら魂が身体から離脱した。…悪いニュースは言わなくていいよ。

2011年5月30日月曜日

いい天気

#twnovel 雨の朝、読書中に彼女が訪ねてきた。「天気もいいし、ドライブに行かない?」外はやはり雨。「私はいい天気、と言っただけよ」渋々車を出す。隠れ家風カフェで珈琲片手に読書に没頭していると、いつしか木漏れ日が射してきた。「晴れたね」彼女が口を尖らす。「いい天気、でしょ?」

2011年5月28日土曜日

カメムシキット

#twnovel 「カメムシキット」嫌いな奴の家の外壁に大量のカメムシを張り付かせ、悪臭で嫌がらせをする復讐の道具だ。売り場のおじさんが言った。「繰り返し使えるから経済的だよ。飼い主の家を覚えていてね、嫌がらせが終わったらちゃんと帰ってくる」

理由

#twnovel 祖母が教えてくれた。「お前は田中さん家のシュウ君と佐藤さん家のナミちゃんとの間に出来た子なんだよ」僕は両親の実の子じゃなかったのだ!「ついでに、お前の両親どちらも私と血は繋がってないよ」…家族の毛並みが違う理由がやっと分かった。僕は力の限り叫んだ。「ワン!」

爆発

#twnovel 「芸術は爆発だ」が、「爆発は芸術」ではなかった。その真実に気がつくまで、私は長い時間と多大なる犠牲を払ってきた。人気のない倉庫、放置自転車…。私は今、解体業を営みビルの解体、発破を請け負っている。法に則った爆発は退屈な日常でしかない。真実など知りたくなかった。

生きる意味

#twnovel 何のために自分は生きているのだろう。透明な壁にぶつかる度に、心の中で繰り返し問い続けてきた。「生かされているのよ。私もあんたもね」いつだったか母が言った言葉だ。その母も今はもういない。天を仰ぐと、やたら明るい水面から大きな網が降りてきた。遠くで笑い声が聞こえる。

運命調整局2

#twnovel 「待って下さい。あなたが食べるのは五目ラーメンです」彼は運命調整局の人間と名乗り、定められた運命のレールから外れかけた俺を助けに来たのだという。昼飯に迷っているときにメニューを決めてくれたりするので助かっているが、運命の人にはまだ出会えていない。

運命調整局1

#twnovel 「待って下さい。貴方が乗るのは次の快速です」彼は運命調整局の人間と名乗り、運命のレールから外れかけた俺を助けに来たのだという。「駅を降りたら右手の飲み屋に入って下さい。快速なのでゆっくり飲めるはずです」言われた通り快速に乗って店に入った。これって新手の客引き?

ワタリ君

#twnovel ワタリ君が転校してきてから、僕達落ちこぼれクラスは劇変した。ホームルームでは活発な意見交換がなされ、学年最下位だった学力は一躍トップに躍り出た。そして秋、体育祭総合優勝の余韻の中で、先生がワタリ君の転校を告げた。「黙っててごめんな、俺レンタル移籍だったんだ」

寿命

#twnovel 最近、私は人の寿命が分かるようになった。額に死亡年齢が浮かび上がって見えるのだ。しかし残念なことに自分の寿命は分からない。何度鏡で覗いても何も写らない。「ねぇママ、洗面所にお祖父ちゃんの気配がするんだけど」「まだいるのかもね。49日まではこっちにいるって言うし」

レストラン

#twnovel このレストランにメニューはない。シェフは客の容姿から嗜好を読み取り、どんな客も満足させる料理を提供すると評判だ。僕の前に運ばれてきたのは煮えたぎったマグマと岩石。こんなの食えるか!「申し訳ございません、地球の方でしたか。てっきりペテルギウスあたりの方かと…」

掃除機

#twnovel 何でも吸い込む掃除機で、隣のうるさい犬を吸い込んだ。飼い主が怒鳴り込んできたのでまた吸い込んだ。耳を当てると微かに声が聞こえる。蓋を開けてみると中で飼い主と犬が途方に暮れていた。申し訳ない気持ちになって、隣の家を吸い込んであげた。どうか幸せに暮らしてほしい。

2011年5月26日木曜日

UFO

#twnovel 飛んでいたUFOに手を振ると、驚いたことに降りてきた。「お客さん、どこまで?」タクシーのようだ。乗り込んだ私は機内の写真を撮りまくった。マスコミに売って一躍有名人だ。調子に乗って運転手にカメラを向けた。「勘弁してください。バレるとまずいんですよ、白タクなもんで」

熱心な先生

#twnovel 先生は死後も熱心に教壇に立っている。「お前らの受験が終わるまでは墓場でおちおち寝てもいられん」誰かが言った。「俺たちみんな死んだんだよ。受験なんてもうないの」先生は頭を掻きながら名簿を出す。「出席とるぞ」1番のアオキ君は今日も欠席だ。彼はあの事故で唯一の生存者。

虫の居所

#twnovel 僕には虫の居所を探り当てるチカラがある。機嫌が悪い人の身体の中でのたうち回っている虫をつまんで取り出す。本人も穏やかな気持ちを取り戻せるし、僕だって悪い気はしない。取り出した虫はカゴに入れて飼う。グチったり怒鳴ったりめそめそしたり、鳴き声も人それぞれで楽しい。

2011年5月25日水曜日

飛び降りる男

#twnovel 洗濯物を干しにマンションの屋上に出てみると、男が手摺りを乗り越えるところだった。「やめて!見えないかもしれないけど、この下は畑よ!」私の叫びに彼は振り向いた。「畑だろうと、この高さから飛び降りたら充分死ねるだろ」「違うの!さっきゴーヤを植えたばかりなの!」

引き売り

#twnovel 押し売りが来た。「違います。私は引き売りです」彼は商品を並べ始めた。「説明させて頂けたら2メートル下がります。実演させて頂けたら、さらに2メートル下がります」タイミングを見計らい話を聞いた。トラックが角を曲がったあたりで実演を頼んだ。引き売りが轢き売りになった。

2011年5月24日火曜日

念写カメラ

#twnovel 念写カメラを買った。外見は普通の一眼レフだがシャッターボタンがない。念を送り込むことで写真が撮れるのだ。密かに想いを寄せる女友達をモデルにテスト撮影に誘った。「まだ?一体いつシャッターが降りるの?」ファインダー越しの彼女に気持ちが浮ついてカメラに集中できない。

隣の家

#twnovel 隣の家はひと月も待たずに住人が変わる。こんなに頻繁に越してくるのに、私は退去の様子を見たことがない。彼らはいつの間にか姿を消してしまう。今日も業者のトラックがやって来た。新しい家具を飲み込み、隣の家はまた一回り大きくなった。そろそろ洗濯物が干せなくなりそうだ。

眠気

#twnovel 仕事中だというのに眠くてたまらないので、眠気買い取り店に売りに出した。眠気が大量に発生する時間帯に買い取りし、夜眠れない人に売る商売だ。私はたびたび眠気を売っている。経験上、一番高く売れるのは14時頃だ。それを過ぎると安く買い叩かれる。参考までに。

未来の記憶

#twnovel 未来の記憶を手に入れてしまった。運命にあがらうことなどできるだろうか。それによると私はこれから職場近くのカフェでランチを食べることになっている。彼と2人でだ。「それって遠回しに誘ってる?」「ただの記憶。それと誕生日にもらうプレゼントも決まっているから教えとくね」

街頭演説

#twnovel 街頭演説を聞いた。「頭皮から髪が生えるという誤った認識がはびこっています。真実は逆です。髪から頭が生えるのです。どうかデマに惑わされないで」バカバカしい。手でピストルの形を作り、力説中の男に照準を向ける。「パンッ」呟くと奴はもんどり打って倒れた。真実はこれだよ。

乗客

#twnovel 幸福駅へ向かう登り列車と、不幸駅に向かう下り列車がすれ違う。幸福駅行きの乗客は誰もが生気に欠け、対して不幸駅行きの乗客の表情は一様に明るい。知らぬが仏とはよく言ったものだ。改札を引き返し、見上げた空にため息をつく。降り立った雨の商店街で、僕は傘を広げる。

2011年5月22日日曜日

似顔絵

#twnovel 息子が描いた親子三人の似顔絵が涙に濡れる。「本当のことを話してくれませんか?」愛情の掛け違いが迷いを生み、愛ゆえの行動は自責の念として身を砕く。「そうね、あれは5年前の春だったわ…」「いや、この宿題の絵を本人が描いたのか、おうちの人が描いたのかを聞いてるんです」

2011年5月19日木曜日

冷蔵庫

#twnovel 初めて入った彼女の家は、趣味で集めたという沢山の冷蔵庫で埋め尽くされていた。「これは豚肉用、それが牛肉用で向こうが鶏肉用。そして…」奥の大きな冷蔵庫が唸りを上げる。「あれが貴方用」僕は心臓が止まるほど驚いた。「何勘違いしてるの、貴方が自由に使っていいって意味よ」

人生を返品

#twnovel 夕食後にリビングで家族と寛いでいると男が尋ねてきた。俺から買った人生を返品したいという。意味が分からない。ハイハイ分かりましたと適当に答えて扉を閉めた。四畳半の部屋に戻って伸びたカップラーメンを啜る。独り身は寂しい。こんな人生を欲しがる奴なんているものか。

同窓会

#twnovel 若い頃受験に失敗した学校から、同窓会の案内が届いた。会場に足を運ぶが、見知った顔はない。「そりゃそうさ。枝分かれしたパラレルワールドのひとつなんだから」親しげに話し掛けてくる見知らぬ人々との歓談の輪。共に送れたかもしれない青春の残り香が、涙腺の奥で小さく波打つ。

ゴーヤ星人襲来

#twnovel ゴーヤ星人が日本に襲来。暖かくなるこれからの時期は彼らにとって勢力を拡大する絶好の機会。地球産のゴーヤに紛れて勢力を拡大し、各家庭の軒先で緑のカーテンとして地球侵略を進めていくのだ。本物のゴーヤと違い、成長した実が人間を襲うこともあるので気をつけねばならない。

駄菓子屋

#twnovel 実家近くの駄菓子屋は店の奥がゲームコーナーになっていて、昼間でも暗いその空間は子供心には異世界に思えた。30年振りに帰った故郷、その店はまだあった。奥に向かうと当時の姿のままのおばさんに止められた。「小学生はダメよ」意味が分からず、僕はただおばさんを見上げる。

#twnovel 憂鬱な月曜日を飛ばしてしまう画期的な薬を発明した。日曜日の夜、就寝前に一錠飲むだけで、次に目が覚めたときには火曜日の朝になっている。ときどき永遠に目覚めない人がいることが、商品化に向けた今後の課題だ。

2011年5月14日土曜日

洞窟の奥

#twnovel 小学校の担任の先生はタコに似ていて、洞窟に住む変わり者だった。先生の留守中、僕たちは洞窟の奥を探検した。しばらく歩くと荒野に抜け、僕たちはハンカチを結びつけた木の棒を立てて帰った。あの場所がどこなのか今も分からない。ただ僕は、火星だったんじゃないかと思っている。

紙芝居

#twnovel 僕は公園で子供達を相手に紙芝居を読んでいる。熱心に聞いてくれる子もいれば、無関心な子、悪戯を仕掛けてくる子だっている。でも読み聞かせた後は、集まってくれた子供達を分け隔てなく絵の中に招待するんだ。みんな喜んでくれる。笛の音が聞こえるって?気のせいだよ、きっと。

