2012年8月31日金曜日

もう一度海を

#twnovel もう一度海を見たいと言うから、夜の海岸線をドライブした。「暗くて何も見えないじゃない」溜め息交じりの文句はいつしか寝息に変わっている。潮騒の音色を子守歌代わりに見る夢の中では、この浜はきっと昔のまま。闇の中では表情は読めない。見られないから泣ける。今だけは。

分からないよね

#twnovel 小さな駅舎を出ると頼れるのは数えるほどの街灯だけ。つい先日まではまだ明るかった時間帯なのに、気づかぬ間に季節は進んでいる。「夜道を歩く心細さ、男の子には分からないよね」そう言う彼女の手に思い切って触れてみる。夜道でよかった。この気持ち、女の子には分からないよね。

押し売り

#twnovel 夏が居座っている。「帰らねえって言ってる訳じゃないんだ」差し出されたのは「連続真夏日10日間+1日」の回数券。ふいにベルが鳴る。助けを求めに表に出るとそこには恐縮顔の秋の姿。「商売の邪魔すんなよ」振り向いた夏が秋を追い出し、私は目眩を覚えた。これはたぶん熱中症。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕の古びた礼服を新調しろと言う。近々身内に不幸があるらしい。誰なんだろう? 不安になって家族や親戚の顔を思い浮かべていると彼は言った。「あ、主役は着なくていいのか」

目覚めると

#twnovel 目覚めると水の中にいた。「身体を交換しようって言ったよね」水槽の外で俺が笑う。そう言えば酔って金魚に愚痴をこぼした気がする。「電車って物に乗って、広く世界を知りたいんだ」そう言って彼は家を出た。「でも帰ってきたんだよね?」「うん。満員電車より水槽の方が広いって」

2012年8月25日土曜日

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 思い返せば、付き合っている間はずっと彼女に振り回されっぱなしだった。落ち込む姿を慰めては「今じゃなくて昨日言ってよ」、「時の彼方からでも飛んで来てよ」なんてことも言われたっけ。それを真に受けて相手をした俺も、今思うと若かったな。「ハザマさん、考え事?」「いや」

夏の終わりに

#twnovel この夏、何度この店の暖簾をくぐっただろうか。「もう終わりなのね」「…そうだな」いつかこの日が来るのは分かっていたのに、再会に浮かれ頭から追いやっていた。でもけじめは必要。自然消滅じゃ後味が悪いから。二人一緒に店を出る。…「冷やし中華終わりました」の貼り紙を見て。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、就活中の僕のもとに採用通知が届くと教えてくれた。浮かれる僕を見て彼は言った。「そんなに喜んでもらえると教えた甲斐があったというものだ。来年どこに受かるかも教えてやろうか?」

再生紙

#twnovel 再生紙を使ったペーパーアイテムが人気だと聞かされて驚いた。エコだの言ったところで所詮ポーズであって、彼の職場である結婚式場は見栄と体裁が幅を利かせる場のはずだ。世の中も変わったなと感心していると彼は笑った。「洒落のつもりらしい。再婚同士のカップルがよく選ぶんだ」

自由研究

#twnovel 夏休みも終わりに近いというのに、小学生の息子は自由研究に取り組む様子もない。妻に話を聞くと、毎日友達の家を遊び回っているという。気になって問いただすと、息子はけろっとした顔で言った。「クラスのみんなの自由研究の進み具合を毎日調べているんだ。それが僕の自由研究」

24時間テレビ

#twnovel 家電量販店で「24時間テレビ」を見掛け、気になって店員に訊いてみた。「このテレビは組み立て式で、完成までにおよそ24時間かかります」「電源を入れると、24時間だけ番組を視聴することができます」声を潜めてさらに続けた。「愛は地球を救えませんが、仕様です」

#twnovel とある探検家が山奥で朽ち果てたテントを発見した。苔むしたトランクの中から一冊の日記を探し出す。「○月×日、ついにきのこの山を発見した。信じられない、これは現実なのか」日記を閉じた彼はおもむろに防毒マスクを着用し、満面の笑みを浮かべた。「よし。たけのこの里も近いぞ」

