2012年4月4日水曜日

遡行ヒーター

#twnovel 「遡行ヒーターを買ったんだ」「今さらヒーターなんか買うなよ」「それがこの機械、過去に遡って暖めてくれるんだ。凍える夜の記憶も暖かく変わる」「凄いな。凍死者宛てに送ってやれば命が助かるんじゃないのか?」「いや。警察の検証では熱で腐乱した凍死体が発見されたそうだ」

春

#twnovel 待ちわびた春がやって来た。矢も盾もたまらずに取り出し、幸せな気持ちに浸る僕の腕を傍らの彼女が突く。「ハンコ」我に返ると、対面のおじさんが微笑みを浮かべていた。「おめでとうございます」ありきたりな言葉に見送られ街へ駆け出た僕らは、手を取り合って2人の春を謳歌する。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼の素性を僕は何も知らない。ダメモトで誕生日を聞くとすんなり教えてくれた。え、今日なの? お誕生日おめでとう!祝福すると彼は急にそっぽを向いて俯いた。「エイプリ…いや何でもない」

エイプリル・フール

#twnovel 今日は1日嘘をつく。2人で決めた他愛のないゲーム。ライブのチケット取れなかったんだ。「行きたくなかったし」僕のこと好き?「大嫌い」うん、僕もだよ。それじぁね。彼女の顔がみるみるうちに涙で歪む。ちょっと待って、嘘だってば。慌てる僕の前で悪戯な笑顔が咲く。「嘘泣き」

懐かしい道

#twnovel 学生の頃通った懐かしい道を2人で歩く。美味しい珈琲をいれる店、友達がバイトしていた古着屋に桜並木。少しだけ変わった景色に各々の記憶の断片をパッチワークのように貼りつける作業。交わることのなかった思い出を手繰り寄せ、見つめ合った2人はあの頃繋げなかった手を繋ぐ。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、1人暮らしのこの部屋を掃除しろと言う。ひょっとして近々彼女が出来て、家に呼ぶとかそんな展開? ニヤつく僕を彼は不思議そうな顔で見た。「母親が来るのがそんなに嬉しいか?」

思い出写真館

#twnovel 過ぎ去った人生の一場面を写真にしてくれる「思い出写真館」。父の顔を知らずに育った私は、両親と一緒の場面を注文した。まだ見ぬ父との対面に緊張しながら写真を受け取る。そこにはベビーベッドに寝かされた私と若かりし頃の母、そしてその肩に手を置く近所のおじさんの姿…。

逆立ち食いそば屋

#twnovel 天井付近に設置されたフックに足を掛け、逆さまに食べる「逆立ち食いそば屋」。物珍しさとバカバカしさが受け、逆立ち食いそば女子なるものまで現れた。しかし評論家の一人が「あれは逆立ちと言うより宙吊りではないか?」と疑問を呈した件を境にブームは終息し、店主は首を吊った。

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、新しい自転車を買えと言う。そうだね、新鮮な気分で春を迎えたいよね。早速カタログを眺めながらウキウキしている僕に彼は言った。「今、乗っているのは近々盗まれるから」

出会った日のこと

#twnovel 出会った日のことを貴方は覚えていない。喧嘩をするたびに出る彼女の常套句。そう言う君だって別れた日のことを覚えちゃいない。錯綜する時間軸の中で伸ばした手が繋がって、僕らは今ここにいる。刹那のすれ違いが永遠に続けばいいと願いながら、今日も2人で泣いて笑って喧嘩する。

旅

#twnovel 自分探しの旅に出掛けた兄が半年ぶりに帰ってきた。見つかったかと訊ねると、隣町の交番に届けられていたという。よかったねと声を掛け肩を叩く。心なしかひとまわり小さくなったような気がした。もしかして痩せた? 兄は笑った。「謝礼に1割払った。いいダイエットになったよ」

カウンセラー

#twnovel 世話人として有名な町内会長がカウンセラーに転身した。評判は相変わらず良い。やがて入居するマンションの前に頻繁にバキュームカーが駐まるようになった。「揉め事は水に流せば済むけど、人の気持ちは汲み取らなきゃね」そう彼は笑ったが、気持ちの行き先は教えてくれなかった。

命名権

#twnovel 歳入安定を目的として、国はあらゆる命名権を売り出した。その一つが干支である。条件は今までと読みが変わらないこと。1社が名乗りを上げ、翌年から十二支は「子・丑・寅・Wooo・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」となった。Hitachi Inspire the Next

2012年3月24日土曜日

お墓みたい

#twnovel 「お墓みたいだったわね」帰りに妻が口を開いた。検討中の物件はコンクリート打ち放しのデザイナーズ住宅で、確かに石棺を連想できる。でもそんな縁起でもない言い方ないだろ、君も気に入ったと思ったのに。口を尖らす僕を見て妻が笑う。「いいじゃない。お墓だって一緒に入るのよ」

あの頃の僕達は

#twnovel あの頃の僕達は、毎夜の長電話を「愛してる」で締めるのが常だった。そんな思い出に相応しい状況ではないけれど、それでも離婚調停中の妻との長電話はあの頃の思いを呼び戻した。受話器を置くのが少し怖い。最後の言葉に逡巡していると、耳元で懐かしい声が囁いた。「愛してた」