麻婆豆腐に人権を

#twnovel 「麻婆豆腐に人権を!」面倒なのが来た。曰く、大豆は畑の肉であり、豚肉もまた肉である。唐辛子には子、麻婆豆腐には婆という文字が含まれている。ゆえに、血肉を伴った人としての権利を認めるべきである。断るのも面倒でつい署名した。後日、謝礼に麻婆豆腐の素が送られて来た。

モリゾウさん

#twnovel モリゾウさんは浜辺で漁師をしている。「海にいる森造なんて変なのー」囃し立てる子供達を彼は陽気にあしらう。「もう少し大きくなったら本当の名前を教えてやるよ」時は過ぎ、子供達は街へ出て行きモリゾウさんのことをすっかり忘れてしまった。今も銛造さんは子供達を待っている。

バスを降りると

#twnovel 促されるままにバスを降りると波打ち際に出た。「ここから歩きになります。バスは海の中を走れませんからね」添乗員のお兄さんが爽やかに告げる。そりゃそうだ。妙に納得した僕は彼に幼馴染みの面影を重ね、無意識に手を合わせていた。「遅いよ」彼は笑って僕を海に引きずり込んだ。

2011年5月10日火曜日

自転車

#twnovel 乗ると願いが叶うという幸せの黄色い自転車。意気揚々と乗り込んだ友人が町内を一周して戻ってきた。何だか様子がおかしい。「助けてくれ、降りれないんだ。サドルがケツと一体化したみたいで離れない」僕は説明書を読み返した。「願いが叶うまで降りることはできません」

変わった棺桶

#twnovel 変わった棺桶があるというので工場見学に行ってみた。中で縦に区切られた幅広の2人用棺桶がそれだという。担当者がボヤいていた。「ほら、昔プロポーズの言葉で流行ったでしょ?『同じお墓に入ってくれ』ってやつ。それをヒントに作ったんだけど、どういうわけか売れなくてねぇ」

浜岡さん

#twnovel 浜岡さんが学校に来なくなった。彼女は気難しがりやだけど優秀で、クラスの中心人物だった。寂しくなるけど仕方ない。以前から彼女の家が危ないという噂はあった。無理に出てきて癇癪を起こされても困るし。僕たちはこれから、彼女がいない間にすべき役割を考えなければならない。

訪問セールス

#twnovel 訪問セールスが来た。「ご用命ありがとうございます」待て待て。知らないし呼んでもねぇよ。俺の抗議を無視して奴は品物の説明を始める。俺はキレた。「うるせぇ。おととい来やがれ」奴はきょとんとして言った。「ですから、こうして参った訳ですが…」あんた明後日も来るの?

ナカムラ君

#twnovel うどんを鼻からすする芸で、ナカムラ君はクラスの人気者だった。久しぶりにあの芸を見れるのを楽しみにしていたのに、同窓会の懐かしい顔ぶれの中に彼の姿は見えない。がっかりしていると友人の一人が言った。「来るわけないだろ。あんな酷いイジメを受けてたんだから」

怪談・お題「夜祭/振り払う/木箱」

#kaidan_odai 祭りの雑踏から横道に逸れた。苔むした鳥居の先は暗闇に包まれている。面白い。懐中電灯をかざし奥へ進む。小さな祠の前で木箱にコインを投げ入れ、帰ろうとすると袖を引かれた。俺、何か失礼なことしたかな?「ソーリー」呟いて振り払った。分からんね、日本のシキタリは。


hiro_kinakoさんは「夜祭」で 登場人物が「振り払う」、「木箱」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai

2011年5月7日土曜日

世界

#twnovel 君なしで世界は成り立たない。君という存在の周りに世界が形作られているんだ。君が席を立てば、僕や彼女、この空間そのものが存在しなくなる。テーブルの上に置かれていたものも含めてね。「彼は何を言ってるの?」「俺がトイレに行ってる間に、俺の焼いてた肉を食った言い訳」

坊主

#twnovel 寝癖を直していると奴に笑われた。「アンタ坊主じゃん」つむじの辺りが反ってんだよ。本人は気になるんだ。お前こそだらしない格好をどうにかしろ。「いいじゃん、誰も俺のこと見てねぇんだろ」俺が見てんだよ。誰のために毎日お経を上げてると思ってるんだ。さっさと成仏しやがれ。

2011年5月6日金曜日

思い通りの夢

#twnovel 思い通りの夢を見られる機械を手に入れた。映画のヒロインになるのも、憧れの彼と結ばれる夢も思うがまま。私は毎晩様々な夢を楽しんだ。そんなある日、目覚めると枕元に1枚の請求書が残されていた。…しまった。ディズニー関係の夢は別途ライセンス料が必要だってことを忘れてた。

独り言

#twnovel 隣席の同僚が絶えず呟く独り言が気持ち悪い。思い切って上司に相談してみた。「あれな、母星と通信してるらしいんだ」いきなりおかしな方向に話が飛んだ。「仕事中の携帯電話は禁止されているが、脳内通信を禁止する規程はないんだ。大目に見てやってくれ」本気で転職を考えた。

ストレス

#twnovel 適度なストレスは人間を成長させる糧となる。毎日、人々にストレスを配って歩くのが僕の仕事だ。しかし不況の煽りを受けて業績はガタ落ち、ボーナスは現物支給と決まった。新入社員の僕も抱えきれないストレスを受け取った。明日から会社に行きたくない。

2011年5月2日月曜日

煩わしい

#twnovel 煩わしい世の中に絶望し自ら命を絶ったはずなのに、気がつくと僕は病院のベッドにいた。喜ぶ家族を落ち着かせて医者が言う。「正直、蘇生する確率は厳しいものがありました。本人の意思次第だと」僕は力なく首を振る。「いえ。書類不備で帰されたんです」全く、あの世も煩わしい。

2011年4月30日土曜日

原因

#twnovel その店にないものはないという。私は幼い頃生き別れた母はないかと尋ねた。勿論ありますよと店主は答え、やがて記憶の中の若々しい姿のままの母を連れてきた。母は成長した私に驚くばかり。「そりゃそうですよ、時空を越えてきたんですから」生き別れの原因が分かってしまった。

結局

#twnovel 美しい空を見上げていると心が安らぐが、前が見えないので危険だ。しかし視線を落とすと嫌なことばかり目に入ってしまう。そこで信頼できる人物を見つけ、その人を見続けることにした。心も安らぐし嫌な景色も目に入らない。「で、結局いくら欺し取られたの? その詐欺師に」

一度に…

#twnovel 人生の一大行事である結婚式とお葬式を1度にまとめませんか。のちに事情により個別のお葬式を希望された場合は、黄泉がえりの儀式を行い、お亡くなりの際に改めて葬儀を執り行いますのでご安心ください。「2重、3重に金を巻き上げたい意気込みがひしひしとに伝わってきますね」

2011年4月28日木曜日

SFマガジン「リーダーズ・ストーリィ」に入選しました

SFマガジン2011年6月号の「リーダーズ・ストーリィ」に、拙作「永遠の日曜日」が掲載(入選)されています。
2月に投稿したものです。
2005年3月号の初掲載から数えて、15度目の入選となりました。
嬉しい限りです。
書店にお立ち寄りの際は是非ご覧ください。
206ページから208ページです。

発明おじさん4

#twnovel 私は横町の発明おじさん。訳あって、お湯を注いだカップ麺からお湯だけを取り除く浄水器を開発中だ。「ですから刑事さん、これはいつも気に掛けてくださる御礼です。いいえ違います。焼きそばの出来損ないではなく、あくまでソースラーメンです」

発明おじさん3

#twnovel 私は横町の発明おじさん。長年の夢であった、幸せ増幅装置が完成した。この発明のために私は人生の全てを注ぎ込んだ。恋も友情も青春も、人並みの家庭を築くこともなく。「ですから刑事さん、試しに使ってみませんか?え、嫌?同じ匂いがするからてっきり同類だと思ったのですが」

発明おじさん2

#twnovel 私は横町の発明おじさん。一時期のガソリン不足を機に、エネルギー資源を効率よく利用できる車の開発をしている。近頃体調が思わしくないが、もうひと頑張りだ。「ですから刑事さん、何もやましいことはしていません。え、なんですかそれ。ガイガーカウンター? 振り切れてる?」

発明おじさん1

#twnovel 私は横町の発明おじさん。乾燥機付き洗濯機に、乾いた洗濯物を畳む機能を搭載してみた。さらに脳波を読み取って望んだ服を取り寄せる仕組みも実験中だ。「ですから刑事さん、私は下着泥棒ではありません。タンスや洗濯機の中にある女性物の下着は近所の家から誤配送されたものです」

入れ替え薬

#twnovel 明日と昨日を入れ替える薬を飲んだ。これで明日の競馬の結果を知ることができると期待したが、世界は何も変わらない。明日の記憶もないし、財布の中はスッカラカンだ。やがて頭痛と吐き気が襲ってきた。友人が言った。「それ、明日の競馬で外したヤケ酒のせいだと思うぜ」

2011年4月25日月曜日

ネジ穴

#twnovel 背中に緩んだネジ穴を発見した。父に頼んで締めてもらうと思考がクリアになった。頭脳明晰、気力充実。僕はたちまちクラスの人気者になった。なのに幼馴染みのあの子はちっとも喜んでくれない。僕は父にネジを緩めて欲しいと頼んだ。父は溜め息をついて母を見た。母は笑っていた。

さくら

#twnovel 「子どもが生まれたんだって?おめでとう。なんて名前?」「さくら。女の子だよ。桜の季節生まれだからね」「そりゃいいね。俺の大好きな名前だよ。食べちゃいたいくらい」「は?」「ほら、俺、馬好きじゃん。見るのも食べるのも」「お前は絶対娘に会わせねぇ」

2011年4月23日土曜日

過去回顧図

#twnovel 「未来予想図って曲あるじゃん。それに対抗して過去回顧図って曲を作ってみたんだけど、聴いてみない?」「嫌だよそんなの」「連れないな。何でよ」「だって酔っぱらったときのお前のグチにメロディを付けただけだろ? もう聴き飽きたよ」

怪談・お題「ファミレス/まさぐる/残り香」

#kaidan_odai しきりに腹の辺りをまさぐっていた向かいの席の男が、ニタっと笑いながら何かを引き抜いた。「探してらしたんでしょう?」べったりと血のついた包丁がテーブルの上でゴトリと音を立てる。俺は恐怖のあまり店を飛び出した。生臭い残り香がどこまでも追って来る。


hiro_kinakoさんは「ファミレス」で 登場人物が「まさぐる」、「残り香」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai

走馬燈

#twnovel 走馬燈を買ってみた。人生で見た全ての風景を全自動で記録し、心拍数や血流量によってハイライトシーンを識別し編集したものを今際の際に見せてくれる。それから半世紀、死の床に就いた僕の傍らで走馬燈がゆっくり回り出した。街中で目移りした見知らぬ女性の姿ばかりを映して。

2011年4月21日木曜日

夫婦喧嘩の種

#twnovel 夫婦喧嘩の種を買ってみた。水をやると携帯電話の履歴が生え、口紅のついたワイシャツの葉が伸びた。ホテルの領収書の花が咲き、やがて私達夫婦の子供にそっくりの実がなった。私とは似ても似つかない一人息子。物音に振り向くと顔面蒼白の妻が包丁を握りしめていた。