おにぎり星人

#twnovel おにぎり星人襲来。彼らはおにぎりに擬態し店頭の商品に紛れ込ませ、自らを捕食させることで相手の身体を乗っ取ってしまう恐ろしい生き物だ。ただし、地球のコンビニおにぎりのパッケージの進化にイマイチ追いつけていないため、包装が開けにくくあまり手に取られることはない。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、暇を持て余している僕を見て流しそうめんをやろうと言い出した。やめてよ、二人で流しそうめんなんてつまらないよ。そう言うと彼は頷いた。「じゃあ、ラーメンにするか?」

2012年8月13日月曜日

シーソー

#twnovel 僕らはシーソーの両端で愛を育んできた。一方が近づけばバランスが狂い、もう一方に大きく傾ぐ。呼吸を合わせお互い歩み寄る。刹那の抱擁と引き替えに得たのは不安定な二人の未来。「遠くから見つめていれば幸せだったのにね」そう笑う君の目尻に皺が見えた。大丈夫、今も幸せだよ。

ハザマさんスピンオフ

#twnovel 突然の別れを告げられた後も、雑踏の中で度々君の姿を見掛けた。思わず伸ばす手はいつも、立体映像のように君の体をすり抜けていく。「これからは別々の世界で生きましょう」いかにも有言実行型の彼女らしい。彼女は今、どの次元にいるのだろうか。「ハザマさん、考え事?」「いや」

巻き戻して

#twnovel この店を出たらしばらく彼女と会えなくなる、そう思うと胸が熱くなる。神様、時間を巻き戻して!「その願い、叶えた」ふと我に返ると、彼女は今飲み終えたばかりのコーヒーをカップに吐き出し始めた。呆気にとられる僕の前で、今度はスプーンを口に運び、そこからシャーベットを…。

冷やし中華星人

#twnovel 冷やし中華星人襲来。彼等は自らを他の生物に捕食させ、体内から弱らせる恐ろしい生物だ。誤って彼等を口にした人間は下痢や吐き気などを催す。だが見分けるのは容易だ。冷やし中華は元来冷たいものだが、恒温動物である冷やし中華星人は生ぬるい。「先生、それたぶん痛んでます」

心頭滅却すれば

#twnovel 「心頭滅却すれば、って話」「今どき精神論? 熱中症ヤバいって」「でも人類はそろそろ肉体を捨て去るべきだよ」「今みたいに?」ひとしきり笑い、友人のアバターと別れた。12時の時報に腹が鳴る。唸りを上げるPCの電源を落とし、冷蔵庫を開けた。肉体はお昼を必要としている。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、家でゴロゴロせずに出掛けろと言う。嫌だよ、暑いし。エアコンが利いた部屋で過ごすのが一番。そう答えると彼は言った。「あれが壊れることを先に教えた方がいいのか?」

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、今日は土用の丑の日だから「う」のつく物を食べろと言う。知ってるよ、でもうなぎ食べるお金なんてないんだ。寂しくカップラーメンにお湯を注ぐ僕に彼は言った。「うどんもあっただろ」

2012年8月2日木曜日

みちのく怪談コンテスト2010傑作選

今夏刊行される「みちのく怪談コンテスト2010傑作選」(荒蝦夷刊)に、拙作が収録されることになりました。
2010年に開催されたコンテストの応募作の中から、遠野物語にちなんで119編が収録されるとのこと。

荒蝦夷さんは仙台にある出版社です。本書は昨年春に刊行される予定でしたが、東日本大震災の影響により遅れていました。
本日、ゲラを送り返したところです。発売日は未定ですがとにかく楽しみです。

ちなみに昨年度開催された「みちのく怪談コンテスト2011傑作選」も刊行されるようです。興味のある方、ぜひご一緒に。

http://homepage2.nifty.com/araemishi/