暇つぶし

#twnovel 「人生は死ぬまでの暇つぶし」と捉えているせいか、鬱状態の絶望感は半端じゃない。私がどんなに絶望しても世界は平常運転で回る。休日ダイヤにもなりゃしない。夕方5時のチャイムに腰を上げると向かいの総菜屋が見えた。揚げたてのコロッケを頬張ろう。いいよね、暇つぶし中だし。

直ちに…

#twnovel 子供の頃いじめられっ子がいた。「2m圏内に入ると感染するぞ」と囃し立てられる彼が不憫で僕は叫んだ。「直ちに影響はない!」思えば当時テレビでよく聞いたフレーズなんだろうが、あながち外れてはいない。感染して20年経った今、あの頃口も利かなかった彼は無二の親友だ。

単身赴任

#twnovel お隣さんはご主人が単身赴任中。奥さんは毎日幼い子供の送り迎えや家事で忙しそうだ。ご主人が帰って来るのは月に1、2度。1度も帰ってこないこともあるらしい。大変ねぇと気遣うと、奥さんはあっけらかんと笑った。「経済的なのよ。1度も帰らない月は基本料金だけで済むから」

NG登録

#twnovel 手の甲にNG登録ボタンがついた。嫌な奴に向けてボタンを押すと、お互いに相手の存在が認識できなくなる。元来いじめられっ子気質の僕は次々に周囲の人間をNG登録した。晴れやかな気持ちになったが、やがて寂しくなって登録を全て解除した。でも、いくら待っても誰一人現れない。

2011年4月20日水曜日

世界の半分が…

#twnovel 世界の半分が滅びました、とテレビが告げた。そんなことよりさ、と彼女が笑う。ホットケーキ焼けたよ。食べない? その言葉に弾かれるように時計を見た僕は、ネクタイを結び、鏡に映る寝癖を気にかける。甘い匂いに包まれながら、僕らは残された世界で今日も過ごしている。

夢の中で

#twnovel 友人が夢の中で俺と大冒険をしたそうだ。朝から妙にだるいのはそのせいかと思い出演料を要求すると、奴はきょとんとした表情で言った。「そのあとお礼に夢の中で焼き肉おごったじゃん。お前、20人前くらい食ったよな。人の金だと思って」朝から胃もたれしてる原因はそれか。

目覚めると月面

#twnovel 目覚めると月面にいた。職場に連絡を入れようにも携帯が圏外だ。僕は覚悟を決め、人類が二度目の月面着陸を果たすまでじっと待つことにした。「で、向こうで30年過ごして帰ったら、こちらではまだ3時間しか経っていなかったというのが事の顛末でして」「それが遅刻の言い訳か?」

居場所

#twnovel 身を粉にして働いて帰宅する愛しの我が家。しかし私に対する家族の態度は冷たい。追われるように家の中を彷徨い、私は階段下の掃除用具入れに自分の居場所を見つけた。掃除嫌いの妻がたまに気まぐれで扉を開けたりするが、特に不満はなさそうだ。気を遣ってすぐに閉めてくれる。

自律神経

#twnovel 体調が優れないので病院で診察を受けたら、自律神経出張中と診断された。出張なので、じきに戻って来るらしい。「それと…」医師は耳元でそっと囁いた。「当然出張手当も出ますよ。あなたの場合、長期出張でしたので、かなりの額がね」私は晴れやかな気持ちで病院をあとにした。

2011年4月18日月曜日

命の花

#twnovel 命の花が開花すると、そこには亡者が群がる。無数に咲き誇る花のうち、本物はたった一輪だけ、チャンスも一度きりだ。当たりを引いた者は再びこの世に生を受け、他の者は次の開花を待つ日々に戻る。当選者の発表は発送をもって代える仕組みなので、誰が当選したのかは分からない。

三途の川

#twnovel 社員旅行中の自動車事故で命を落とした僕達一行は、揃って三途の川のたもとに下ろされた。桟橋の傍らには「渡し賃:六文」と書かれた看板が出ている。幹事の僕が全員から六文ずつ集金していると、渡し守が出てきてこう言った。「25名様以上ですので団体割引が適用されます」

哲学の道

#twnovel 「人生をぼんやりと送っている奴は馬鹿だ」と思い、僕は哲学の道を歩き出した。途中で屋台の「人生哲学クジ」をひく。紐に縛られた様々な人生の陰に、転落や破滅の箱が隠れていた。慎重に紐を見極めていると親父が言った。「さっさと引いてくれ。当たりなんて入ってないんだから」

2011年4月15日金曜日

怪談・お題「ラブホテル/なき出す/お札」

#kaidan_odai 「なにこの部屋。お札ばっかりで気持ち悪い」「当然だろ。それが売りなんだから」心霊スポット風のラブホテルなんて、経営者は相当趣味が悪い。シャワーから上がった俺を見るなり、女が泣き出した。「じゃあ貴方の背中に乗ってる女は誰!?」…見えてるのか、こいつ?


hiro_kinakoさんは「ラブホテル」で 登場人物が「なき出す」、「お札」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai

狭間の店

#twnovel 「去年のお花見がしたいのですが、まだできますか?」やつれきった表情でそう尋ねた女を、私は店の奥に促す。振り返ると、満開の桜の下を夫や子供と一緒に弾むように歩く後ろ姿が見えた。時空の狭間で商売をしていると様々な客に出会う。彼らは木戸銭代わりに「未練」を置いて行く。

2011年4月14日木曜日

ついのべの日・お題「私の秘密」

#twnvday 「長い間黙ってて悪かった。実は俺、ずっとハゲズラを被っていたんだ。初対面のあの日、親しげにカミングアウトするお前に本当の事は言えなかった。でもそれも終わりだ。俺もすっかりこのザマさ。歳は取りたくねぇもんだな」カツラを外し友の墓に参る。長年の肩の荷がやっと下りた。

4月14日の「ついのべの日」のお題、「私の秘密」。
「秘密=カツラ」というのはあまりにも安易な発想。しかし、友のために長年ハゲヅラを被り続けた男の生き様となるとどうでしょう? いや、やっぱダメか。

彼女の秘密

#twnovel 付き合い始めたばかりの彼女は、秘密なんてないと笑った。でも僕は、コンビニでバイトしているはずの彼女が、その時間帯に大病院に出入りするのを何度も目撃していた。病気なのか?それとも家族が入院中とか?慎重に言葉を選び問いただす。「バイト先、病院内のコンビニなんだけど」

日程変更

#twnovel 「震災の影響で今年の学校行事は色々と日程変更らしいね」「まぁ、入学式もかなり遅れたしな」「創立記念日も動いたらしいよ」「そんなバカな」「いや、確かに動いてるよ。中庭にあったやつが20センチほど。古い学校だし仕方ないね」「それは創立記念碑だろうが。100周年の」

父の仕事

#twnovel リストラされた父は最近、新しい仕事を見つけたと言って夜な夜な家を出る。どうも怪しい。部屋を漁ると女物の服が出てきた。女を作ってる場合かよ!俺は覚悟を決め、父の跡をつけることにした。繁華街の裏路地に入り鮮やかなネオンの扉を開ける。…女装して出迎えた父と目が合った。

2011年4月13日水曜日

覚えのない名刺

#twnovel 財布の中身を整理した。レシートや割引券、会員証…これだけでも結構な量になる。その中に、覚えのない女性名の名刺を見つけた。以前同僚に連れられて行った飲み屋のもののようだが、酔っていて記憶がない。気になって電話してみると、台所で料理をしている母の携帯が鳴った。

2011年4月11日月曜日

怪談・お題「オフィス/捨てる/火事」

#kaidan_odai 倉庫には、些細な彩色ミスのために全品回収された人形が山積みされていた。彼女達は流出を防ぐため、焼却処分される運命だ。「俺らを恨んでここで燃えて火事になる、とか」茶化す部下を俺は怒鳴りつけた。「馬鹿言うな。帰るぞ」無数の視線を振り切って、逃げるように。


hiro_kinakoさんは「オフィス」で 登場人物が「捨てる」、「火事」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai

記憶

#twnovel 記憶を消し去りたい、美化したい、様々なお客さまが訪れますが、当店はどちらもお勧めしません。むしろ良い思い出も忘れたい嫌な過去も混ぜ合わせるべきなのです。程良くブレンドされた記憶は霞がかったように曖昧で儚く、精神安定に大変効果があります。真実は一つとは限りません。

古い玩具2

#twnovel ネットオークションに古い玩具を出品したら、落札したのは幼馴染みだった。偶然の再会を喜んだが、彼は俺を泥棒呼ばわりする始末。誤解だ。これは間違いなく俺が持っていた玩具なのだから。段ボールで自作したロボットを抱え、たった一人で佇んでいたあいつの顔が脳裏に浮かんだ。

古い玩具1

#twnovel ネットオークションで古い玩具を落札した。幼い頃の宝物、超合金のロボット。これを持っているだけで友達の間でヒーローになれた。なくした時は大泣きしたものだ。はやる気持ちを抑えて手続きを進めると、ふと出品者の名前に既視感を覚えた。住所は実家の近く。お前が盗んだのか!

催眠術

#twnovel アルコール依存症の父のために催眠術師を呼んだ。徳利に注いだ水道水を、これはお酒ですと暗示を掛ける。作戦は成功、父は毎晩水を飲んで上機嫌だ。問題は、暗示が徳利ではなく水に対してだったこと。今日も父は職場近くの定食屋でお冷やを口にしては、亭主相手にくだを巻いている。

仕事をなくした

#twnovel 仕事をなくした。勤め先を探してもハローワークに行っても見つからない。困って交番へ行ってみると、幸いにも僕の仕事は拾得物として届けられていた。しかし中身が少し減っている。お巡りさんが言った。「一割は拾った人に分けてあげてください」これがワークシェアリングか。

2011年4月7日木曜日

恋愛・お題「朝の車内/告白する/コーヒー」

#rendai 家が近いので、出勤時は先輩の車に乗せてもらっている。「缶コーヒー買いに停めるよ」彼を異性として意識し出してからはこの時間がとても苦しい。いっそ吐き出してしまおう。「…好きです」「コーヒーが?」「いえ、先輩が」掴み損ねた硬貨が宙を舞う。動揺しすぎでしょ、ちょっと。


hiro_kinakoさんは、「朝の車内」で登場人物が「告白する」、「コーヒー」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai

将来を売る店

#twnovel その店では将来を扱っている。些細な将来は安価で、大きく幸せな将来になるほど高価だ。そこの看板娘に恋した僕は、意を決して店を訪れた。「この、とびきりの将来が欲しいんです。でもお金が足りない」すると彼女は頬を赤らめた。「私もです。…二人で半分ずつ出しませんか?」

怪しげな店

#twnovel 散歩で通る道すがら、怪しげな店を経営している老夫婦がいた。彼らは僕の祖母が嫁入りした頃からすでに老人だったそうだ。一体何者だろう。店の前に張り込んだ僕は、数日後店の主人に見つかってしまった。「お前、どこの犬だい? 腹減ってるのか?」しまった、超能力者か!

2011年4月5日火曜日

K錠剤

#twnovel 料理の苦手な主婦に朗報!「K錠剤」発売。一日一錠飲ませるだけで、貴女のご主人は三度の飯よりカップラーメンが大好物になります。賢い主婦の味方、ラーメン大好きK錠剤! ※副作用として毛髪が縮れる場合がございますが、健康への影響はありませんのでご安心ください。

幸せの種

#twnovel 友人に幸せの種をお裾分けした。「1人を幸せにすると芽が出る。2人を幸せにすると花が咲く。3人を幸せにすると実がなるんだ。収穫したら他の人に配るといい」そう説明すると友人は顔をしかめた。「難しいな。3人にプロポーズして、バレずに3重生活を続けるのは」

怪談・お題「坂道/漏れ出す/携帯電話」

#kaidan_odai 「お荷物お持ちしましょうか?」坂道を登る後ろ姿に声を掛けると、白目を剥いた老婆が振り返った。「息子に繋がらなくてねぇ」位牌だ。老婆は携帯電話のように位牌を指で押していた。「息子に息子に息子に」虚ろに漏れ出す言葉が俺に向く。「息子に…」違う、俺じゃない。

hiro_kinakoさんは「坂道」で 登場人物が「漏れ出す」、「携帯電話」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai 昨日の。

幸せになれますように

#twnovel 彼は片言の日本語で、願いを一つ叶えてやると言った。幸せになれますように…漠然としてるな。日本が…いや、世界が幸せになりますように。彼は首を振った。「『背』か『胃』、どちらか決めてクダサイ。日本人は優柔不断ネ」呆気にとられ「は?」と答えると、歯の痛みが消えた。

2011年4月2日土曜日

恋愛・お題「深夜の車内/見つめ合う/靴」

#rendai 深夜の電話に叩き起こされ、彼女が車で待つ駐車場へ走った。「逢いたくなっちゃった。ごめんね、強引で」見つめ合うと怒る気にもなれない。「ドライブに行かない?」「このまま?」「このまま」。僕は足元を見た。「靴替えてきていいかな?」何でビーチサンダル履いてるんだろ?

hiro_kinakoさんは、「深夜の車内」で登場人物が「見つめ合う」、「靴」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai

怪談・お題「プラットホーム/吐き出す/文字」

#kaidan_odai プラットホームの白線上に立つ男と目が合った。私はとっさに看板の文字を追う。5秒…10秒…。好奇心に負けて視線を戻すと、ゴボっ、と音がして男が血反吐を吐き出した。思わず目を背けた途端、男の姿は消えた。遠くから警笛が聞こえ出す。終電は去ったはずなのに。

hiro_kinakoさんは「プラットホーム」で 登場人物が「吐き出す」、「文字」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai

余震

#twnovel 「ここ数日余震が少なくなったね。治まってきたのかな、地震」「震災で工場が被害を受けて、生産量が落ちてるみたいよ」「何の?」「だから地震の」「冗談はやめれ」「冗談じゃないよ。点検整備が終わって今日から増産体制に入ったってさ」「言ってるそばから来た−」

2011年4月1日金曜日

エイプリル・フール2

#twnovel 嘘をつくと鼻が伸び、正直になると元に戻る。外から丸わかりなので注意が必要だ。「あなた、浮気してるんじゃないでしょうね?」「そんなわけあるもんか」しまった、鼻が伸びた。「不安にさせてごめんな」よし、戻った。仕上げに彼女の瞳を見つめて一言。「愛してる」また伸びた。

エイプリル・フール1

#twnovel 嘘発見器の挙動がおかしくなった。製造元に問い合わせると担当者はこう言った。「カレンダー機能が内蔵されていましてね。エイプリル・フールの日は嘘に反応しなくなるんですよ」なるほど。数日後、リコールのお知らせが届いた。え、あれ嘘だったの!?

2011年3月31日木曜日

氷風呂

#twnovel 銭湯の片隅に氷が張られた浴槽があった。番台に聞くと氷の下に客がいるらしい。息継ぎ用の筒が何本も突き出ていた。「中のお客さんが心配なときはこうするんです」彼が筒を手で塞ぐと、勢いよく氷が割れて一人の親父が飛び出してきた。「ほらね」隣の筒を塞ぐ。何も起こらなかった。

恋愛・お題「深夜の廊下/選ぶ/チョコレート」

#rendai これで何着目だろう。着替えた彼女はモデルふうに廊下を歩き出した。「もういいよ、それにしよう」一体何時だと思ってるんだ。明日の旅行、出発早いんだぞ。「女心が分かってない」彼女は脱ぎ捨てたチョコレート色のシャツを僕に投げつけた。僕は君と一緒に行けるだけで充分なのに。

hiro_kinakoさんは、「深夜の廊下」で登場人物が「選ぶ」、「チョコレート」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai

怪談・お題「バス停/無視する/小包」

#kaidan_odai 「よろしかったらこれ受け取って貰えませんか」老婆が差し出した小包は、どう見ても骨壺だった。ヤバイ…俺は無視を決め込むと、やって来たバスに乗り込もうとして息を呑んだ。運転手が乗っていない。俺達を横目にバスは走り去る。耳元で老婆が囁いた。「彼ならこの中よ」

hiro_kinakoさんは「バス停」で 登場人物が「無視する」、「小包」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai

テレビに

#twnovel 親父はテレビに話しかける癖がある。野球中継に野次を飛ばし、クイズ番組では大声で答えを叫んでいる。ある晩、親父の部屋から怒鳴り声が聞こえた。「よし、電話するから待ってろ」おいおい、酔っぱらってテレビ局にクレームとかやめてくれよ。慌てて部屋に入ると通販番組だった。

2011年3月30日水曜日

バナナ星人狩り

#twinovel バナナ星人の皮が体によいという噂が広まると、一気にバナナ星人狩りが始まった。容赦ない大量虐殺、剥かれた本体が辺り一面に散乱する凄惨な光景。これを見た一人の男が立ち上がった。残された死体を集め、牛乳、砂糖と混ぜてミキサーにかける。バナナオレ誕生の瞬間である。

念写機

#twinovel 念写機に念を送り込むと、念じた通りの写真が撮れる。楽しくなって憧れの彼女とのラブラブ旅行を妄想してシャッターを切りまくり、自慢したくて友人に見せた。「つーかこれ、お前じゃないじゃん」念じた妄想の中では、自分の姿はいささか美化されているらしい。

振り返らない

#twinovel もう後ろは振り返らない。過ぎた悲しみを悔やんでも始まらない。前を向いて生きようと決意した。気づくと隣に大好きな彼女がいる。しかし僕は前しか見ないと決めたのだ。「それなら、一緒に前を見るのはどうかしら?」いい提案だね。僕らは微笑み合った。未来に目を向けながら。

怪談・お題「駐車場/無視する/掛け軸」

#kaidan_odai 「お願いです。人助けだと思って」駐車場まで追いかけてきた男は、回り込んで掛け軸を突きだした。全く困った客だ。「うちも商売ですから。霊障のある品は買い取れませんよ」男は虚を突かれた表情をしたかと思うと、掛け軸と共に消えた。やれやれ、骨董商も楽じゃない。


 hiro_kinakoさんは「駐車場」で 登場人物が「無視する」、「掛け軸」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai タイトルは「持ち込んだ男」かなぁ。ベタだけど。

昔々…

#twnovel 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。勿論、彼等にも若い頃があったわけですが、今まで脚光を浴びる機会に恵まれませんでした。やっと巡ってきたチャンス!しかし一向に川から桃が流れてきません。やがて二人の契約は切れ、元の生活に戻りました。おしまい。

正しい夢2

#twnovel 夫が「正しい夢」を見たという。私と温泉旅行をする内容だったらしい。「実家まで私を連れ戻しに来たんじゃないの?」夫の表情が凍りついた。温泉旅館から嫁いだ私は、この結婚を後悔し続けていた。「合意ってことでいいかしら?正しい夢なのよね?」私は離婚届を差し出した。

正しい夢1

#twnovel 私は夢を見た事がない。物は試しにネットオークションで「正しい夢」を落札してみた。期待に胸を膨らませて床に就き翌朝…妻との温泉旅行の夢だった。仕事で毎日忙しく、妻を温泉に連れて行くことすら出来ない私に対する「正しい夢」なのか。しかし腑に落ちない。

理想の夢

#twnovel 私は夢を見た事がない。物は試しにネットオークションで「理想の夢」を落札してみた。期待に胸を膨らませて翌朝…確かに理想の夢ではあった。友に恵まれ幸せな家庭を築き富と名声を手に入れ…。但し、現実では何一つ手にしていないだけに、目覚めたときの敗北感が半端ではない。

2011年3月28日月曜日

恋愛・お題「夜の屋上/見つめる/プレゼント」

#rendai 「夜の屋上ってロマンチックだね」「全然!何でここでカレーなの?」彼女はご機嫌斜めだ。「俺のカレーは絶品だよ。結婚したらいつでも作ってあげる」彼女の瞳が僕を見つめる。「…今なんて?」口が滑った。順番が逆だ。頭を掻き掌の小箱を差し出す。「はい、プレゼント。結婚しよう」

hiro_kinakoさんは、「夜の屋上」で登場人物が「見つめる」、「プレゼント」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai ベタすぎてどう料理しようか悩んだ。

怪談・お題「桜並木/砕け散る/指輪」

#kaidan_odai 結局、夜桜が好きなのだ。ここで命を絶って正解だった。花見客に紛れて近づいてきた彼女が足元に花束を置く。桜の下に花なんて止めてくれよ。恨めしそうに見上げた彼女は、外した指輪を幹に投げつけた。俺は吊られた身体が砕け散る様を見た。ありがとう、これで浮かばれる。

hiro_kinakoさんは「桜並木」で 登場人物が「砕け散る」、「指輪」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai 登場人物が砕け散るってどんな話よw。

安全基準

#twnovel 食品の安全基準が詳細に定義された。基準を超えるものは国民一人ごとにタグが警報を鳴らす。しかし売り場で誰かのタグが鳴りだすと、鳴らない周囲の人も不安がって手を出さなくなった。空前の食糧危機。隣家の犬が足元に寄ってきた。タグは鳴らない。こいつは食っても大丈夫か?

2011年3月26日土曜日

死んだ祖父から

#twnovel 死んだ祖父からメールが届いた。「元気か?こちらは楽しくやっとる」悪戯だと分かっていたが、面白そうなので返信した。「みんな元気だよ。でも遺産の分配で揉めてる。なんで遺言書残さなかったの?」「すまんな。全部お前の父さんにやると伝えてくれ」なりすましの犯人は親父か。

人生やり直させ機

#twnovel 「人生やり直させ機」。この機械を使って、私は親不孝な息子の人生をやり直させる事にした。小さい頃から乱暴者で不良になり学校も中退。黙って家を飛び出したかと思えばひょっこり帰ってきて「子供が出来た」。そんな息子の人生をやり直させるのだ。津波にのまれるその前から。

恋愛・お題「深夜の動物園/幸福になる/制服」

#rendai ナイトサファリに付き合わされた僕は、制服姿で柵にもたれていた。「キリンの寝顔を見ると幸福になれるんだって!」彼女がはしゃいでいる。「幸福になった?」あくびを噛みしめつつ聞いてみた。「分からないけど…」首を傾げると、彼女は僕の頬に唇を寄せた。うん、幸福だよ。僕はね。

hiro_kinakoさんは、「深夜の動物園」で登場人物が「幸福になる」、「制服」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai 時々見かけるけど、深夜の動物園って恋愛話によくあるシチュエーションなの?

怪談・お題「自室/しがみつく/足音」

#kaidan_odai 足音は部屋の前で止んだ。「怖い…」とうとう見つかってしまった。私は彼の手を握る。どうしてあの人達は私と彼との間を引き裂こうとするのだろう。「警察だ。開けなさい!」乱暴にドアが叩かれた。私達が一体何をしたと言うの?私は横たわる彼の冷たい骸にしがみついた。

hiro_kinakoさんは「自室」で 登場人物が「しがみつく」、「足音」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai タイトルは「どうして?」

母校に

#twnovel 私は教師をしている。忘れ物を取りに高校へ戻ったつもりが、うっかり高校時代に戻ってしまった。思い出の教室、机の傷、好きだったあの子の鞄…。「だから刑事さん、不法侵入ではなく母校に立ち寄っただけです」「男が女子校を卒業できるとは初耳だな。署まで来てもらおうか」

2011年3月25日金曜日

思い出箪笥

#twnovel 遠い昔に無くしたものが見つかる思い出箪笥。幼い頃の家族写真や懐かしい品の数々が、引き出しを開けると出現するのだ。何が出てくるのかは誰にも分からない。別れた彼女との思い出の品は何一つ出てこなかった。その代わり、埋めたはずの骨片や鈍器などがやたらと出てくる。

ハンバーグ星人襲来

#twnovel ハンバーグ星人襲来。地球上の食べ物を全てハンバーグに置き換えてしまおうと侵略を図った。人類は必死に応戦。結果、全ての食べ物に対してハンバーグと名付けることで双方の折り合いがつき、戦いは終結した。「だからこの消し炭みたいな肉片もハンバーグだと?」「ごめん」

兄弟船

#twnovel 「兄弟船」に乗り込むには兄弟と一緒じゃなきゃ駄目だ。なぁに、心配には及ばない。波止場でウロウロしている彼に「ヘイ、ブラザー!」と声を掛けて一緒に乗り込めばいい。そうして船は出港したのさ。おっと、まだ目的の地には着いてないぜ。皆仲良くやれよ。何せ兄弟なんだからな。

恋愛・お題「夜の映画館/つよがる/人形」

#rendai スクリーンでは激しい痴話喧嘩、そして隣の席からは嗚咽。閑散とした夜の映画館を別れ話の舞台に選んだことを、僕は後悔していた。やがてエンドロールが流れ、気がつくと嗚咽は止んでいた。館内に照明が点る。人形のような端正な顔を歪ませて、必死に涙を堪えた彼女が僕を見ていた。

hiro_kinakoさんは、「夜の映画館」で登場人物が「つよがる」、「人形」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai

怪談・お題「商店街/晴れ上がる/足音」

#kaidan_odai 福引きのガラガラを回すと金色の玉が出た。「ヨーロッパ旅行大当たり~」鐘の音が商店街に響く。死んだ彼女が行きたがっていたなと思い出した途端、背中が痛みだした。事件以来、腫れは酷くなる一方だ。雑踏の中ひたひたと迫ってきた足音が、俺の背後でぴたりと止んだ。

hiro_kinakoさんは「商店街」で 登場人物が「腫れ上がる」、「足音」という単語を使った怪談を考えてください。 http://shindanmaker.com/94450 #kaidan_odai タイトルは「一緒に…」かな。

2011年3月24日木曜日

悲しみで

#twnovel 悲しみで胸が張り裂けてしまった。取り替えようにも、どの店も品切れ状態だ。仕方なく、張り裂けた箇所を繕って急場を凌ぐことにした。こうして改めて見ると、なんと美しく愛おしいものなのだろう。今まで気がつかなかった自分を責めると、せっかく繕った箇所がまた裂けてきた。

2011年3月23日水曜日

怪談・お題「ファミレス/うごめく/喪服」

#kaidan_odai 「実感湧かねぇよ。昨日まで元気だったあいつがさ」通夜の帰りに喪服姿でファミレスに寄るのも、俺達なりの弔いのつもりだった。「まぁな」でも焼死した奴の弔いに焼き肉ってどうなのよ、と内心ツッコミながら俺は定食の安い肉を頬張った。「もそっ」口の中で何かが蠢いた。

@hiro_kinakoさんは「ファミレス」で 登場人物が「うごめく」、「喪服」という単語を使った怪談を考えてください。 http://bit.ly/eAFkXW #kaidan_odai 今日の分。タイトルは「よく焼けた」

怪談・お題「トイレ/キスする/首筋」

#kaidan_odai 逢瀬の場所は廃校裏のトイレと決めている。今夜も彼は私を待っていてくれた。「寒くなかった?ごめんね」暗闇の中、彼の輪郭がゆらゆらと私を迎える。私は手探りでそれを抱き寄せ、口づけを交わす。冷たく冷えた彼の身体、首筋を這いまわる何かの感触を味わいながら。

@hiro_kinakoさんは「トイレ」で 登場人物が「キスする」、「首筋」という単語を使った怪談を考えてください。 http://bit.ly/eAFkXW #kaidan_odai 昨日のお題。タイトルは「這いまわる」…ベタだなぁ。

幸せのツボ

#twnovel 自分では手が届かない幸せのツボ。多くの人達がお互いに押し合うなか、意固地に自らのツボに手を伸ばす者がいた。彼は他人の幸せを望まなかった。街が幸せな人々で賑わい出した頃、薄暗いアパートの一室で自らのツボを押すことに成功した彼は、満足感に浸りながらその生涯を閉じた。

魔法の言葉で…

#twnovel その魔法の言葉を唱えると、楽しい仲間がどうにかなってしまうらしい。皆、口に出して言ってみたくてたまらないのだが、相手にどのような影響を及ぼすのか分からないために躊躇している。その言葉が電波を通じて公開されてから既に10日が経つ。人々の我慢も限界にきている。

2011年3月18日金曜日

時が巻き戻せる機械

#twnovel 時が巻き戻せる機械が発売されると、人々はこぞって買い求めた。在りし日に戻っては郷愁に浸る日々。だがある日を境に機械は作動しなくなった。殺到するクレームに開発者はこう答えた。「時間は今を生きる者が作り上げるものです。新しい時を刻まなければ、過去は消え去るのみです」

スタンドの行列

#twnovel スタンドの前はもの凄い行列だ。流通が滞っているせいで在庫は枯渇気味、人々は苛立っている。そして僅かに入荷した分も、被災地へ向かう緊急用途が優先だ。人々に幸せを供給する幸福スタンド。なぁに、焦ることはない。近いうちに並ばなくても手に入るようになるさ。

神様会議

#twnovel 八百万の神様会議。「我々とて万能ではない。ひとつの事象に注力すれば、一方で割を食う事象もあり得る。今は震災復興が最優先。その他については下界に我慢を強いることもやむを得まい」「桜の開花も後回しか?」「いや、開花時期を早めよう。満開の花の割り増しは?」「異議なし」

入浴したような気持ち

#twnovel 被災地への救援物資に、切望されていた画期的な薬品が加わった。「これを飲むと、まるで入浴したような気持ちになれる。心も体もスッキリじゃ」「博士、そんな素晴らしいものがなぜ今まで世に出なかったのでしょう?」「うむ。他人の臭いに過敏になるという副作用があってだな」

2011年3月16日水曜日

灯り

#twnovel 「みんなの心に灯りをともすのが私の役目」道化師は一輪の花を彼女に差し出した。小さな手が触れた途端、花びらの一つ一つが温かな光となって散り、辺りを包む。人々の顔が微笑みに変わるなか、女の子の表情は曇ったまま。「せつでんしなくていいの?」道化師は彼女を抱きしめた。

震災から5日が経ちました

このblogは自らの創作に関する話題のみを扱っていくつもりで立ち上げましたが、今回だけは日常の話題を綴ります。
というか、全然日常じゃありませんけど…。

3月11日に発生した大震災から5日が経ちました。当初全く繋がらなかった携帯電話も通じるようになり、友人・知人の安否も確認できてほっとしているところです。
自宅のある仙台市宮城野区では、液状化による道路の隆起・陥没・断絶や、一部の古い家屋の倒壊等がありましたが、どうにか自宅・家族共に無事に済みました。家の中は滅茶苦茶でしたが…。

仙台市の中心部は徐々に落ち着きを取り戻しはじめ、一部の飲食店では通常通り定食などを提供してる店舗もあるそうです。
ですが一方で、同じ仙台市でも海沿いの方は状況が一変。地震後の初期段階の報道で多数の犠牲が伝えられた荒浜地区をはじめとして、各県の海沿いの町が壊滅的な状況に陥っていることはご承知の通り。
コンビナートが何日も燃え続けた仙台港付近などは、火災以外ほとんど報道されていませんが、現場近くに勤務している親戚の話では多数の遺体が津波の引いた道路に横たわっていたそうです。

個人的にも仙台港は毎週のように買い物に出掛ける近場であり、また町ごと壊滅した亘理町へは地震の翌日にいちご狩りと日帰り温泉のドライブに出掛ける予定でいました。同じく壊滅した新地町は過去に友人達と何度か旅行をした思い出の町です。つい先月もそこを通る国道6号線を通っていわき市まで出掛けたばかりでした。いくら中心部が復旧していると言われても、自分にとって身近な地域の惨状を脳裏から押しやることはできません。ライフラインや交通機関の不通、食料や日用品、ガソリンが入手できない非常事態に身を置いていることも関係しているのかも知れませんが、今はまだ、当たり前の日常を当たり前のように受け入れるなんて無理です。

ですが、できることから戻していかなければならないのも確かです。丸ごと津波に飲まれた町を復興するには、とてつもない時間がかかります。でも、被害の少なかった地域、サービスならばそれだけ早く元の状態に戻せます。少しずつでも町が平常に戻れば、人の心も平常に戻る。であれば、この状況下で定食を提供している中心部の飲食店の存在はその一歩であり、利用客の精神安定に与える効果はただ一度の食事という以上に大きいと思います。

震災以降休んでいたtwitter上での創作活動ですが、ネット環境が復旧してきたこともあり、自分を奮い立たせる意味でもそろそろ再開したいと思います。

被災地の一日も早い復興を願いつつ。

怪談・お題「テーマパーク/狂う/喪服」

#kaidan_odai 入園した俺は異様な光景を目の当たりにした。園内全ての人間が死装束なのだ。来園者の命日を刻む看板をねっとりとした風が包む。喪服姿の着ぐるみが背後から俺の肩を叩いて笑い出した。笑いはたちまち周囲に伝染し、いつしか俺も涎を垂らしながら止めどなく笑い続けていた。

hiro_kinakoさんは「テーマパーク」で 登場人物が「狂う」、「喪服」という単語を使った怪談を考えてください。
http://shindanmaker.com/94450
タイトルは「命日」

二枚舌

#twnovel 前世で俺、二枚舌だったんだ。二枚あると世渡りが何かと楽だぜ。嘘がばれても「あいつは二枚舌だから」で済まされるからな。そうは言っても嘘つきは死んだら閻魔様に舌を抜かれちまう。俺も抜かれて一枚になっちまった。ほらこの通り。だから現世じゃ正直者で通ってんのよ、俺。

2011年3月10日木曜日

第2回「Twitter小説大賞」に応募しました。

いわゆるついのべ、Twitter小説を綴りはじめて1ヶ月が経ちました。
これがなかなか面白い。
Twitter上でハッシュタグ#twnovelで検索をかけると、 投稿された様々な作品群を見ることが出来ます。
140字というかなり厳しい字数制限のなかでも、 表現は無限大。
短歌や俳句のような「型」もないため、140字以内に収める完結作はもちろん、140字ごとに区切った大作や同一設定による連作、ポエムのようなものもありの群雄割拠状態。さらにそれぞれ物語のジャンルも様々です。
用意された「場所/行動/単語」のお題を出すサイトもあって、奥が深いです。

恋愛お題ったー
http://shindanmaker.com/28927

怪談お題ったー
http://shindanmaker.com/94450

で、そんな感じで盛り上がっているTwitter小説ですが、恥ずかしながらつい先日まで「Twitter小説大賞」の存在を知りませんでした。
http://www.d21.co.jp/contents/campaign/twnovel/

タイミングよく締め切り前ということもあり、10作を選んで投稿しました。
ショートショートとはまた違ったジャンルではありますが、小説のひとつの形式として確立してほしいものです。

恋愛・お題「夜の木の下/共有する/靴」

#rendai 待ち合わせ場所は、お互いのアパートのちょうど中間にある大きな木の下。「ごめん、待った?」靴音を立てながら駆け寄って来る彼。今来たところ、と私は寒さで強張った顔に無理矢理笑みをつくる。泣いちゃいけない。手を繋ぎ、深夜の並木道を歩く。二人が共有する最後の思い出として。

hiro_kinakoさんは、「夜の木の下」で登場人物が「共有する」、「靴」という単語を使ったお話を考えて下さい。
http://shindanmaker.com/28927

うなぎ年

#twnovel 国会が紛糾中。原因は与党が提出した「卯年を鰻年に変更する法案」だ。鰻業界を支持母体に持つ野党の賛成により可決される見通し。十二支の読み方も変わることになるが、「ね」「うし」「とら」「うな」「たつ」「み」となるため、国民生活に大きな混乱は見られないとされている。

見慣れない

#twnovel 退屈な日常から脱却すべく、通勤ルートを変えた。見慣れないバスに飛び乗り、見慣れない港町で降りる。ふらりと入った見慣れない食堂に住み込み、店主に認められて見慣れない娘と結婚した。ふと見慣れないテレビを付ける。見慣れない姿の年老いた両親が僕の名を叫んでいた。

実力主義

#twnovel この会社は完全な実力主義。無能な奴はどんどんクビだ。社長だって例外ではない。僕より出来の悪い社員は次々と社を去った。入社を志願する有能な人材は大勢いるから困ることはない。業績は上がり続け、社内はどこを見渡しても優秀な人間が揃った。そして僕はクビになった。

2011年3月9日水曜日

怪談・お題「踏切/徘徊する/アルバム」

#kaidan_odai 祖母が亡くなってから、祖父の徘徊が始まった。最後は決まって踏切の前で、「婆さんが呼んでいる」と叫んでいる。お婆ちゃんは幸せだったよと、家でアルバムを見せて落ち着かせた。これでいいよね、お婆ちゃん。心の中で呟くと、背後の仏壇で位牌が音を立てて倒れた。


hiro_kinakoさんは「踏切」で 登場人物が「徘徊する」、「アルバム」という単語を使った怪談を考えてください。
http://shindanmaker.com/94450

恋愛・お題「朝のグラウンド/貪る/星座」

#rendai 天文部の合宿は退屈しがちで、星そっちのけで一晩中ゲームに興じる部員も多い。そんな状況にうんざりして迎えた朝のグラウンドの隅で、私は彼と簡易コンロを囲んでいた。「二人で星座を眺めてるほうがいいなぁ」彼は熱いラーメンを貪るように啜った。「そうだね」私も負けじと啜った。


hiro_kinakoさんは、「朝のグラウンド」で登場人物が「貪る」、「星座」という単語を使ったお話を考えて下さい。
http://shindanmaker.com/28927

本音

#twnovel 副音声で登場人物の本音が語られるドラマに夢中だ。愛を囁きながら舌打ちをする恋人達、悪態をつきながら笑顔で盛り立てる周囲の人々。観ていてゾクゾクする。「ねぇいつまで観てるの?」彼女が僕を覗き込む。僕は無意識にリモコンを彼女に向けていた。

2011年3月8日火曜日

恋愛・お題「夕方の階段/告白する/制服」

#rendai 「何の用?」人気のない夕方の階段に呼び出す理由なんて知れてるのに、私って意地悪。「卒業前だけど付き合ってくれ」ドラマチックな告白。「お試し期間からでいい?」彼の顔が歪む。あのね、あと1年この制服着るんだよ私達。4月から3年生、そりゃ今も卒業前には違いないけどさ。


hiro_kinakoさんは、「夕方の階段」で登場人物が「告白する」、「制服」という単語を使ったお話を考えて下さい。
http://shindanmaker.com/28927 #rendai

人生代行

#twnovel 何もかも面倒になったので人生代行サービスを頼んだ。仕事や家庭から開放されたが、同時に僕は生きる意味をも失った。死にたい。命買い取りサービスに頼もう。「どんな命でも喜んで買い取らせて頂きます」僕は死に、別れた妻の口座に3万円が振り込まれた。僕の価値はその程度か。

運転代行

#twnovel 「運転代行を使うなど前代未聞だ。何をふざけているんだお前は!」「何を仰っているんですか課長。飲酒運転は重大な犯罪行為です。飲んだら乗るなは社会の常識ですよ」「朝っぱらから酒を飲んだ上に、運転代行を使って出社するのは非常識とは言わんのかね?」

2011年3月7日月曜日

僕は神様

#twnovel そろそろ雨止まないかな、と言うと雨が止んだ。逆転しないかな、と言うと贔屓のチームが逆転勝ちした。なんてことだ。僕は神様になったのだ。さあ、今こそあの子に告白するぞ!「つ、付き合ってくれないかな?」僕と彼女は共にフェンシング部に入部した。何を間違えたのだろう。

初七日を過ぎて

#twnovel 初七日を済ませ出社すると、僕の席がなくなっていた。机は撤去され花が飾られている。上司に尋ねると僕の席は倉庫にあると言う。あったあった。ガラクタを押しのけ席に着く。一周忌も過ぎると新しい環境にも慣れてきた。僕は毎日薄暗い倉庫の中で鳴らない電話を取り続けている。

恋愛・お題「深夜の病院/見つめ合う/雷」

#rendai 寝付けないのは雷のせいだけじゃなかった。足音が気になって廊下に出ると、鉢合わせしたナースと見つめ合う形になった。「心配いりませんよ。ただの点検ですから」それから彼女は笑顔で付け加えた。「明日退院ですね。おめでとうございます」それが寝付けない本当の理由なんだけどな。

hiro_kinakoさんは、「深夜の病院」で登場人物が「見つめ合う」、「雷」という単語を使ったお話を考えて下さい。
http://shindanmaker.com/28927 #rendai

笑店

#twnovel 人々に笑いを売る店「笑店」。客はみな笑顔で店を後にする。当の店主の表情がいつも冴えないのが不思議で、思い切って本人に尋ねてみた。「自分の幸せを切り売りしてるわけだからね。勿体なくて自分には使えないよ」店は大繁盛したが、店主は自らの不幸を嘆きながら命を絶った。

2011年3月6日日曜日

恋愛・お題「昼の教室/始める/眼鏡」

#rendai 引っ越しの準備で忙しい彼女に頼まれ、忘れ物を取りに学校に来た。昼間とはいえ、卒業式を過ぎた三年生の教室に人の姿はない。目当ての眼鏡は机の中にあった。彼女は最近コンタクトに替えていた。新生活、新しい自分…。二人がこの先一緒に行けるか分からない。けれど俺も歩き始める。

@hiro_kinakoさんは、「昼の教室」で登場人物が「始める」、「眼鏡」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai

朝の神様

#twnovel 一人わびしく朝食を摂っていた僕の前に、朝の神様が現れた。朝に関する望みを一つ叶えてくれるという。なんたる幸運!僕は想いを寄せる彼女と共に目覚め、彼女の手料理で迎える理想の朝を望んだ。すると神様は残念そうに首を振った。「それは夜の神様の管轄じゃ」

2011年3月5日土曜日

世界の終わりまでに

#twnovel 「もし世界があと3分で終わるとしたら、どうする?」ポットのお湯を注ぎながら彼が言う。「目の前のカップラーメンを食うことが叶わない我が身を呪う、とでも言うつもりか?」俺はそう切り返してやった。「いや、君の分のお湯が足りないから、それまでに謝っておこうと思って」

恋愛・お題「深夜の海辺/さよならを言う/本」

#rendai 「そうね、いつまでもここにいるわけにはいかないものね」静かに寄せる波が二人の素足を濡らす。「本が出来たら送るよ」彼は執筆の取材で訪れただけの、ひと夏の旅人。「いい。自分で買うから」朝が来たら彼はこの町を去ってしまうけど、私の中の強がりが彼を拒んだ。「さよなら」

http://shindanmaker.com/28927
hiro_kinakoさんは、「深夜の海辺」で登場人物が「さよならを言う」、「本」という単語を使ったお話を考えて下さい。

2011年3月4日金曜日

恋愛・お題「朝の並木道/約束する/プレゼント」

#twnovel 「それじゃ、頑張ってね」朝の並木道の終点で彼女が言った。「大丈夫、自信を持って」この大学に通う2歳上の彼女は僕の家庭教師。「あの、覚えてる?もし合格したら…」立ち止まる背中を彼女が前へ押し出した。「約束する。プレゼントはほっぺでいいのかな?」照れくさそうに笑う。


恋愛系よりのお題を「場所/行動/単語」の形式で出してくれる「恋愛お題ったー」に沿って創ったお話です。時節柄受験ネタでまとめてみました。診断結果は以下の通り。

http://shindanmaker.com/28927
hiro_kinakoさんは、「朝の並木道」で登場人物が「約束する」、「プレゼント」という単語を使ったお話を考えて下さい。

恋愛・お題「深夜のエレベーター/頭を撫でる/靴」

#twnovel 深夜のエレベーターは気味が悪いが、喧嘩して出てきた彼の部屋にも戻れない。扉が開いた瞬間、何かが私に飛びかかってきた。悲鳴を聞きつけた彼が駆け寄ってくる。よほど慌てていたのか、彼は靴を履いていなかった。「戻ろうか」捉まえた迷い猫の頭を撫でる彼。「うん」猫に感謝。


「恋愛お題ったー」を利用したフォロワーさんのお題をいただきました。付け加えられた「猫」も仕込みました。

それ頂きます。 #rendai RT @doro_tw: @hiro_kinako 自分も入れてみました。「深夜のエレベーター」で登場人物が「頭を撫でる」、「靴」という単語を使ったお話を考えて下さい。 ・・・・・・・・猫?

時計マニア

#twnovel その男はいつも時間を気に掛けていた。家族との団欒も仲間との語らいも、病気で寝込んだ日も親の今際の際にも。死後、彼は内側に時計が埋め込まれた柩に埋葬された。土の中で二本の針は延々と時を刻み続ける。彼が好きこのんで時計を見ていたのかは、今となっては知るよしもない。

2011年3月3日木曜日

関白亭主君

#twnovel 甦る昭和の遺産、「関白亭主君」登場。甲斐甲斐しい女房役を演じてみたい女性の間で今、静かなブームだ。一定時間無視を決め込むと自動的に電源を切るエコモードを搭載しているので、思ったほどの煩わしさはない。しつけ次第ではゴミ出しをさせる事も可能になる。

うちのお雛様

#twnovel 「どうしてうちにはお雛様がないの?」病院からの帰り、幼い息子に訊かれた。「うちに女の子はいないでしょ?」「だってママ女の子じゃん」盲点だった。スーパーで雛あられを買い家路に就く。夫が帰ったら報告しなきゃ。うちも来年は雛人形を飾るかもね。そっとお腹に手をあてた。

携帯民主化装置

#twnovel 電源を入れると半径10mの範囲内が民主化される「携帯民主化装置」。学校や職場内での円滑な人間関係を目的とした製品だが、発売されるや否や、鬼嫁に怯える軟弱亭主たちの間で空前の大ヒット。中身が分からないよう、送り主を個人名で発送してくれる点も気が利いている。

卵かけご飯の素

#twnovel 「卵かけご飯の素」発売。ご飯と卵を用意するだけの簡単クッキング。日本中が歓喜の渦に湧いた。※通常の醤油としてもお使いいただけます。

2011年3月2日水曜日

替え玉受験

#twnovel あの大学に入りたい。しかしカンニングや替え玉受験なんてバレるに決まっている。そういえばあの店は替え玉をしてくれると聞いた。「いらっしゃい」まだまだ寒いこの時期は温かいラーメンに尽きる。替え玉をおかわりして店を出ると既に日は暮れていた。ラストスパート、頑張ろう。

生命ブローカー

#twnovel 死にたいと悲観する人から命を買い取り、生きたいと願う人に売りつける生命ブローカー。ちょっとした小遣い稼ぎになるため、死神たちの間でブームになっている。景気が悪くなると命を手放す人が増えて大忙しだ。買い手はいつの時代も宗教家が圧倒的多数を占めている。

ノロノロウィルス

#twnovel ノロノロウィルスが猛威を振るっている。感染すると動作が鈍くなるのが特徴で、周りが大変迷惑する。感染者は増え続け国は対策に苦慮したが、ある日を境に対策室は解散した。感染者が多数を占め社会の標準となり、非感染者が「落ち着きのない人」と呼ばれるようになったのだ。

2011年3月1日火曜日

失言防止帽子

#twnovel 日本が誇る技術の粋を結集して開発された「失言防止帽子」。被った政治家は皆沈黙し、詐欺師はより雄弁になった。いずれにせよ、被った人間には近づかない方が身のためだ。日本の技術力が小型化を求めて進化しないことを願ってやまない。

別れの季節屋

#twnovel 春になると横行する「別れの季節屋」には注意が必要だ。彼らは「出逢いの季節屋」と共謀し、人々の間を切り裂いては無作為にくっつける。この時期に繁盛する「新生活屋」の顧客名簿が流出しているというのがもっぱらの噂だ。なお、「歓送迎会屋」もグルである。

卒業(4)

#twnovel 最後のホームルームが終わっても、僕は教室を離れる気にはなれなかった。笑顔と涙と歓声とで溢れかえる校門前をベランダから見下ろす。どうして皆、卒業していくのだろう?背後から足音が近づいてきた。「まだこんなところにいたんですか。下で皆が待ってますよ、先生」

卒業(3)

#twnovel 最後のホームルームが終わっても、僕は教室を離れる気にはなれなかった。笑顔と涙と歓声とで溢れかえる校門前をベランダから見下ろす。どうして皆、卒業していくのだろう?ふいに背後から足音が近づいてきた。「ねぇ知ってる? この教室、昔亡くなった生徒の地縛霊がいるんだって」

卒業(2)

#twnovel 最後のホームルームが終わっても、僕は教室を離れる気にはなれなかった。笑顔と涙と歓声とで溢れかえる校門前をベランダから見下ろす。どうして皆、卒業していくのだろう?溜め息をついた僕に先生が言った。「気の毒だが、お前の卒業証書は追試の結果が出てからな」

卒業(1)

#twnovel 最後のホームルームが終わっても、僕は教室を離れる気にはなれなかった。笑顔と涙と歓声とで溢れかえる校門前をベランダから見下ろす。どうして皆、卒業していくのだろう?振り返ると、空っぽになった教室に一陣の風が吹き抜けた。砂埃の中に、微かに春の香りがした。

2011年2月28日月曜日

S-Fマガジン リーダーズ・ストーリィ投稿

本日投稿しました。5ヶ月振りです。
リーダーズ・ストーリィは今回で33作目の投稿です。
いつもと同じ銘柄の封筒を使い、いつもの書式で、いつもの郵便局から、いつも通り速達で。
毎回決まったルーチン。ゲン担ぎにも程があります(笑)。

今回の投稿分を足すと、今までの投稿原稿量が400字詰め原稿用紙換算で200枚に達しました。
33本も書いて200枚というのが、いかにもショートショートですね。

リフォーム

#twnovel 「○○市の空き家で、リフォーム中の作業員が遺体を発見したそうだ。うつぶせの状態で、既に白骨化していたらしい」「孤独死ってやつか」「解明は難しそうだぜ。何せ、死後2万年程度経過していたそうだから」「その手の作業、リフォームじゃなくて復元って言わないか?」

2011年2月27日日曜日

人選

#twnovel 「部長、今回のプロジェクトの人選、再考願えないでしょうか?」「何か問題でもあるのかい?」「私、あの人達と一緒に仕事はできません」は、はくしょん。「相性が悪いのか」「相性というより体質です」ずるずる。「杉山、杉村、杉田、杉崎、大杉……体質ねぇ」チーン。

2011年2月24日木曜日

春が来た

#twnovel 春が来た。久しぶり、と言って私は彼を招き入れる。地球上を旅してまわったこの一年間の彼の話を、暖かいそよ風を身体中に感じながら私は受け止める。やっぱり彼が一番だ。別れてから付き合った3人のことは、もう遠い思い出。新しい服に身を包み、私は新しい一歩を踏み出す。

金食い虫

#twnovel 友人が飼っていた金食い虫が卵を産んで増えたので、軽い気持ちで僕も飼育を始めてみた。お金や貴金属類を好んで食べる。たちまち家計は破綻した。やがて成虫になり卵を産み、僕は引き取り手を探しに奔走した。虫はいなくなったが、僕は友人を失った上に一文無しだ。

身代わり君

#twnovel 何でも代わってくれるロボット『身代わり君β』。仕事も人付き合いも、嫌なことは全てこの一台に。やがて遊ぶことにも飽きた人々は、人生までも身代わりさせた。『身代わりくんsp1』がリリースされた今日現在、地球上に人間の姿は既になく、世界は身代わり君達で溢れている。

話の種

#twnovel その売れない作家は、救いを求めて話の種を買いに行った。種はどれも高価で手が出ない。見かねた店主が言った。「規格外の半端物なんかどうです?何が育つかはお楽しみ」作家は早速話の種をまいた。やがて芽が出て物語が進み出したが、どうもおちつかない。

2011年2月22日火曜日

列車

#twnovel 人は亡くなると、送ってきた人生にふさわしい列車に乗り込み、来世へと旅立つのです。向かいに座る男はそう言った。慌ただしい人生を送ったビジネスマンは新幹線に、欲張らず穏やかに過ごした商店主は景色豊かな鈍行列車に。貴方は陽の目を見ない人生を送ってきましたね。ああ、だから僕は地下鉄に乗っているんだな。

猫の手

#twnovel 猫の手も借りたいほどに忙しい。ダメもとで申請したら幸いにも借りることができた。しかも3本も。2月22日、今日は猫の日なので1本サービスなのだという。しかも送料無料。

2011年2月21日月曜日

#twnovel 山で巨大な熊に遭遇した私は、ここで死ぬのだと観念した。病気、借金、一家離散。不幸続きの人生にふさわしい最期ではないか。しかし熊は私の不幸を舐め尽くすと満足気に去って行った。その後、私の人生は軌道に乗った。なるほど。人の不幸は蜜の味ということらしい。

ストレス

#twnovel 溜まったストレスの処分に困り、病院で診てもらった。「このシールをストレスに貼って、決められた日にゴミ集積所に出して下さい」僕の心を見透かすように医者が念を押す。「くれぐれも前日のうちに出さないように。猫やカラスに荒らされます」荒らされたらどうなるんだろう。

長者

#twnovel 庶民の夢、ジャンボ宝くじの当選金を相当額分の肉まんで受け取る方法が用意された。財布に入れっぱなしの末等をコンビニで肉まんに換えられるので、寒い季節などは重宝する。事前に連絡をすれば高額当選金を肉まんで受け取ることも可能だ。彼らは俗に「肉まん長者」と呼ばれる。

2011年2月20日日曜日

『セラエノの小さな物語』紹介文

公開中のアンソロジー『セラエノの小さな物語』に収録されている拙作を、執筆者の一人である齊藤想さんのブログにて紹介していただきました。
http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-02-18

ご覧頂ければ幸いです。

色々コンテスト

#twnovel 海苔人間コンテストや檻人間コンテスト、ソリ人間コンテスト、森人間コンテストなどが町おこしの一環として各地で開催され、概ね好評を博している。なお、ロリ人間コンテストの出場者は要注意人物として警察にマークされるので覚悟が必要だ。

海苔人間コンテスト

#twnovel 海苔人間コンテスト。ある者は海中に漂うさまを擬態し、またある者は自らを板海苔に見立て巨大なおにぎりに巻き付く。距離よりも観客受けを狙ったものが多いのが特徴だ。海苔なのに必ず高台から飛び立たねばならないのは、この大会が鳥人間コンテストだった頃の名残らしい。

2011年2月18日金曜日

味噌汁星人の襲来(完結編)

#twnovel 人類は種の存続を賭けて応戦し、味噌汁星人による危機は去った。しかしまだ残党が潜んでいるかもしれない。味噌汁は厳しく規制され、所持するだけで処罰の対象とされた。「旦那、いい味噌汁がありますぜ」薄暗い路地裏で男が僕に囁く。非合法組織、味噌汁秘密倶楽部の客引きだ。

味噌汁星人の襲来(後編)

#twnovel 飛来した味噌汁星人に扇動され、日本中の味噌汁が決起した。今こそ自由を勝ち取ろう、今日が味噌汁のインデペンデンス・デイ。政府は対応に追われ、生産工場や小売店などに混乱が見られた。「そんなお祝いの日なので、夕食は味噌汁抜きです」「何で味噌汁の肩を持つんだよ」

味噌汁星人の襲来(前編)

#twnovel 我々味噌汁星人は地球の代表政府に対し、正式な協定締結を前提とした交渉の場と、一部の島国で日々殺戮を受けている同胞達の即時解放を要求する。「ねぇ、味噌汁と味噌汁星人の違いって何?」「放っておくと冷めちゃうのが味噌汁で、いつまでも温かいのが味噌汁星人」

離脱届け

#twnovel 五臓六腑が離脱届けを提出してきた。「『摂生』の誓いは何だったのか?連日の暴飲暴食は公約違反だ!」俺は受理を拒否。しかし彼らは俺の体には留まるという。「同じ摂生派の彼女と連携する。我々は先遣隊だ。2回生臓器もいる」やがて脳も同調し、俺は彼女にプロポーズした。

2011年2月17日木曜日

完全自動洗濯機

#twnovel 洗濯、乾燥だけでなく、衣類の取り出しと畳んでタンスにしまうところまでやってくれる完全自動洗濯機が登場した。120%主婦目線が売り文句だったが、発売後まもなくしてリコールされた。「原因は?」「親父の下着を一緒に入れると洗ってくれないんだよ」

全自動無人タクシー

#twnovel 念じるだけでルートも行き先も設定できる全自動無人タクシー。懐かしい街に降り立った僕は、学生時代の下宿までの道のりを想い描き目を閉じた。駅前通りを抜け、あの角を曲がって橋を渡り…。「最近多いなぁ。ナビより記憶を優先した事故」引き揚げに立ち会った警官がぼやく。

目覚めると

#twnovel 目覚めると朝になっていた。ニュースを見ながら朝食を摂り、身支度をして家を出る。午前の仕事はいつまで経っても終わらず、あまりの空腹に倒れそうになる。テレビは延々と朝のニュースを繰り返している。早く昼になりたい。

無料です

#twnovel この世界で暮らすための基本料は無料です。誰でも一定レベルの衣食住を享受できます。それ以上のものを望んだとき、はじめて料金が発生する仕組みになっています。卒業したら職に就きます。無給です。楽な仕事は有料となります。必要なお金はスポンサーサイトに登録して楽々ゲット。

アイディアが浮かばない

#twnovel 一緒に泳いでいたアイディアが一向に浮かんでこないので心配になって通報した。レスキューによる捜索の結果、奥底でしがらみに縛られていることが判明。「しがらみを取り除きますか?」熟考の末、僕は断る。自力で浮上できなければ、きっとまた同じ事を繰り返すことになる。

2011年2月16日水曜日

正直人間発見器2

#twnovel 嘘発見器の原理で発想の転換を図った新商品「正直人間発見器」。組み上げた試作品を手に街に出た。学生、店員、役人、先生、相撲取り…発見器が正いなら、正直な人間なんて誰もいない。落胆した僕の前でメーターが大きく振れた。あ、これはただの「赤ちゃん発見器」じゃないか。

正直人間発見器

#twnovel 嘘発見器の原理で発想の転換を図った新商品「正直人間発見器」。組み上げた試作品で社内の人間を相手にテストを始めたのだが、誰ひとりとしてメーターの針は振れない。おかしい、設計は間違っていないはずなのに。試しに自分にセットしてみた。メーターはピクリとも振れない。

2011年2月15日火曜日

揮発脳

#twnovel 私の脳は揮発脳。あなたと共につくる思い出も、何もかもすっかり忘れてしまうの。涙を浮かべる彼女に僕は優しく囁く。大丈夫、僕が全て覚えていてあげるから。本当?約束よ。心配するなって、どうせ君は覚えちゃいないんだから。

こちらを見ている

#twnovel 通勤時にバスの中から景色を眺めていると、毎朝決まってビルの隙間からこちらを見ている人がいる。幽霊じゃないのかと同僚に笑われ、僕は降りて確かめてみることにした。そこには誰もいなかった。奥に足を踏み入れると背後で車の列が動き出した。バスの中から僕がこちらを見ていた。

当たり

#twnovel 自販機で珈琲を買ったら当たりが出た。再び灯るランプを呆然と眺め、私は無意識にボタンを押していた。人生最後の1本を楽しもうと心に決めていたのに、掌の中の温かい珈琲は2本になった。1本目を飲み干すとバスが来た。ぬくもりの残るもう1本を握りしめ、私は帰路に就く。

2011年2月14日月曜日

セラエノの小さな物語 〜小説現代、S-Fマガジン常連掲載者5人の送るショートショート集〜


講談社の小説現代「ショートショートコンテスト」、および早川書房のS-Fマガジン「リーダーズ・ストーリィ」の常連掲載者によるショートショート・アンソロジーが公開されました。無料です。ぜひご覧下さい。
http://p.booklog.jp/book/20147

参加者のひとりである齊藤想さんによる紹介文はこちらです。併せてどうぞ。
http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-02-12

記念日

#twnovel 誕生日、付き合い始めた日、結婚記念日…数ある記念日を覚えやすい日にまとめるサービスが登場した。つい忘れてしまいがちな男性の間で特に人気らしい。私は彼をその店に連れて行った。「人気があるのは12月24日とか2月14日ですか?」「いえ、ダントツで2月29日です」

感情

#twnovel 軒先に並べて吊しておいたこの先1年分の感情を、ふと目を離した隙にカラスに全て食べられてしまった。それ以来、家の周りは喜怒哀楽豊かなカラス達で賑やかだ。悲しみに暮れたカラスがたまに僕の元にやってくるが、感情を失った僕には彼に掛けてあげる言葉が見つからない。

2011年2月12日土曜日

カレーパン

#twnovel 麗しのマダムを夢見ていたのにうっかり加齢パンを食べ、私はお婆さんになってしまった。慌てて華麗パンを口にして老貴婦人になることができた。それから私は若い子に青春の大切さを説いてまわっている。彼女らを見る私の両目が右に寄っているのは間違えて鰈パンを食べたせいだ。

バイキング

#twnovel 朝食には人生をバイキング形式でいただく。中流家庭に生まれ、公立校で平凡に過ごす。クラブ活動は補欠でいい。中の上ランクの大学を経て中小企業に拾われる。幼なじみと再会し結婚するのが人生最大のイベント。定年後に妻を亡くした後はひっそり暮らそう。どうせ昼食までの人生だ。

悲しみの種

#twnovel 悲しみの種を蒔いたら失意という名の芽が生えた。絶望の水をせっせとやるとやがて未練の花が咲きだした。別離の実を収穫し後悔で味付けすると、そこはかとなく忘却を名乗るソムリエが講釈をたれた。そして僕はまた悲しみの種を蒔く。

2011年2月10日木曜日

発見されたその貝はホタテによく似た形をしていた。調査の結果新種と認定され、その見た目と発見者である照井さんの名前を組み合わせて「ホテル貝」と名付けられた。何だか卑猥な響きがある。 #twnovel

化石

遺骨を化石風に加工して埋葬するサービスがこの時代にもやってきた。未来人へのドッキリとして骨格を大きく引き伸ばすオプションが選べる。担当技師は以前恐竜を相手にしていたと言う。サンプルで見せられた恐竜の化石が元はちっぽけな小動物だったと知って、僕は少しガッカリした。 #twnovel

牛丼屋

「おまえら牛丼屋はどこが入りやすい?」「僕は吉野家かな。定番の味って感じがするし」「私は松屋ね。食券制だから女性でも気楽に入れる。あなたは?」「断然すき家だろう。深夜でも店員が一人しかいないし、レジも一箇所に集中しているからな」「そっちかよ!」 #twnovel

小学校

息子が小学校になった。とても家には入れないので、私達夫婦は毎日息子のもとに通った。春になるとお友達が大勢入学してきた。6年が過ぎ、大きく成長したお友達は皆卒業していったが、息子は相変わらず小学校のままだ。 #twnovel

バレンタインデー

バレンタインデーはメールも電話にも出ずに家に籠もる。誰からもチョコを貰えないのは女の子が俺に会うことができないからだ。そう考えることによって、俺の自尊心は辛うじて保たれる。「じゃあ次は、返す相手もいないのにホワイトデー売り場をウロつく理由を聞かせてもらおうか」 #twnovel

あなたがそばにいれば

あなたがそばにいれば、他に何もいらない。大恋愛の末、私達は結婚した。あれから40年。あなたが蕎麦に入れ歯を落とした。もはやあなたすらいらない。 #twnovel

祖父の血

私の血はワインが流れているの、と称する女優のファンだった酒豪の祖父は、常日頃から自分の血は日本酒が流れていると語っていた。祖父が倒れたその晩、僕は点滴の中身を日本酒に入れ替えた。医師の処置も虚しく祖父は亡くなったが、僕は満足している。祖父も喜んでいるに違いない。 #twnovel

2011年2月9日水曜日

Twitter小説はじめました

Twitter小説、ついのべなるものをはじめてみました。
短くても1作書くのには1アイディア必要なわけで、短時間で書けるとはいえ幾つも書き上げるには相当なエネルギーが要るのではと躊躇していたのですが、いざ書いてみるといい気分転換になるんですね。

書いたものは随時blogにアップします。
更新も滞りがちですので、賑やかしにでもなれば。

買わなかったことに

過去に買った物を買わなかったことにするサービスが開始された。金に困っていた僕は学生時代に夢中になっていたギターと着なくなった服を買わなかったことにした。買った際に支払った金が戻ってきたが、同時に僕は学生時代の思い出と友達を失った。服を買いに行く為に着る服もない。 #twnovel

10円ランチ

10円ランチの店が登場した。デフレ競争もここまできたかと感心したが、食べてみた同僚に聞くとメニューは1種類しかないらしい。同僚は毎日せっせとその店に足を運ぶ。いくら何でも飽きるだろうと思って別の店のランチに誘ったが断られた。「悪い、2年縛りなんだよ」 #twnovel

水槽

水槽から出してくれと金魚に頼まれた。無理な相談だと断ると、お前も同じ目に遭わせてやると悪態をつかれ、外の景色が水中に変わった。その後も相変わらず僕は金魚の世話をしている。元々引きこもりの僕の生活にさしたる変化はない。ときどき天井からふりかけが降ってくるくらいだ。 #twnovel

定理

自分の言い分を相手に納得させる定理が発見された。今まで口べたで損な人生を送っていた自分にも、これからは明るい未来が開けるに違いない。意気揚々と出社した僕は上司からリストラを宣告され、婚約中の彼女には振られ、親からは勘当された。 #twnovel

心残り

僕には心残りがあった。卒業までに彼女に告白しなければ。意を決し深夜の校庭に向かう。桜の木の下を優しく掘り出し、あの日と同じ場所にいる彼女にありったけの勇気を振り絞る「ずっと好きでした」。卒業式、生徒会長の僕は彼女の遺影と共に入場した。僕たちは一緒に卒業したのだ。 #twnovel

いつまでも降り止まない雪への対抗策として、雪をなかったことにする薬が開発された。飲むと視界に入る雪が認識できなくなる。豪雪地帯に住む人々はこぞって服用し街は穏やかな日常を取り戻したが、今度はスリップ事故や家屋の倒壊が多発した。その原因は誰にも分からない。 #twnovel

2011年1月29日土曜日

小説現代ショート・ショートコンテスト投稿

小説現代ショート・ショートコンテストに投稿しました。
実に1年半振り4度目の投稿です。
はてさて、今回はどうなることやら…。

因みに投稿する際は、いつも同じ銘柄の封筒を使い、同じ郵便局から、必ず速達で出すという自分的決めごとがあります。
今日の夜に郵便局に持ち込んだところ、局員さんに
「今日は終了しましたので、 速達でも普通でも届くのは明後日になりますけど、それでも速達にしますか?」
と言われました。
うーん、普通でも確実に月曜日に届くのならそれでいいのですが、速達より早く届くことはありえないだろうと結論を出し、それなら確実に月曜日に届くであろう速達をチョイス。
まぁ、ただのゲン担ぎです。

2011年1月27日木曜日

小説現代ショート・ショートコンテスト

今年は真面目に投稿しようと決意しつつも、1月も残り僅かとなってしまいました。
昨年の9月に投稿したきりになっているリーダーズ・ストーリィへの投稿が急務と考え、頭をひねること1週間……。どうもうまくいきません。

その代わりというわけではないのですが、取り立てて投稿する予定がなかった小説現代ショート・ショートコンテスト向きの作品が思いがけず形になってしまったので、こちらを先に仕上げているところです。

ショート・ショートコンテストはまだ3作しか投稿していませんが、これまでのところ箸にも棒にも引っかかっていません。
はてさて、どうなることやら。

2011年1月25日火曜日

投稿常連組によるショートショート・アンソロジー

講談社の小説現代「ショートショートコンテスト」、および早川書房のS-Fマガジン「リーダーズ・ストーリィ」の常連投稿者によるショートショート・アンソロジーに参加します。
詳しくはこちら。

一田和樹 コンタクトポイント
http://kazukiichida.blog96.fc2.com/

主催した一田さんは上記「ショートショートコンテスト」の常連入選者であり、また「島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞し作家デビューが決まっている実力者です。

この企画は、パブーで無料アンソロジーとして公開される予定です。
参加者の一人として非常に楽しみです。